ピエールの過去
食べかすで汚れた顔のまま、幸せそうに眠る子供に、リリーナは丸めたタオルを枕代わり頭の下ににかませて、毛布をかけてやった。
「本当によく寝てますね、この子!」
「あぁ、しかし…俺らの食糧殆ど食われちまったな…」
俺は子供に食われた食糧の残骸を見ながら呟いた。
ピートのアズビー菓子は全滅。パンや果物類も殆ど食われていた。残ったのは僅かだった…
「次の町で買い足さないとな…はぁ~」
「いいじゃないですか、この子随分とお腹空かせてたみたいですし!」
「確かに、かなりがっついて食べてたからな…」
等と話していると、御者に説明に行ってくれてたピエールが戻って来た。
「戻ったぞ!」
「ああ、ご苦労さんピエール!で、どんな風に説明したんだ?」
「どんな風にって、ありのまま話して来た。つまりだ、いきなり子供が襲いかかるようにやって来て、お前等の食糧を食い散らかしたってな!」
「本当にありのままだな…」
「事実なんだ。変な作り話したってしょうがないだろう。」
「まあな。」
「で、その子供はどうするんだ?」
「どうするったってな…野生動物ならそっとしとくが、人間の子供だからな…」
と、俺等は寝ている子供を見ながら今後の事を相談した。
「やっぱり、自警隊に連れてくのが、妥当だろうな…」
「やっぱそうなるか…なら俺に任せろ!次の町の自警隊に、隊員時代の同期の友人が何人かいるから、俺の方から話してやるよ!」
「それは助かるぜ!」
「ところでピエールさんって、元自警隊におられたんですよね⁉」
「ああ、そうだよ、だいぶ前の話しだが…」
「失礼ですが、何で辞めてしまったんですか?あっ、実を言いますと、私の友達も自警隊に勤めてまして、気になったものですから…」
「ほぉ~、そうなのか。ははは、気にしなくていいよ。なぜ辞めたのか…正確に言うとだな…クビになったんだよ!」
「クビ!」
俺等はつい大声をあげてしまった。
慌てて、例の子供に視線を移す。が、子供は深い眠りについたまま、寝息をたてている。
折角寝ているのに起こしたら悪いと思ったので、一安心だ。
話を戻そう。
「クビって、アンタ何しでかしたんだよ?」
「ズバリ、誤認逮捕だ!」
「ご、誤認逮捕!」
誤認逮捕それは、警察などが犯人でない人間を誤って逮捕してしまう事だ。前世の世界でも、一度誤認逮捕なんて事をしてしまえば、鬼の首を取ったように、マスコミに叩かれる。
「あぁ、当時俺も若くてな…その場の勢いで怪しいと思ったやつを捕まえまくってな、結果、4回程誤認逮捕やらかししまったんだ…」
「勢いで逮捕すんなよ…」
「全くその通りだ!で、4回目で遂にクビだ!」
「そりゃそうだろうな。むしろ、3回目までクビにならなかったのが、奇跡だよ!」
「で、その後は、ハンターの資格を取り、狩人になったら捕獲が禁じられている生き物を仕留めちまって、多額の罰金刑に加えて、資格剥奪処分。それから、漁師になったら今度は嵐で船が難破して死にかけて、水恐怖症になってしまい辞め、木こりになったら今度は知らない間に国境を超えてしまい、不法入国で捕まり勾留。釈放後は、元自警隊って事で門番の仕事につけたんだが、遂居眠りして泥棒の侵入を許しちまい、またまたクビに。次は庭師になったが、剪定中、ハシゴから落ちて高所恐怖症になって辞め、料理人になったら食中毒事件を起こしクビになった上、町を追われた。その後も職と住処を転々としながら過ごし、今はあの町で、塗装業で働いているって訳だ!」
と、ピエールは自分の経歴を説明し終えた。
「すっ、スゴイ経歴ですね…」
「なんともまぁ、本当に波乱万丈の人生だな…クビと転職のオンパレードだ!」
俺とリリーナは、ピエールの経歴に引き気味になった。
「まあそんな訳でだ、逆にそのおかげでだ、軽作業からちょいと特殊な事まで大概の事は出来るぞ!」
「自慢出来る事なのかな⁉これは…」
「まあつまんない話はこれ位で…」
「いや、つまらなくはないぞ、少なくとも…」
「夜も遅いし、俺等も寝るか!」
「そうだな、あの子と事もあるしな!」
「あの子、馬車の中に運びましょう。外だと風邪引くかもしれませんし!」
「ああそうしよう。ピエール、手伝ってくれないか?」
「構わんぞ!それじゃあ、俺は足の方持つから、頭の方を頼む!」
「おう!起こさないようそっとな…」
俺とピエールは子供を馬車の中に運んだ。
そして、事情を聞いた御者の人が、追加で毛布を持ってきてくれた。それに包まり、俺達は横になった。
俺は星空を眺め、
「(この調子だと、明日も騒がしい1日になりそうだな…)」
と、思いながら眠りについたのだった。