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感想

 「「面白い(です)‼」」


 俺とリリーナの意見が一致した。

 面白い。それが率直な感想だ。

 フームの書いた作品。作品名はその名も、


 「デーモンスレイヤークエスト‼」


 というものだ。主な話の流れは、


 山奥で母と慎ましくも幸せに暮らしていた1人の少年。父は少年が幼い時に亡くなった。それ以来、母ひとり子一人で生活してきた。ある日、そんな彼等の元に、凶悪な魔物が襲ってきた。それを少年の父の形見である剣で倒す。

 幼い頃から、剣などろくに握ったことないの、何故自分にこんな事が出来たのか疑問に感じる少年。すると母から衝撃の事実を聞かされる。

 少年は両親の本当の子供ではなかった。本当の父親は、広く名の知れた戦士だった。数多の悪の魔物を倒し、英雄とまで呼ばれた人物だった。そんな彼も、最後は強い魔物との戦いの最中、卑劣な罠にハメられ命を落とした。

 本当の母親は元々体が弱く、夫の死を知りショックで倒れ、そのまま後を追うように亡くなったのだという。

 そんな彼等の親友であり、子供がいなかった夫婦に残った子供は引き取られた。それが主人公の少年なのだ。

 少年には、父親譲りの剣の才能があったのだ。

 この一件を聞きつけた、王都の騎士養成学校から彼のもとに入学しないかと、スカウトが来る。

 最初は気乗りしない少年だったが、育ての母の進めもあって入学を決めた。そしてそこで、様々な出会いをする。

 後に親友となる者、いい感じの仲になる女の子、少年に何かとチョッカイをだしてくる嫌な奴、養成学校の教師陣等、様々な個性豊かなキャラクター達が出てくる。

 そんな環境で、立派な騎士を目指し、仲間達と切磋琢磨しながら成長していく物語。


 といった感じのものだ。

 ストーリー自体は、元の世界ではよくある感じのありふれた物だったが、あいにくこっちの世界では、そういった内容の小説は殆どお目にかけないので、懐かしくもあり、なおかつ新鮮な感じだった。

 故に俺には純粋に楽しむことが出来た。

 一方のリリーナは、


 「主人公がお母さんを守るために、形見の剣を手に取り、勇気を振り絞って魔物に挑むシーンなんか特に、胸が熱くなりました!」

 「えぇ、主人公が自身の秘めたる才能に気付くきっかけとなる大事な場面ですからね!」

 「それから養成学校に入学するため、生まれ育った家を出る決意をし、出発の前夜にあ母さんと話すシーンなんですけど…」

 「そこは、私が実家を離れる時のことを思い出しながら書いたんです。私の家は母子家庭でして、母が女手一つで育ててくれたんです。」

 「それじゃあ、フームさんの実体験がモデルなんですね。」

 「えぇ。だから自分で言うのもなんですけど、お気に入りのシーンです。」

 「分かります!特に主人公を送り出す際、「血は繋がってなくても、あなたは私達夫婦の子よ!」っていうシーン。更に主人公も、「誰が何と言おうとも、何があっても母さんは母さん、亡くなった父さんも僕の父さん。2人が僕の両親であることにちがいはないから…」って、言うシーンが良かったですよ。感動して、そこで思わずホロリとしちゃいました!」

 「ですよね!そこは特に気合と力を入れて、納得の行くまで何度も何度も書き直したんです!」

 「で、養成学校に入学して…」

 「…そうそうそこは…」

 「………」


 リリーナもフームも、小説の話に没頭している。

 その横で俺は、完全に忘れられてように座っている。

 そう言えばリリーナの故郷の町でも、友人で図書館の司書をしているニコとよく読んでる本の事を話してたな。これからの展開を考察したり、読み終えてからそれぞれの書評を発表したりしている。「この部分が今後の伏線になってると思う」・「良かったけど、この部分の伏線が未回収だったのが残念」・「ラストが急ぎ過ぎで最後の部分の内容が薄い」・「展開が強引すぎた」等といったものだ。大人しい性格の2人にしては、結構な辛辣な感想のものも多い。

 それはいいんだが、困った点はそれを始めると長くなることだ。リリーナは普段はそれ程口数は多い方ではないが、それを始めると途端に多くなる。何時も軽く数十分は続くのだ。

 本人達は楽しんでるから良いかもしれないが、それを横で聞かされる方はたまったもんじゃない。

 俺は少しげんなりしてきた。


 「で、最初の実技の授業で…」

 「この部分って、もしかして後の展開に関係ありますか?」

 「それは…」


 案の定、長丁場になりそうだ。俺はそう予感した。

 それは当たった。2人の話は40分を超えた。


 「あ~…長いな…新記録だな…」


 俺が指でテーブルコンコン叩いている。

 それを見つめるレオ。手にはパスタの皿を持っており、ズルズルと音を立てながら食っている。


 「タイガー、どうした⁉腹でも減ったか?」

 「いやそうじゃな…ん、レオそのパスタは…」


 パスタは俺等もフームも頼んでない。


 「あぁ、待ってる間にまた腹減ったから、頼んだ!」

 「頼んだって、何時の間に…」


 伝票差しに刺さった伝票を見ると、パスタだけでなく、他にも頼んだ品の数が増えていた。


 「レオ…お前な…誰が金払うと思ってんだよ…」

 「??…」


 呑気に食い続けるレオ横に、待ちくたびれたのと金銭面、ダブルでダメージを受けた俺は、そのままへたり込んだのだった…



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