ピート
意を決し俺は店に入った。入ってそうそう、店主(他に人もおらず、なおかつ、教会で1人で店をやってると聞いたので、ほぼ確定)と目があった。と言っても、向こうはサングラスの様な眼鏡をしているので、相手側の目は見えない。
入って来た俺を確認した相手は、俺の側に寄って来た。
超強面の相手と間近で対面する俺。
「(コエー!)」
と心の中で叫んだ。すぐさまにでも逃げ出したい気分だ。
俺が声を出せずにいると、先に向こうが口を開いた。
「スミマセンが、まだ準備中なんです…」
俺は一瞬呆気にとられた。至って普通の対応だった。
そのまま店主は続けた。
「開店まで今しばらくお待ちくださいますか⁉」
見た目だけで怖い人と思っていたが、至って普通の人だった。
人を見かけで判断しちゃいけないってことか…
何て考えてる場合じゃない。本題に入らないと。
「いや、俺等は客じゃないんだ。店主!あんたに用があってきたんだよ!」
「私にですか…」
「そうだ!」
「はぁ…ところで俺等と仰ってましてが…」
「…??」
俺は彼の言いたいことが一瞬分からず、困惑した。が、すぐに意味に気づいた。
「おーい、リリーナ!大丈夫だ。感じの良い人だぞ、この人!」
リリーナは入口の向こうで、隠れるようにしていた。一緒に入ったと思ったら、尻込みしていたようだ。
「そ、そうですか…」
俺が言うとリリーナは、恐る恐る入って来た。
「ど、どうも始めまして。リリーナと言います!」
「あっそうか、自己紹介がまだだったな。俺はタイガー。」
俺等は簡単に自己紹介をした。
すると向こうも、
「私、ピートと申します。この店を経営しております。」
と、自己紹介してきた。挨拶が終わると、
「で、私に用とは?」
それから俺等は、事の経緯を説明した。
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「そうですか。エージからの依頼で来てくださったのですか⁉」
「まぁそう言う訳だ!」
「それはそれは、わざわざご苦労さまです。」
俺とリリーナは、店の奥に通された。このパターン何度目だろうか…
それはさておき、本題に入った。
「単刀直入に聞くが、この店、売り上げが良くないんだって?」
「えぇ、お世辞にもいいとは言えません…」
「失礼ですが、原因は何だと思います?」
リリーナが聞いた。それに対してピートは、
「実は初めて来る人の大半が、すぐに逃げる様に、帰ってしまうんです。」
「逃げる様に帰る?…」
「えぇ、大概が私と目が合った瞬間に…」
それを聞き、
「それアンタの事を怖がってんだよ!」
「原因アナタですよ…」
と、俺とリリーナは思った。が、口には出せなかった…
「まぁそれは兎も角、ピートさんよ!」
「何でしょう?」
「そのサング…いや、黒いレンズの眼鏡の事だが…」
「これですか?」
ピートは眼鏡のツルを触りながら答えた。
「客商売なんだし、何より人と話してる時は、その眼鏡外した方が良いと思うが…」
「確かに、ピートさん!正直に言うと、その眼鏡がその…気になるというか…いぇ…」
リリーナは出来るだけピートを傷付けない言い方をしようとしているが、適切な言葉が出てこないようだ。
じれったくなったので、俺ははっきり言う事とした。
「ピート!その眼鏡が相手に強い圧をかけてるんだよ!」
「!!」
「正直に言って、怖い感じがするんだよ…せめて普通の眼鏡にした方がいいかと…」
「……やっぱりそうですか…実は私も薄々感じてはいたんですが…」
「感じてるなら何で…」
「実は…」
「実は⁉」
「恥ずかしいんです!!」
一瞬、俺とリリーナはフリーズした。
「はっ、恥ずかしい!」
「私こんな成りですけど、すごい小心者で、人の目が気になるんです。その上、自分の目がコンプレックスになってるんです!」
「コンプレックス!!どういう事だよ⁉」
「実は…」
そう言うとピートは、徐に眼鏡を外した。すると、
「こういう事です!」
ピートが素顔を見せた。するとどうだ、眼鏡を外した後、彼の目が晒されたが、それまでの強面の顔からは想像できない程、パッチリとした、カワイイ目つきをしていた。それを見て、
「プーーー!」
「プッ……」
俺は思わず吹き出し、リリーナも吹き出すのを必死にこらえている。
俺らに笑われ、ピートはしょげていた。
「おわかりですか?この目を隠す為に色付きの眼鏡をしてるんです…」
「あぁ、よーくわかったよ…」
「プッ…ご、ごめんなさい…」
それからピートは眼鏡をかけ、元の強面の顔に戻った。
聞けばその目が元で、子供の頃よくからかわれていたらしい。で、色付き眼鏡をしたら今度は元々強面だった顔が更にグレードアップしたという。何とも本末転倒な話だ…
それはさておき、
「まぁ顔はどうとでもなる。が、肝心なのは商品だ!肝心の商品が駄目なら、元も後もないぞ!」
「いやぁ、味には自信あるんですが…」
「それじゃあ、商品を見せ目もらってもいいですか、ピートさん!」
「分かりました。せっかくですから、試食してもらいましょう。少々お待ちを!」
そう言ってピートは、店の更に奥へと入っていった。
試食できるとあって、甘い物好きなリリーナが少しウキウキしているのを俺は静かに眺めながら、ピートを待った。