馬子にも衣装
色々と忙しく、今月になって、ようやく投稿できました。
「それじゃ散髪代、丁度な!」
レオの散髪を終え、店主に散髪代を支払った。
「ありがとうございました!」
店主に見送られながら理髪店を出た。
見た目が良くなったレオを見ながら、
「見違えたねレオくん!」
「あぁ、さっきまでの姿とは雲泥の差だなこりゃ!」
言葉を知らないやつだったらここで、「馬子にも衣装」と言いそうなものだ。しかし、馬子にも衣装とは、どんな人間であってもいい服を着て着飾っていれば、それなりに見えるという意味で、褒め言葉では無く失礼に当たる言葉。もしくは着慣れていない、上等な服を着ている人を揶揄する言葉だ。
馬子を孫と勘違いして使っている人もいるようだが、それは大きな間違いだし、決して褒め言葉ではないのだ。
「うん…でい…リリーナ、うんでいって何だ?美味いのか?」
「さぁ、ちょっと私にも分からないな…タイガーさん、時々聞き慣れない言葉を使うから…」
1人脳内で国語の授業状態になっていた俺を尻目に、レオとリリーナは軽く困惑している。
「(いっけね、又やっちまった…)」
転生者であることを隠している事を忘れ、時々この世界の人間には分からない言葉を使ってしまう俺だった…
何とか適当にごまかし、
「取り敢えずこれでどの店に行っても大丈夫だな!」
「そうですね、これならバッチリです!」
俺とリリーナはキレイになったレオを改めて眺めた。
見終えるとレオが、
「タイガー、リリーナ…」
「ん、どうした?」
「サッパリしたら又腹減った!」
「いやまたかよ…少し前にも食ったろ?」
「減ったものは減ってたんだから、しょうがねーだろ!」
「お前な…」
俺はレオの食い意地の張り様に呆れてきた。
「まーまー、いいじゃないですかタイガーさん!サッパリしたことですしね!」
「…しゃーねーな…」
リリーナはレオに少し甘い気がする。優しいのが彼女の長所の1つだが、あんまり甘やかすのも良くない。その辺は、後で注意しとかないとな…
それは兎も角、
「そんじゃどっかで少し早いが夕飯にするか!」
「オー!」
レオが元気よく返事した。その辺は、まだまだ子供だな…
どこかいい店がないか見渡しながら俺等3人は町を歩いた。その途中、
「おや、可愛らしい子だね!」
と、通りがかった果物屋の前で、店のおばさんが話しかけてきた。そして、
「坊や、パパとママとお出かけかい⁉」
等と言ってきた。
「「!!」」
俺もリリーナも面食らった。親子と間違えられるとは…確かに、兄弟にしては年離れてるし、傍から見たら親子に見えるか…
「い、いえ…その…」
リリーナはどう言えばいいのか分からず、完全にうろたえている。結局、最後まで親子と勘違いしたままのおばさんは、レオにタダでりんごをくれたのだった。
俺等まだ、20歳前後なんだけどな…
その後、俺らは適当な店に入り、早めの夕飯をとった。
「うんめぇーな、コレ!」
「がっつくなよレオ。誰も取ったりしないから、もっとゆっくりよく噛んで食え!」
俺が注意するも、レオはあいも変わらずだ。ナイフとフォークは愚か、ろくにスプーンも使ったことがないレオは、もっぱら手づかみで食っていた。
そんなレオを見て、
「行儀の良くない子ね…」
「あの人達、子供にどういう教育してるのかしら…」
と、周りからヒソヒソ話が聞こえてきて。どうやらまたも、親子と間違えられたらしい。
「俺等がしつけたわけじゃないのに…」
「……」
一方のリリーナは、心ここにあらずといった雰囲気だ。
「どうしたリリーナ⁉さっきから黙ったままで!」
「えっ、あぁタイガーさん…私…」
「??…」
リリーナは神妙な面持ちで、
「レオくんみたいな子供のいる年に見えますか⁉」
「はっ?…」
「だってママって…私まだ19なのに…仮にそうだとしたら、14才位で産んだことに…」
母親と間違えられたことを、まだ気にしているようだ。そんなに気にすることなのか、俺にはわからないが、女の子だからその辺はデリケートなのだろう。
俺がどう言えばいのかわからずにいると、
「タイガー、リリーナどうしたんだ?」
両手でサンドイッチを食いながら、レオが聞いてきた。
「あぁ、なにちょっとした考え事だ…」
「ふーん…」
俺等がリリーナを見守っていると、視線に気付いた彼女がこっちに目をやり、何かに気がついた顔をした。
「あれ、タイガーさん…」
「何だ⁉」
「サンドイッチなんて、いつ注文したんですか⁉」
「へっ⁉」
俺は一瞬、狐につままれた様な顔をした。が、直後に気付いた。確かに、俺等サンドイッチは頼んでなかった。なのに、レオはサンドイッチを食っている。そのサンドイッチは何処から来たんだ?
「レオ、そのサンドイッチ何処からか持ってきた⁉」
「どこって…あそこから…」
と、レオは隣のテーブルを指さした。そこでは、女性が1人座っており、何やら熱心に書物をしている。その傍らには、飲みかけのコーヒーと皿に乗ったサンドイッチがある。
「お前、他所の人のやつを取って食ったのか⁉」
「ダメなのか?」
「ダメに決まってるだろ!」
「大変、すぐに謝りに行きましょう、タイガーさん!」
「ああ!」
俺等はその女性客の元へと向った。これが、次なるブームを産み出すきっかけとなるとも知らずに…