行列
たまの休み、俺はリリーナとブラウンタウンに買い物に来た。新しい服を買いにだ。何しろ服は、この世界に転生した際、着ていた物のみだ。牧場の仕事で汚れ傷んできたので、新しいのを仕入れる事とした。苦労したかいあって、そこそこ金は貯まったのだ。
彼女の案内で店を何軒かハシゴして手頃な服を何着か購入した。
そして俺は、財布の中を確認した後、
「リリーナ、飯食ってかないか?今度は俺が奢るからよ。」
「えっ、いいんですか?無理なさらなくとも…」
「気にしないでくれよ、君には何から何まで世話になってるし、これぐらいしないと悪いよ。」
「でも…」
「いいからいいから。」
遠慮しがちなリリーナを言いくるめる、俺達は町を歩いた。昼時なのでどこも混み気味だ。どこがいいかあれこれ迷っているとリリーナが
「タイガーさん、マリーのさんの店にしませんか?丁度この通りの奥ですし。」
「マリーの店⁉」
そういえばこの辺りだったな。あれから一度も行っていない。確かに下手な店に入るよりいいか。
こう言っちゃあれだが、空いてそうだし…
「そうだな。あそこにするかな。」
そう言うと、俺とリリーナは、マリーの店まで来た。
しかし、そこで予想外の光景を目にした。
「ここ、マリーの店だよな?」
「ま、間違いないですよ…」
なんと、マリーの店に行列が出来ていたのだった。それも女性客が大半だ。
「どうなってんだ?この前来たときは閑古鳥が鳴いてそうだったのに…」
「カンコ…ドリ?」
リリーナは狐につままれたような顔押した。
「(あっ…閑古鳥なんて言葉この世界にはないよな。)兎に角、暇そうだったよなここ。」
「ええ、お客さんも全然いませんでしたし…」
俺らが困惑してると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おやあんた達、しばらくだね!」
「あっマリーさん。」
「これは一体どういう事だよ。この前まで暇そうだったのに、この行列は何だよ?」
「今、説明してる暇ないのよ。そうだ、あんた等良かったら手伝ってよ。人手が欲しいんだよ。」
「えっいや、今日は休日で…」
「い~から、い~から、硬いこと言わずほら!」
「あっちょっとマリーさん…」
マリーは禄に返事も聞かず俺等を店に引き込んだ。そしてエプロンを渡し指示を出し始めた。結局、俺達は半ば強引に店の手伝いを箚せられることとなっのだった。
俺は厨房で調理を、リリーナは接客を行う事となった。俺にとっては牧場の仕事以上にあくせく働いたのだった。
暫くし、ようやく客足も落ち着いた頃、俺とリリーナはようやく休むことが出来た。
「はーはー勘弁してくれよ…たまの休みなのに、普段以上に疲れたぞ…」
「私もヘトヘトです…」
俺達2人は疲労困憊状態だ。
「お疲れさん、ほら飲みな。」
マリーはジュースを出してくれた。喉がカラカラだったので、飛びついてあっという間に飲み干した。
「ぷはー!生き返るぜ。」
「本当、労働の後の一杯は格別ですね。」
「酒じゃなくてジュースだけどな。」
俺達は「ハハハッ」と笑い声をあげた。そこにマリーが来た。
「いやー、助かったよ。あんなに人が来るなんて想定外で一人じゃ回せなかったよ。」
「しかしまさか、ホットケーキがこの町でこんなに人を呼ぶとはな…」
そう、この客足の原因はホットケーキ及びパンケーキだ。俺もリリーナも手伝いの最中、正確には初めの方で気付いた。客の9割がホットケーキやパンケーキを注文しているのだ。しかも、マリーが独自にアレンジしたのか種類も豊富だ。フルーツサラダみたいなものもあれば、生クリームでデコレーションしたものまであり。甘さ控えめにし、主食感覚で食えるものまである。ここまで種類を増やすとは、何だかんだでやはりプロだなと感心した。
「あんたから教わったホットケーキを自分なりにアレンジして店で出したら口コミで広まったのか、あの有様よ。」
「ホント凄い人でしたね。でも、明日からどうするんです?」
「そうだ、俺等も明日は仕事だから手伝えねーぜ。」
「大丈夫、知り合いの子が明日から来てくれることになってんのよ。だから、何とかなるわよ。」
「そりゃ良かった。」
「そうだ!ちょっと待ってなよ。」
そう言うと、マリーは店の奥に行ってしまった。そして本当に少しして戻ってきた。
「ほら、二人共今日手伝ってくれたお礼よ。」
と言ってマリーは、封筒を俺達の前に差し出した。中には現金が入っていた。
「ちょっとマリーさん!これって…」
「受け取っとくれ、ささやかだけどバイト代だよ。後、タイガーにはもう一つ。」
マリーは更に封筒を俺に差し出した。
「こっちは、ホットケーキのアイデア料よ。次店に来たら渡すつもりだったのよ。」
「おいおい、いいのかよこんなの…」
俺もリリーナもこんなの貰うつもりは無かったが、半ば強引に受け取る事となった。確かに俺はこの先のことを考え、蓄えておきたい気持ちもあったので、貰っておくことにした。思わぬ臨時収入を得てしまったのだった。これが、俺が得る数々のアイデア料等の第一号であることを、俺はまだ知らないのだった。