孤児院での夜
「ごちそうさまでした!」
と、食べ終えた後、皆が声を揃えて言った。俺とリリーナもそれに倣った。この感じ、前世の小学校での給食の時間以来だ。何だか童心に帰った気分がした。
「皆、食べ終わったら歯みがきですよ!」
と、テレシアが明るい声で声掛けをし、それに対して
「ハーイ!」
と、皆が元気に応えた。
子供達は洗面台に行き、テレシアに言われた通り歯みがきを始めた。最も洗面台はあまり広くないので、順番に代わり番こに使っている。途中、
「オイ、マイク!もっとちゃんと磨けよ!」
「磨いたよ、ナタク兄ちゃん!」
「駄目だ!お前、適当にやってただろう⁉」
「ナタクの言うとおりよ!マイク、虫歯になりたくなかったら、しっかりと磨きなさい!」
「ロール姉ちゃんまで…わかったよ…」
と、マイクと呼ばれた子供は渋々、磨き始めた。ナタクはここでも兄貴ぶっている。気合十分なのはいいが、気合を入れすぎて空回りしたり、ウザがられなきゃいいけど…
等と思いながら洗面台が空いた後、俺もしっかりと歯みがきをした。医療技術が余り発達していないこの世界で、虫歯になったらコトだからな。
そんなこんなで、夕食と歯みがきが終わると、就寝時間まで2時間程ある。その間は自由時間で各自が思い思いに過ごしている。
本を読んで過ごす子、勉強している生真面目な子、この世界の簡素なゲームを子等、様々だ。
テレシアは夕飯の片付けを、リリーナはその手伝いしている。
で、俺はというと、
「さてと、何すっかな…」
特に何もすることが無いので暇を持て余していた。すると、
「森を進む3人の目の前に、4メートルはあろう大きな熊が姿を表しました。突然現れた熊に3人は一瞬、心臓が止まったかのように感じました…」
「ひぇ~熊かよ!」
「それでそれで!」
「エド!タム!静かに聞け!ロールが話してくれているんだから。」
ロールと呼ばれる女の子が幼稚園児位の子供数名にお話を聞かせていた。興奮する子供を、ナタクが沈めている。
「何だ、昔話か?」
「あれは、ロールの創作話ですよ。」
「!!神父さん!」
いつの間にか俺の後ろに神父が立っていた。
「創作話⁉」
「ええ、彼女…ロールは、自分で物語や歌や詩を作るのが得意な子でして、時折ああやって、下の子達に聞かせてあげているんです。」
「へー…」
俺が神父と話していると、
「ハイ、今日はここまでよ!」
「エー、もう終わり⁉」
「その後どうなるのさ!ロール姉ちゃん!」
「続きはまた明日!」
「さぁ、もう寝る時間だぞ!」
と、ロールは話を切り上げ、不満を口にする子供達を、ここでもナタクが沈めている。ものすごく良い所で引く所は、コッチも同じだな。しかし、いつの間にか早くも就寝時間となっていた。時が経つのは早いものだ。
俺とリリーナは、空き部屋を借りて寝る事となった。
「そんじゃランプ消すぞリリーナ!」
「はい、おやすみなさいタイガーさん。」
リリーナは読みかけの本に栞を挟んで枕元に置いた。昼間買った例の本だ。本人は徹夜で読むって言ってたが、タダで止めてもらった所で、ランプの油を必要以上に使うわけにはいかなかったのだ。
昼間の疲れが出たのかリリーナはすぐに寝息を立てたが、俺は疲れで逆に寝付けなかった。等と思っていると、トイレに行きたくなったので、リリーナを起こさない様、静かにトイレに向かった。その途中、
「寝れないよナタク兄ちゃん!」
「俺も…」
と、ある寝室から子供の声が聞こえてきた。どうやら寝付けずにぐずってるみたいだ。
「しゃーねーな、よし!俺に任せろ!」
と、ナタクが起き上がり、
「いくぞ!ふぁ~♪」
急に歌いだした。歌を歌うなんて、イメージと違って感じた。
ナタクの歌は、音痴ではない…が、特別上手いこともなかった…しかし、妙に癖になる感じだ。等と感じていると、ぐずってる子供達はいつの間にか、夢の中に入っていた。
子供達が寝たのを確認すると、ナタクも布団の中に戻っていった。
「アイツ、面倒見の良いやつだな…って、トイレに行く途中だった!」
目的を思い出し、俺は足音を建てぬ様、小走りでトイレへと向かった。因みに、後で聞いたところ、ナタクが歌っていた歌は、ロールが作詞したオリジナルの歌との事だ。彼女、本当にそっち方面の才能があるのかも…
そして、翌朝。
「お世話になりました!」
「また寄らせてもらうよ!」
俺等は教会及び孤児院の皆に見送られながら、次の目的地に向かった。
別れ際、ナタクに、
「しっかりな!良い兄貴になれよ!」
「言われるまでもねーよ!」
何て会話があったのはまた別の話。
そして神父に教えてもらった例の店にたどり着いた。
「ここだよな⁉」
「えぇ、ココです。」
ついた店は、さほど大きくはないが至った普通の店構えだ。が、中を覗くと、超が付くほど強面の主人らしき人が、開店準備をしていた。
「ピートさんって、あの人ですかね?」
「おそらくな…」
教会で聞いた時は少し強面との事だが、「どこが少しだ!」と言いたくなる位の顔だった。
リリーナはすっかり怯えている。しかし、ここまで来て帰るわけにはいかない。エージとの、約束もあるしな。
「よーし!入るぞ、リリーナ!」
「えぇ…」
リリーナはすっかり腰が引けている。気持ちは分かる。俺も同じだ。が俺は意を決して、店の扉を開いた。