持ち込み
少し貯めてからフームは話し始めた。
「実は書いた小説を、思い切って出版社に持ち込んでみたんです!」
「持ち込み!あの小説を⁉」
「ハイ…」
フームの話を纏めると、例の小説「デーモンスレイヤークエスト‼」を、町にある出版社に持ち込んでみたという。俺とリリーナが面白いと言ってくれたので、チャレンジしてみたのだとか。が、結果は芳しくなかったという…
「ダメだったんですか?あんなに面白かったのに…」
彼女の作品を評価していたリリーナは、ダメだった理由がわからないといった風の顔をしている。
それに対しフームは、
「それが、対応してくれた編集者の人曰く…」
「曰く…」
「長過ぎるからダメと言われたんです!」
「長過ぎる!」
「えぇ、「上下巻位ならまだしも、全7巻分は多すぎる。そんな読み切るのに相当の時間がかかる本、好き好んで読む人はいない!」、「なのでウチじゃ扱えない!」と、一蹴されたんです…」
と、フームはしょげた顔で話した。
「あぁ、まあ確かに、全7巻は長いな…」
「そうですね、私も今まで沢山本を読んで来ましたけど、それだけ長い話は、お目にかかった事ないてすね…」
聞けばこの世界では、小説は殆どが一冊で完結するものが主流らしい。多くても上下巻位だ。元の世界のライトノベルみたく、長編で何巻も出してる作品はないらしい。
特に彼女の作品は、若い世代向けの内容だ。若い人はあまりにも長い話は敬遠される傾向があるとか…
「でも、こんなにも面白いんですから、もっと強く売り込んだらどうですか⁉もっとこう、売れる自信はあるとか、このシーンが見どころですとか!」
と、リリーナが言う。
彼女にしては、なかなか強気な意見だ。
それに対しフームは、
「押し付けると言いましょうか、どうもアピールするのは苦手で…」
と、言った。
確かに彼女もまた、ケティみたいに気は強い感じではない。リリーナやホリィ・ニコのように大人しい感じだ。
むしろ、持ち込みが出来ただけでも 頑張った方だろう…
「こんなに面白いのに…タイガーさん、どうしましょう?」
「う~ん、そうだな…」
俺は考えたが、なかなかいいアイデアは思い浮かばない。
悩んでいると、横で俺等の事なんてお構いなしにと言わんばかりに、昼食をむさぼり食うレオの姿が入った。
朝と打って変わって、マナーのマの字もない様子だ。まあ、行儀良くしているよりも、今の方がレオらしいと言えばらしいがな…
そんなレオの姿を見て、
「子供か…そうだな…」
「あっ、何か浮かびましたかタイガーさん⁉」
「いや、浮かんだってわけじゃないけど…」
「けど…」
「ここは1つ、子供率直な意見を聞いてみないか?」
「子供の!」
「あぁ、今のところこの小説を目にしてるのは大人ばかりだ。フームさん、これをお宅の子供達に読ませたことは?」
「いえ、ありませんが…」
「だろう⁉この小説はどちらかと言うと、若い世代、子供向けと言える。だったら、ターゲットである子供達が、これを読んでどう思うか。それが分かれば、何かしらの活路が見えるかもしれないだろ⁉」
「なるほど、言えてますね!」
「流石タイガーさん!」
「いやそんな大したことじゃ…」
このくらいで褒められるなんて、元の世界だったら考えられないな…
「まあそれは兎も角、レオ!」
「何だ…クチャクチャ!…タイガー…クチャクチャ!」
「食いながら喋るなって!」
俺はレオが口に含んだ物を全部飲み込んだ後、口を拭いてから、改めて、
「レオ、これ読んでみてくれ!」
「オレっちが!!」
「ああ、子供の意見を聞きたいんだ、」
「えー、めんどくせえよ!」
レオは、本当に面倒臭そうな顔をした。
「お願いレオくん、してくれたらデザートも追加で頼んでいいからね!」
と、リリーナがレオをデザートで釣ってきた。
「本当か!ならいいぞ!」
二つ返事答えるレオ。
リリーナ、レオの扱いに慣れてきたな…
そしておもむろに、原稿を眺めるレオ。果てしてどうなるか…
するとレオは、1分も経たずに、原稿にむけていた顔を上げた。
「もういいのかレオ⁉で、どうなんだ⁉」
「タイガー…」
緊張の面持ちで、固唾を飲んで見守るリリーナとフーム。
レオが口を開いた。
「オレっち…」
「……」
「字、読めねー!」
ズコーッ!!
俺はテーブルの上に思わず崩れ落ちた。リリーナとフームも同様。なんともベタな感じだ。まるで、どこぞの新喜劇みたいだ…
そう、読んで字のごとく、山育ちのレオ。言葉は山を行き交う人達の会話から覚えたので会話は出来た。が、字の読み書きは出来なかった。今までレオに字を書かせたり、読ませたりする機会が無かったのでの俺もリリーナも気が付かなかったのだった…