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牧場

 マリーの店でホットケーキを作った日から、一週間以上が経った。俺は、リリーナに案内され、情報収集をした村の牧場に居る。 

 

 「タイガー、牛の餌やり済んだらこっち手伝ってくれ。」

 「はい、わかりました。」


 そう俺は、牧場で働いている。慣れない仕事に四苦八苦し、汗水流している状態だ。


 「そんなんじゃ今日中に終わらんぞ!」

 「はいー。」


 牧場の仕事ってテレビとかで見たけど、こんなに大変だったんだな。何気なく飲み食いしてる乳製品の見方が変わってきそうだ。

等とボヤいていたらまた怒鳴られるから、耐えず手を動かし続けた。

そして、ようやく一日が終わった。俺は日当を貰うと、牧場の隅にある小屋に入った。ここが俺の今の住まい。そう、俺はこの牧場に住み込みに近い形で働いているのだ。

 この誰一人、身内も友人もいない世界で、仕事に付くのは難しかった。のんびりとした村とはいえ、見ず知らずのどこの馬の骨とも言えない男を雇おうという人はそうそういないだろう。

そこでまた世話になったのがリリーナだ。彼女はこの村の人達と親交があるので、彼女の紹介でこの牧場で働かせてもらう事となった。

本当、彼女には世話になりっぱなしだ。

 

 「あー疲れた、今日もクタクタだぜ…」


俺は誰にも聞かれることのない、大きな独り言を言った。


 「そうだ、今日の日当はと…」


 俺は本日分の日当を確認し帳面につけた。主婦の家計簿みたいで少し恥ずかしい感じだが、仕方ない。一人だし、この世界の金銭感覚等を早く吸収しないとならないから俺は帳面を付けた。


 「まる一日働いてこの日当か。この小銭一枚で大体、りんご1個買える位だから、元の世界での100円位かな…」


 俺はあれこれ考えながら羽根ペンを動かした。羽根ペンを使う日が来るとは夢にも思わなかった。パソコンやスマホがあれば楽なんだか、この世界にあるわけ無いしな。ボールペンと違い、時折インクを付ける必要があるから尚面倒だ。って贅沢言ったらバチが当たるか…実はこの羽根ペンも、リリーナが


「お古ですけど使って下さい。」


と言ってくれた物だ。彼女には、何から何まで世話になってるな。

帳面を付け終えた後、俺は夕食の用意をした。夕食と言っても大したものではない。食パンの上に目玉焼きを乗せた物と簡単なサラダ位だ。パンは村の雑貨屋で買い、卵は働いている牧場で採れたのを働き手という立場から安価で譲ってもらえている。最近はこんな感じの物ばかりで食いつないでいる状態だ。理由は単純に 金が無い事と、ラ○ュタに似た町が近いせいかもしれない。


 「しかしこのパン、美味いな…」


 冗談抜きでパンは美味い。聞けばこの村「ファーマ村」の小麦粉は質の良さで有名らしい。卵や乳製品、家畜の肉もいいが小麦粉は特に上等とのことだ。マリーの店のある町「ブラウンタウン」でも広く使われているらしい。俺の作ったホットケーキの材料の小麦粉もこの村の物らしい。


 「今思えば、ホットケーキが美味かったのも、材料が良かったからかもな。まー、俺食ってねーけど…」

 

 ガサッ!


 等とぼやいていると、外から物音が聞こえた。俺は窓から外を覗いてみると、この世界のフクロウが飛び立つのが見えた。足には、何らかの小動物が捕まっていた。どうやら近くの森のフクロウが、牧場に出たネズミか何かを捕まえた時の音だったようだ。


 「何だフクロウか…」


 俺は席に戻り、夕食の残りを口に運んだ。実は俺は牧場のオーナー、つまり雇い主から


「夜中に牧場に泥棒が出ないか心配なので、偶にでいいから牧場の方に気を配ってくれ」


と言われている。オーナーの奥さんに聞いたら、泥棒の被害が極たまにだが、あるらしい。俺が牧場の隅の小屋をあてがわれたのも夜間、牧場を見張りを兼ねての事だろう。「偶にでいいから」って言ってたが、本心は「常に意識を向けていろ」だろう。因みに仕事の時間外での事なので、これに関して給料は一切出ない。いわばサービス残業に近い。元居た世界でならブラック企業と言われかねないだろう。


 「なんで仕事終わった後まで、やんなきゃならないんだ…」


 等と思っているが口には出さない。口に出したらクビになりかねない。他に仕事の宛もないし、リリーナにも悪いからな。


 「ハー、世知辛いなこの世界も…」


 せっかくの異世界なのにこれとは…

もっとも、元いた世界でも、俺の学力じゃ、大した勤め先は期待出来ないから、入れてもブラックだろうな…


それはともかく、今頃家族はどうしてんだろう?俺の死を悲しんでるのか?葬儀の準備でもしてんのかな?そもそも時間の流れが同じとは限らないから、向こうでどれだけの月日時間が過ぎただろうか。こういう異世界転生じゃ、元の世界に戻ったら数時間しか経ってなかったというケースがあるが、この世界じゃ何も判らない…


 「…やめたやめた、考えても仕方ねー。考えんのはこれからこの世界で生きて行く事に関する事だ。」


 俺は小屋に元々あった汚いベットに横たわった。


 「本当、なんてつまんない世界に来ちまったんだ俺は。なんて意味の無い異世界転生だ…」


 この異世界に来てから、俺はこんな言葉をこの数日、幾度となく思ったことか。そしてこの日も思った。それはともかく、明日も朝から牧場の仕事だ。牧場の朝は早い。俺は考えを巡らせながら眠りについた。

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