フーム
俺とリリーナは、原稿用紙に書かれた小説を読み始めた。
小説の作者である彼女はというと、緊張の面持ちで俺等の様子を伺っている。
一方なレオの奴は、残った料理を美味そうに摘んでいる…
小説を読み始めた俺達を顔をジーと見ている彼女。
彼女の視線が余りにも気になっていると、
「あの…そんな風に見られてると、気になって小説の内容が入ってこないんすけど…」
リリーナが軽めに注意した。
「あっ!ごめんなさい…つい気になって…」
「読み始めたばかりですし、時間がかかるので、ゆっくりリラックスして待っててください。」
「ハイ…それでは、急いでませんのでお二人もゆっくりと読んで下さい。」
リリーナにも言われ彼女は椅子にゆったりと座り、注文し直したコーヒーをゆっくりと飲み始めた。
彼女の名前はフーム。先程も言っていたが職業は主婦。土建の仕事をしている夫と、2人の子供(男女の兄妹)を持ついたって普通の主婦と本人は言っている。
リリーナやニコと同様、元々本好きで子供の頃から、絵本を始め沢山本を読んできた。
学生時代は、取り立てて目立たないが、かと言って、影が薄いと言うこともない。
友人もそれなりにいる。
大人になると、今の旦那さんと普通に恋愛した末に結婚。
数年後に妊娠し、無事長男を出産。
翌年2人目の子供(長女)を授かる。
そして、今に至る。
と、こんな感じの人生らしい。なるほど…
はっきり言って、いたって普通だ!いっちゃ悪いが、濃くもない薄くもない、いたって平凡な人生だ。
平凡だけど、人並みに幸せをつかめたので、今の生活にこれと言って、不満は無いとのこと。
そんな彼女が小説を書いているのかというと、元々読んだ本の内容を自分の頭の中で膨らまて、オリジナルの展開を加えるなどし妄想することは良くしていた。
そんなことしていて、ある時、ふと1つの物語が頭の中に浮かんだのだという。それも、結構な長編をだ。
それがきっかけで、自分でそれを1つの小説にしてみたい。
読む側から、今度は話を作る側になってみたい。
そう思いたち、家事の合間などに時間を作り、ひたすら小説にしたためている。
ただ家だと子供達や旦那がアレコレと言って来たりするので、余り執筆がはかどらないのだという。
しかし今日は、子供達は親戚の家に泊まりに行き、旦那も仕事で遅くなるとの事で、この店で執筆作業に集中して、勤しんでいたのだとか。コーヒーとサンドイッチを注文し、コーヒーをちびちび飲みながら作業していた。が、サンドイッチは作業に夢中になるあまり、全然手を付けてなかったようだ。
それをレオが盗み食いし、俺等が謝りに来たが、作業に集中し過ぎて俺等の存在と声に全く気付かなかった。が、レオがちょっかいを出したので流石に気付いたが、突然の事で悲鳴をあげ、軽く騒動になった。
とまあ、これが彼女が俺等と関わり合うまでの経緯だ。
そんでもって俺等が今読んでいる小説。それが今の話にも出てきた小説だ。
因みに今読んてるのは、物語の第一幕くらいだとか。それでも結構な量だ。聞けば本人の予想では全7巻位にはなると思うそうだ。
処女作とは思えないぐらい、随分と力が入っているみたいだ。
そんなこんなで俺等は一先ず、切の良いところまで読み進めた。
そこまで読んでから、
「フームさん、切の良いところまで読ませてもらいました!」
「流石に全部はココで読みきれないから、取り敢えずここで一区切りさせてもらうんで。」
「えぇ、それでどうでしょうか⁉」
フームが再び緊張の面持ちをして聞いて来た。
「そうだな…じゃあリリーナから感想を述べてくれ!」
「えっ、いえタイガーさんからどうぞ!」
等と互いに押し付け合いになった。
おまり押し付けあっていると、フームの顔が少しくもりだした。
このままじゃ、感想述べたくないくらいつまらないのでは、と思ってしまいかねない。
埒が明かないので、
「よしそれならリリーナ、単刀直入に面白いか面白くないかを2人同時に言わないか?」
「そうですね、そうしましょう!」
「それじゃあ、言うぞ⁉」
「ハイ、どうぞ…」
そんな感じの俺等を気にも止めず、
「あ~美味かった!」
レオが食い終わって満足気にしている。
その横で、同じテーブルとは思えないぐらいの緊張感が走った。