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小説

 俺等はレオがサンドイッチを食ってしまった女の人に話しかけた。


 「あの…スミマセン…」

 「……」


 おれが話しかけたが、その人は無視して書物を進めていた。

 いや、無視したというよりも、俺達の存在に気付いておらず、声も聞こえていないと言った方が正しいみたいだ。

 その人は、指先まで全神経を収集させて書物をしている感じだ。失礼ながら、書いてる紙を覗くと、それは原稿用紙だった。


 「物語か何か書いてるんですかね?」


 リリーナも覗いたみたいだ。


 「そうみたいだな…」


 内容まではわからないが、書き方からして物語、小説か何かを書いてるのは分かった。よく見ると、傍らに書き損じたと思われる原稿用紙が丸められている。


 「話しかけられたことに気付かないなんて、随分と執筆に集中してるんだな…」

 「そうですね、でもこのままだとサンドイッチの件、いつまで経っても謝れませんよ⁉」

 「そうだな…」


 俺とリリーナが困っていると、レオが、


 「何を悩んてんだ?気づかないなら、気づかせればいいだろう!」

 「気づかせるって、どうやって…って、レオ!」


 言うやいなや、レオは女性の服を思いっきり引っ張り、


 「おい、アンタ!」

 「キャッ!!」


 それまで書物に集中していた女性は、突然の事態に悲鳴をあげた。そして、勢い余って、ペンの先で原稿用紙を思いっきり破いてしまった。

 更に、飲みかけのコーヒーも、はずみで床に落としてしまった。コーヒーカップは音を立てて割れ、床に黒い水溜まりが出来た。

 突然の悲鳴と音に、店内の人々の注目が俺等に集まった。


 「バカ!レオ何してんだよ!」

 「?!」


 レオは何で怒られたのかわからずに、キョトンとしている。

 リリーナは顔に手を当てて困惑していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 後が大変だった。

 俺とリリーナの2人で迷惑かけた女性を始め、店や他の客の人達に謝って回った。

 幸い、子供のした事と言って、皆が皆あまりとやかく言われなかったのが幸いだ…

 一通り誤って回り、再度女性の元へ戻った。


 「本当にスミマセンでした!」

 「ごめんなさい!」


 女性に謝る俺とリリーナ。


 「ほらレオ、お前も!」

 「ん…ごめんなさい…これでいいのか?」

 「もっと誠意を込めて…」

 「誠意って何だ、うま…」

 「食いもんじゃない!」


 またこのパターンか…

 なれてきたのか、レオが言い切る前に、否定していた。

 俺等が下手な漫才みたいな事をしていると、


 「あの…もう結構ですから…」


 と、女性が言ってきてくれた。

 が、だからといって、「あっそうですか。では…」等と言うわけにはいかない。


 「いえ、そういう訳には…」


 リリーナも同じだ。


 「コーヒーと、この子が食べてしまったサンドイッチのお代は、こちらでお支払いしますので…」

 「別にいいんですよ、よかったら残ってるのも食べちゃっても構いませんよ?」

 「いいのか⁉それじゃあ…」

 「レオ!」

 「レオくん!」


 サンドイッチに手を伸ばそうとしたレオを、俺とリリーナがほぼ同時に静止した。


 「いえ本当にいいんです。頼んだものの、全然手を付けてなくて、乾いてましたし…」

 「確かに、少し固くなってたぞ!」

 「レオ!」

 

 再びレオを静止した。


 「しかし、それじゃあこっちの気が収まらないので…」

 「そうですか……なら…」


 女性は少し考えて、


 「でしたら、私のお願い事を聞いて貰えませんか?」

 「お願いですか⁉えぇ勿論、私達で出来る事でしたら何なりと。」

 「そんなに大した事じゃありません。これを…」


 そう言って女性は側に置いてあったカバンから紙束を取り出した。それは全て文面が書かれた原稿用紙の束だ。


 「これ私の書いた小説です。」

 「小説⁉作家さんなんですか?」

 「いえ、普通の主婦です。ほんの気まぐれで思い付いた話を、小説にしたためているんです。で、是非とも率直な感想が聞きたくて…」

 「なるほど…」

 「どうでしょうか?…」

 「構いませんよ!ですよねタイガーさん⁉」

 「ああ、そんな事でよければいくらでも!」

 「ありがとうございます!では、これを…」


 そう言って彼女は、原稿用紙の束を俺等に差し出した。


 「では、拝見させてもらいます…」


 俺とリリーナは原稿に目を通し、読み始めた。

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