準備
俺とリリーナは、教会に戻って来た。そこそこ派手に見送られたのに、数時間で戻ってきたので、少々気不味い気がした。
教会の庭でテレシアが子供達と遊んでいた。俺等に気付いたテレシアと子供達が近づいて来た。
「あら、タイガーさんにリリーナさん、もう戻ってこられたのですか?」
「ちょっとな!それよりもテレシア、ナタクとロールは今どこだ?」
「あの2人でしたら、施設の方にいますよ。今日は学校も休みで、宿題をやってます。」
「分かった、少し上がらせてもらってもいいかな?」
「はいどうぞ。」
了承を得て俺は孤児院の中に入っていった。
奥では、テレシアが言っていたように、ナタクとロールか宿題をやっていた。
「だからよロール!何でこの計算式の答えは、こうなんだよ⁉」
「さっき説明したでしょう⁉そもそも、私だって宿題してるんだから…」
「お前以外、いないんだよ聞ける奴が!シスターは皆と遊んでるし、神父様も用事でいないし!下手な奴に聞けば、兄貴としての面目丸つぶれなんだよ!」
「何それ?アンタ昨日ぐらいから変よ⁉」
何て会話がしてくる。宿題の邪魔しちゃ悪いが、どうしてもあの2人に用がある。なので、話しかけた。
「おーいお前等!」
「あれ、タイガーじゃん!どうしたんだよ?ピートさんとこに行ったんじゃなかったのか?」
「行ったよ。で、話もして来た。その結果、彼を助けるのに、お前等2人の力を借りたいと思ってな!」
「俺等の⁉」
「何で私達なんです?私達みたいな子供に…」
2人は少し困惑している。無理も無い。いきなり力を借りたいと言われたって、返事に困るだろう。
しかし、俺の感が、2人が適任と言っている。
「まぁ、聞いてくれ。実わな…」
俺はピートの店の事を話、そしてそれを打破するためのアイデアを説明した。それを聞き、
「おっ、俺等がそんな事するのか⁉」
「そんな事急に言われても…私のは、完全に自己流で、殆ど趣味というか暇つぶし感覚でしてるだけで…」
そんな感じてすんなりOKとはいかなかった。当然と言えば当然だ。
しかし、粘り強く説得したら、
「分かった、やってもいいぜ俺は!」
「私もよ!」
ようやく折れてくれた。
「そうか、ありがとう!」
「ただし、条件がある!」
「条件!何だ⁉」
ナタクは目の前のプリントを手にし、
「宿題教えてくれ!」
等と言ってきたのだった。
「何だ、そんな事かよ…」
「ちょっとナタク!」
「いいだろロール。これで俺もお前も宿題がはかどるんだからよ!」
「都合の良い事を…」
「まぁまぁ、それ位お安い御用だ!」
と、調子の良いこと言ったが、俺自身勉強は得意でない。何度もつまづいたが、リリーナにも手伝ってもらい、何とか進められた。
その最中、
「所でタイガーさん。やるのはいいですけど、具体的にどういった物にすればいいんですか?」
「どういった物⁉」
「そうですよ、何かテーマがないと、ゼロからじゃさすがに難しいですよ…」
「あぁ、そうだな…」
勢い任せで来たので、そこまで考えてなかった。確かに具体的なテーマが必要だ。
悩んでいると、部屋の片隅にある本が目に入った。
「コレは…」
それは、森の小さな精霊が活躍するという、児童向けの絵本だった。
内容はオーソドックスで、出てくるキャラクターもシンプルなデザインだった。
「あっタイガーさん、その絵本なら、私も小さい頃に読んだ事ありますよ。何冊かシリーズが出てて、ホリィ達ともよく読んでましたよ。」
「その絵本なら、この辺じゃ知らない奴いない位有名だぜ。なにせこの町で生まれた作品だからな!」
と、ナタクがまるで自分事の様に、自慢するかの如く言った。
「へぇ、そうなんだ!」
リリーナが感心するように言った。
この辺りでは昔から、そういった精霊だの妖精だのといった類の目撃例があるらしい。最もこの世界の世界観からして、十中八九何かの見間違いとかだろうけど…
それは兎も角、今見ている絵本の精霊は、かわいらしいだけでなく、愛敬もあるデザインだ。
暫く眺めていると、
「コレだ!」
と、アイデが纏まった。
「コレって何ですタイガーさん?」
「コレはコレだ!」
と、絵本を皆に見せ付けた。そして、
「ロール!コレをテーマに作ってくれ!」
「それをですが…」
「ああ!で、大まかな内容は…」
ロールに内容等を説明した。
「なる程、そんな感じですか…」
「出来るか?」
「やってみます!」
「よし!後は…」
そう言うやいなや、俺は腰を上げた。
「そうだな…リリーナ、絵描けるか⁉」
「絵ですが…余り描いた事ないですね…」
「絵だったらここに上手いやつ何人かいるぜ!」
「素晴らしい!紹介してくれナタク!」
「いいけど、あくまでも子供にしてはだぜ⁉」
「かまわねーよ!プロ並みとかそんなのを望んてるわけじゃないからな!」
「一体全体何をする気なんですかタイガーさん⁉」
「それは後をお楽しみだ!兎に角、やる事は沢山ある。忙しくなるぞリリーナ!」
俺は早速、行動に移ろうとした。が、
「待てよタイガー!宿題まだ終わってねーぞ!」
「あっ、そうだったな…」
出鼻をぐじかれてしまった。
目の前の課題を片付けた後、俺は改めて行動に移るのだった。