片思い
翌日、テレシアと子供達はピートの店に訪れた。
テレシアとナタク・ロールの他、7人くらいのいる。計10人だ。
今日のテレシアは、今日はいつもの修道服姿でなく、私服姿だ。
「スカート姿も似合うな。露出は殆ど無いけどそれがまたな…」
と俺が殆ど無意識に呟き、横のリリーナは少し顔をしかめた。
と、言うのはまた別の話。それは置いといて…
「今日はピートさん!」
「あっ…テレシアさん!教会の皆も…」
作業に集中していたピートだったが、突然テレシアの声が聞こえてきて、視線を移した。
「皆がポックルン焼きを食べたいというので、来ちゃいました。お邪魔じゃなかったでしょうか?」
「いっ、いやいや、迷惑だなんてとんでもない!大歓迎ですよ!タイガーさんから、今日来ると聞いてましたので…」
「そうでしたか。それじゃあ早速いただけますか⁉」
「勿論、腕によりおかけて作ります!」
「お願いしますね。」
「ハイ、よろこんで!」
そう言ってピートは、ポックルン焼き用の鉄板に油を引き、生地を流し込み、ポックルン焼きを焼き始めた。
辺りに生地が焼けていく特有のいい匂いが広がった。
その工程を見守るテレシアと子供達。
作業に意識を向けながらも、テレシアを見て顔を赤らめるピート。
そんな光景を少し離れた場所から見守る俺とリリーナは、
「タイガーさんの言うとおり、ピートさんテレシアさんに好意を持ってるみたいですね!」
「ああ、でも…テレシアの様子からみて、ピートの気持ちには、全然気付いて無いみたいだな…」
「みたいですね…」
テレシアは、意外とそういうところは鈍感のようだ。
そおこうしている間にポックルン焼きが焼き上がった。
「ハイ、お待たせしました!」
と、焼き立てのポックルン焼きを子供達に手渡しするピート。
嬉しそうに受け取る子供達。
「あの子達は、ピートさん見ても怖がってませんね⁉」
「そういやそうだな。まぁ、同じ施設出身だしな、顔なじみだから慣れてるんだろう。」
「あっ、でも全員そうと言う訳じゃないみたいですよ⁉」
リリーナの言うように、年少の子供2人が少し怯えている。
いやあの子達だけじゃない。他の店のお客の子供達の多くが同じ様に怖がっている。
そんな訳でお客の大半が、子供を家かすぐ近くに残し、母親が買う。なんてパターンが自然と出来上がっているようだ。
売り上げは上がっても、ピートが怖がられるのは、変わらないようだ…
はて、どうしたものか…
等と俺が考えていると、
「食わねーならもらうぞ!」
「あっ!返せよ!」
と、教会の子供2人が揉め始めた。よく見れば夕食をゴチになった時、喧嘩してた2人だ!
証拠にもなく、また始めたのか。しょうがない奴等だな…
「ビル!ケーン!また喧嘩か⁉」
「アンタ達、ちっとも反省してないじゃないの!」
と、ナタクとロールが仲裁に入った。ナタクはあいも変わらず兄らしい振る舞いだ。
「ビルが俺のポックルン焼き盗ったんだよ!」
「ケーンが全然口付けてないから、要らないと思ってんだよ!」
「要らないなんて1言も言ってねーよ!俺、熱い食べ物苦手だから少し冷ましてから、食べようとしてたんだよ!」
ケーンは俗に言う猫舌らしい。
「兎に角、喧嘩はよせ!みっともない。ビル、ケーンに返せ!」
「「は~い…」」
とりあえず、喧嘩は収まったようだ。
「やれやれ…」
「大した事にならなくて、よかったですねタイガーさん!」
「あぁ…でも、ナタクがいたからすぐに収まったな。」
「そうですね!」
「わっ!ビックリした!」
ピートがいつの間にか俺等の側に来ていた。
「あっすみません、驚かせてしまって。しかし、ナタクくん、いつの間にしっかりして来ましたね!昔はもう少しヤンチャだったのに…」
ピートは昔のナタクを知ってるので、奴の成長に驚いているようだ。
そこへ、
「お見苦しいところを、お見せしてすみませんでした!」
と、テレシアが俺たちのもとに謝りに来た。
「いやアンタが謝らなくても…」
「そうですよテレシアさんが謝る必要ありませんよ。ですよね、ピートさん!」
「あっ、いや、その…」
リリーナにふられ、アタフタするピート。
本当に、顔に反して奥手だな…それで俺は、
「ピート、アンタ彼女の事気になるんだろ?」
と小声で耳元に呟いた。それを聞き、
「なっ、何を言うのですか!そっ、そんな事…」
「動揺しすぎだ…好きなら思い切って、告白してらどうだ?」
「むっ、無理言わないでください!私のこの顔は、子供に怖がられます!子供が大好きな彼女とは不釣り合いですよ…」
と、やはりピートは、自分に自分に自身がないらしい。
さて、どうしてものか…と考えていると、
「テメー!このガキ!」
「兄貴に何してくれてんだ‼」
と、この場に不釣り合いな声が聞こえてきた。
「なっ、何だ⁉」
俺とピートが振り返る。
「タッ、タイガーさん!ピートさん!大変ですよ!」
「どうした?落ち着けリリーナ!」
慌てふためくリリーナとテレシア。
どうやら、ホリィの店の時と同様、トラブルが発生したようだった!