乗り物酔い
修理が終わった橋でようやく川を渡る事が出来、次の目的地に向けて馬車が走っている。
馬車の車窓から見える景色はあいも変わらずキレイだった。これまでのの旅で、俺とリリーナはそんな景色を静かに眺め、記憶に収めていた。
しかし今は…
「リ、リリーナ…気持ち…悪い…ぞ」
「だ、大丈夫レオくん⁉」
そんなどころてはなかった。
半ば強引に付いてくると言い出したレオが、俺達の側にいる。
つい先程まで初めての馬車にテンションが上がって、興奮しはしゃいでいた。
が、今はというと、旅の初めの時のリリーナ同様、乗り物酔いを起こしたらしい。先程の元気な姿から一転、顔を青くして気持ち悪そうにしている。それをリリーナが介抱しているという有様だ。
「(あの時の俺等の様子、傍から見たらこんな感じだったのかな…)」
等と、2人の姿を見ながら思った。
それは兎も角、
「がんばれレオ、もう少ししたら小休止するみたいだから、それまで何とか持ちこたえろ!」
「おっ…おう……!」
レオが僅かな力を振り絞って答えた。が、直後に
「ウッ!」
レオがほっぺを膨らました。まさか…
「戻しそうなのか⁉」
「た、大変!桶か何か…!」
こんなところで、リバースされたら洒落にならねーぞ。リリーナも軽くパニック気味だ。俺達だけじゃない、様子を見ていたピエールを始めとする他の乗客も身構えている。当然といえば当然か…
床にぶち撒けるのだけは避けないと等と考えてると、レオは小さな両手をほっぺに当てた。そして、
「フン!」
と、力を込めて、逆流仕掛けていたブツを強引に胃に押し戻した。
「はぁーはぁー…フー!もう大丈夫だぞリリーナ!」
「レ、レオくん…」
軽く引き気味のリリーナ。
「心配ない。今ので落ち着いてきた!」
「そういうことじゃ…無茶して…」
「平気だ!折角食ったのに、出したら勿体ないだろ⁉」
「勿体ないとかの問題じゃないよ…」
たくましい奴だ、と俺は思った。
少しして、聞いていた通り、小休止の場所に到着した。
「やれやれ…最悪の事態だけは避けれたな…」
「えぇ…何とか…」
俺等はどっと疲れが出た。なので小休止は有り難かった。そんな俺等を尻目にレオは、
「おいリリーナ、腹減ったぞ!」
と、呑気に聞いて来た。
「お前さっき吐きそうになっててくせに…」
どういう感覚してるんだコイツは…
「レオくん…乗り物酔いの直後だから止めといたほうがいいと思うよ…」
「乗り物酔いって何だ?上手いのか?」
心配するリリーナを他所に、ベタなボケをかますレオ。
俺等は簡単に説明した。
それを聞きレオは、
「さっき気持ち悪くなったのが乗り物酔いか…オレっち、気持ち悪くなったの久しぶりだぞ!」
「そうなのか⁉最後になったの何時ぐらいだ?」
「結構前だったぞ!洞窟の中に生えてたキノコ食った時に!」
「キノコ!それ毒キノコだったんじゃないのか!」
「わかんね!その時は熱が出て、腹もメチャクチャ痛くなってな、死ぬかと思ったぞ!」
「大丈夫だったの⁉」
「数日の間寝込んだけど、何とか回復してな、元気になったらすぐに食い物探しに出てぞ!その間何も食えなかったからな!」
と、何気に凄いことを笑顔で語るレオ。
「笑い事じゃないぞよく生きてたなお前…」
なんてたくましい奴なんだ。
まぁだからこそ、1人大自然の中、生きてこれたのだろう。レオの野生児ぶりを再認識した。
それから、俺が視線を動かすと、
「おっ、見ろ2人共!」
「なんですタイガーさん!」
「疲れてて気付かなかったが、町が見えるぞ!」
「あっ、ホントだ!」
今いる場所から少し離れた所に町が見えた。ピエールによると、そこが俺達の向かっている次の町らしい。ピエールは何度か行ったことがあるから、知っているのだ。
「レオくん、私達コレからあそこに行くんだよ!」
「アソコにか…」
レオに説明するリリーナの姿を俺は眺め、
「(ようやく次の町か…にして、まさか道中、旅のメンバーが増えるとは思わなかったな…)」
と、思った。
次の町ではどんな事があるのか、それはまだわからないが、町に到着するまでもう間もなくだ。