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キャンプ

 俺等を乗せた馬車が山林の道を走っている。

 揺れの少ない電車や車と比べ、最初は馬車の揺れが気になっていたが、慣れて来たのか今や、殆ど気にならない。

 逆に、現代的な乗り物には無い乗り心地を堪能しているくらいだ。


 「タイガーさん、次の町まであとどれ位ですか?」


 横の座席のリリーナが聞いてきた。

 乗客は俺ら以外、数名いる。服装から旅とかではなく、用事を片付けに行くといった感じだ。

 ようやく機嫌が治ってくれた彼女が、何時もの笑みを浮かべている。それを見て安心感に包まれた。機嫌が治るまでの間、少し気不味い雰囲気だったからな…


 「そうだな…後、2時間くらいかな?」

 「まだまだかかりますね。」

 「ああ、途中で橋で大きな川を渡るらしい。渡ってから、1時間半位で着くと、馬車乗り場の係の人に聞いたからな。」

 「そうですか、それまで暇ですね…」


 旅に出た直後、乗り物酔いでえらい目にあったので、流石に趣味の読書をしようという気には、ならないようだ。


 「まあ景色でも眺めながら、のんびりいこうじゃないか!」

 「そうですね。」


 そんな感じで暫く景色を眺めながら、馬車に揺られていた俺等だったが、例の川に差し掛かかろうという時、馬車が停車した。


 「どうしたんだ⁉」

 「タイガーさん、この馬車だけじゃないですよ!」


 リリーナの言うとおり、俺等乗っている馬車以外にも何台か、馬車が止まっている。

 そういえば、この辺りで馬車が渡れる橋はここだけで、辺り一帯の町からの馬車は、こぞってここを使うと、係の人が言ってたっけな…


 「何かあったみたいです。聞いてきますので、お待ち下さい!」


 そう言うやいなや、御者の人は状況確認しに行った。

 残された俺等は、


 「何があったんだ?」

 「大したことじゃないと、いいんですけどね…」

 「いやぁ全く、早く動けばいいんだがな…」

 「そうだな…って、何だあんたは⁉」


 俺とリリーナの会話に入って来た男。俺は見覚えがあった。


 「あっ、確かあんたはあの時の!」

 「やあ、ニイチャン暫く!」


 そのおっさんは、ナタクがリリーナのカバンを引ったくった時に関わったおっさんだった。そういえばあの時もこんな感じで、しれっと会話に入って来たな…


 「何でアンタがココに⁉」

 「いや何、川の向こう側の町に用があってね。その為に、馬車に乗ったんだが、そしたらたまたま、君達がいたものだから…」

 

 で、話に入ってきたのだという。いやいやだからって、入り方が…


 「ほお、旅をしているのかね、イイね!若い物は!」

 「はぁ…」


 一方的に話してくるおっさん。何でも名はピエールと言うらしい。


 「(ピエールって顔かよ…)」


 俺らが困っていると、ようやく御者の人が戻って来た。


 「お待たせしました!聞いてきました。」

 

 御者の人が聞いて来た話によると、これから渡ろうとしていた橋が壊れたのだという。原因は恐らく老朽化らしい。

 今橋を管理している所から人が来て、急ピッチで修理をしているが、終わるまで通行止めになっているという。


 「まじかよ、暫く足止めかよ…」

 「どうしますタイガーさん⁉」

 「どうって…」

 「落ち着きな2人共!」


 またおっさん(ピエール)が入って来た。


 「騒いだって治るのが早まる訳でもないんだ、ゆっくり待とうじゃないか!」

 「そうですね。ピエールさんの言うように、ゆっくり待ちましょうよタイガーさん!」

 「まっ、それしかないか…」


 てな訳で、終わるまでのんびり待つこととした。が、


 「で、俺のせがれがなもうすぐ結婚するんだよ!で、その相手というのが…ペラペラペラ…」

 「「……」」


 聞いてもいないのにペラペラ話してくるおっさん(ピエール)

 全然のんびり出来ないでいる。


 「おっさ…あっいや、ピエールさんよ。のんびりしようって言ってなかったけ!?…」

 「うん、言ったぞ⁉」

 「だったら…」

 「あぁ、俺の事は気にせず、のんびりしてくれ!2人の邪魔はしないから。それにだ、見ての通り、俺は無口だしな!」

 「(どこが!!)」


 無口って言葉、辞書引いて調べてみろと思ったのだった。

 それは兎も角、肝心の橋の修理だが、手間どっているらしくなかなか終わらないまま時間だけが過ぎて行き、諦めて引き返す馬車を出始めた。

 そして、とうとう日が暮れてしまい、夜道は危険なので、ここで一夜を明かすこととなった。

 橋の管理所から毛布等が支給され、更に各自で焚き火をして、暖を取っている。

 見ると、商人の馬車もあったらしく、食料品を販売している姿があった。商魂たくましいことだ!

 幸い、俺等は食料はあるので、それには及ばなかった。中にはピートが選別にくれた菓子もある。

 俺等は冷えたポックルン焼きを焚き火で軽く炙って食った。出来立てには及ばないが、なかなかいける。

 物欲しそうにしていたので、おっさん(ピエール)にも恵んでやった。何でも下戸で甘い物ぎ好きらしい。下戸で甘い物が好き。俺等と同じなので、少し親近感が芽生えた。

 そんな感じに、焚き火に当たりながら俺とリリーナは、おっさんと取り留めのない話をして過ごした。何だかキャンプみたいで結構楽しかった。


 「そうだ、りんご焼いてみないか⁉」

 「りんごをですか⁉」

 「焼きリンゴだ!美味いと思うぞ!」

 「よっしゃニイチャン、俺のバナナも一緒に焼いてみっか!」

 「おう、じゃんじゃん焼こうぜ!」

 「もー、焼くのはいいですけど、火事にだけは気を付けて下さいよ!」

 「わかってるって!」


 辺にいい匂いが広がった。

 はしゃぐ俺達。しかしこの時、匂いに引き寄せられ、俺達を凝視する者の存在に、俺等は気付いていなかった。

 

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