迫る影
焚き火で焼いたりんごやバナナは、なかなか美味い。
リリーナとピエールにも好評だったが、俺は内心、コレでマシュマロがあればな…と思った。
そう言うのも、前世での事だ。テレビでキャンプのシーンがあり、そこでキャンプファイヤーでマシュマロを焼いているシーンがあったのだ。串に指したマシュマロを火で炙って、そのまま食べたり、板チョコとビスケットて挟んで食べていた。軽く焼いただけで、中がトロ~リととろけて何とも美味そうだった。
それ以来、キャンプで焼きマシュマロを食べるというのが俺の憧れ行為に1つとなった。で、叶わぬうちに、コッチに来てしまったのだった…
「タイガーさん…」
「どうしたんだニイチャン⁉」
「!!あっ、いや、何でもない。ちょっと考え事をな…」
うっかり思いにフケてしまったな…
まっ、今更アレコレ言ったって仕方がない。それに、今こうして似た感じの事が出来た。これはこれで結構楽しいから、良しとするかな。
と、俺は焼きリンゴとバナナに舌鼓うつ2人を見ながら思った。
夜も老けて来た。
辺りの馬車も、寝始める者がチラホラ出て来ている。
「俺等もそろそろ寝るか⁉」
「そうですね。御者さんも、明日の朝早くに出発になりそうって言ってましたし。」
「そんじゃあ、寝る前にちょいと用足しに…」
ピエールがトイレに行こうとした時、
ガサッ!!
近くの茂みから音がした。
「今…音したよな!?…」
「えぇ…」
「動物か?」
「山犬とかタヌキ位ならいいんだが…」
「何が言いたいんだよピエール?」
「熊かもしんねーぞ!」
「熊‼まさか‼」
「十分ありえるぞ!匂いに惹かれてきたのかもな…」
「気をつけろよ2人共!」
俺と不安げなリリーナを余所に、ピエールは、近くにあった薪を掴み、構えた。
「いざとなったら…」
「ピエールやる気か?」
「あぁ、心配すんな!俺はこう見えても元自警隊員だ!」
「えっ、そうなんですか⁉」
リリーナはピエールが、親友のケティと元とはいえ同じ職業の人間であったことに、驚いていた。
「だから今でも、多少腕に覚えはある。2人共そこにいとけ!」
ピエールは薪を握る手に更に力を入れた。
そして薪を茂みに向けながら、ゆっくりと近づいた。
ゴクリ!
俺とリリーナの息を呑む音が聞こえて来た。
ピエールが更に茂みに近づいた。その瞬間、
ザッ!
茂みから小さな影が飛び出した。
とっさにピエールは薪をその影めがけ振り下ろした。
しかし、その影は素早く、ピエールの一撃を軽くかわした。
ピエールの攻撃を交わした影は、俺とリリーナの方に跳ねた。
「‼しまった!」
焦るピエール。
小さな影は俺達の少し離れた所に来るやいなや、間髪入れず迫ってくる。
「くっ…リリーナ!俺の後ろに‼」
「……」
俺は咄嗟にリリーナの盾となるように、彼女を後ろにやった。
その場に緊張が走る!
影は俺達の目前まで来ると、小さな腕を伸ばした。
ガシッ!
何かを掴む音がしたと思ったら、迫って来た影は俺達を素通りし、焚き火の近くに腰をおろした。
焚き火の灯りでようやく、迫って来ていた者の姿が見えた。
「えっ!」
「まさか…」
灯りに照らされたその子は、全身薄汚れており、目も野生動物の様に険しかった。
「こっ、子供‼…」
そう影の正体は、幼い男の子だった。
「何でこんな所に子供が…」
そんな疑問をよそに、その子供は俺達の事など眼中に無いかの様に、手にした荷物に視線を移した。
「あっ、私達の荷物を…」
子供は俺達の荷物をひっくり返し、中身をその場に巻き散らかした。
財布や本・服などには一切目もくれず、食糧をその小さな手で鷲掴みにした。そして脇目も振らず、一心不乱に食べ始めた。
ガツガツ!
幸せそうに目の前の食べ物に食い付く子供。
そんな姿を見ながら、
「タイガーさん、この子…」
「あぁ、どうやら食べ物が狙いだったみたいだな…」
一生懸命食べていた子達だったが、俺等の視線に気付くと、野生の獣の様に、唸り声を上げて威嚇してきた。
「ウッーー‼」
「(発情期の猫みたいだな…)そんな警戒すんなよ、何もしねーから!」
「そうだよ、全部あげるから、ゆっくりと食べて⁉」
俺等に警戒しながらも食べ続ける子達。
が、喉につまらせてのか、むせ込みだした。
「ブッ!ゲボゲボ!」
「もー、はいお水。だから、ゆっくり食べてって言ったのに…」
リリーナに介抱してもらい、その子は落ち着いた。
が、ホッとした顔をしたのも束の間、落ち着いた途端、再び距離を取り警戒しだした。
「ヴーー!」
「コロコロと態度が変わって、何とも忙しいヤツだな…」
そう思っている内に満足したのか、ようやく食べるのを止めた。
「満足したか?」
そう聞いた途端、その子は倒れた。
「おい、どうした⁉」
ピエールも心配してよって来た。
倒れた子供を介抱するリリーナは、
「タイガーさん、ピエールさん!この子…」
「リリーナ…」
「寝てます!」
「はぁ…」
腹一杯食って満足したのか、子供は幸せそうな顔で眠っている。
寝顔は子供らしくて、かわいかった。
「取り敢えず、この子の事は明日考えるとして、今は寝かせといてあげましょう!」
「そうだな…」
突然、嵐の様にやって来た子供。俺らの事なぞお構いなしに、子供はスヤスヤと寝息をたてるのだった。