夕食
ナタクの件が一段落し、テレシアと神父に感謝された。
町に着いて早々、引ったくりにあって、それから色々あって、今に至る。前世じゃ経験したことの無い事ばかりだ…
等と考えていると、俺とリリーナがこの町に来た理由を思い出した。
「リリーナ、そろそろ行こうか。エージからの頼まれ事もあるしな。」
「あっ、そうですね。忘れるところでした。私達その為に、この町に来たんですから!」
そう言って俺等は席を立った。
「行かれるのですか?」
「ああ、世話になったな。」
「いえいえそんな、結局殆ど、おもてなしも出来ませんで。それどころか、ナタクを諭して下さって…」
「諭すって程じゃ無いって。大袈裟な…」
「ところで、何やらエージからの頼まれ事で来られたそうですが、その頼まれ事とは…」
「あぁそれは…」
簡単に説明すると。エージ達の仲間。つまりこの孤児院で一緒に育った人が、この町で同じく菓子屋を営んでいるが、こちらも売り上げが芳しくない有様なので、何か知恵を貸してやって欲しいといった感じだ。
それを聞き、テレシアと神父は、
「なる程、それはピートさんの事ですか?」
「ああ、そうだ!ピートって名前だ。」
「ふむふむ、ピートですか…確かに彼はこの町の外れで、小さいながらも店を開いてますな。数日前にも会いましたよ。」
「そうですか。よろしければお店の場所教えて貰えませんか?エージさんからは、だいたいこの辺と、大雑把な説明しか聞いてませんので…」
そうエージは何も無い空中に絵を書くように指を動かし、
「町はこんな感じの形で、ヤツの店はこの辺にあったはずだ!まぁ、分かんなかったら誰かに聞いてくれ。自警隊の施設もあっから、何とかなるだろう。」
と、本当に大雑把な説明をしていた。
「それはそれは、彼は菓子作りは繊細ですがね…それ以外は大雑把なところがありましてな…」
そう言うと神父は、1枚の地図を出して来た。
「コレはこの町の地図です。コレでご説明しましょう。今いるこの教会並びに孤児院はココです。そして彼の店はこの辺にあります。」
神父は地図を指差しながら説明してくれた。
菓子屋は本当に町の外れにあるようだ。俺等が降りた馬車乗り場と今いる教会・孤児院の位置からして、そこそこの距離があるようだ。
「ありがとう。おおよその場所は分かった。ところでそのピートってどんな人間なんだ?」
「ピートさんですか?そうですね…見た目は少し強面ですが、いたって普通の人ですね。」
「強面!ですが…」
それから俺等はピートの話を色々聞いた。話が膨らみ、エージやホイケルの話もした。その話でなかなか盛り上がった。
「と、言う訳で、ホイケルさん、こっ酷く叱られたんですよ!」
「ハハハ!そりゃそうだ!」
「ホイケルさんって、昔からそうなんですね!」
リリーナも俺の横でクスクス笑っている。
そんな彼女の背景に目をやると、外は暗くなりはじめていた。
「いっけね!話し込んでたら、こんな時間になっちまった!」
「本当ですね!」
「まぁ、いつの間に…」
「イカン!テレシア、早く夕食の準備を!」
「ハイ、神父様!あっそうですは。タイガーさんにリリーナさん。もう遅いですし、今日はここに泊まっていってくださいな!」
「おお、それはいい!」
「えっ、いいんすか⁉」
「勿論です。ナタクの件でのお礼ですから。あぁ勿論、無理にとは言いませんが…」
俺はリリーナの顔を見て、
「どうするかなリリーナ?」
「そうですね…ここはお言葉に甘えさせてもらいませんか?今からだと宿も見付かるかどうか分かりませんし…」
「そうだな…もう遅いから、ピートの所に行くのは明日にしよう。」
という訳で、俺等は一晩世話になる事となった。
リリーナも夕食作りを手伝い、何時もの夕食の時間に少し遅れはしたが、何とか用意し終えた。
そして、施設の子供達も集まり、
「いただきます!」
子供達の元気な声と共に、夕食が始まった。
メニューは、パンとスープに、おかずが二品といった具合だ。昼間の会話通り、経営状態はあまり良くないらしく、味は良いが質素な物だった。
「どうですか?お口に合いませんか?」
「あっいや、美味いよ!」
「えぇ、とっても…」
等と言っていると、子供達の揉める声が聞こえてきた。
「ちょっとアンタ達、何やってんのよ⁉」
「ロールお姉ちゃん、ビルが俺のおかずを盗ったんだよ!」
「盗ったんじゃねーよ!同じオカズなのにコイツのヤツの方が大きいから交換しようとしただけだよ!」
「大きさなんて変わんないでしょーが!」
と、他愛のない事で揉めているようだ。
俺等が見ていると、
「ビル、ケーン!」
ナタクが割って入ってきた。
「何だよナタク兄ちゃん?」
「俺のオカズ分けてやるから、喧嘩するな!」
「えっ、いいの⁉」
「勿論。ただし、食うのはちゃんと仲直りしてからだ!ビル、ケーンにちゃんと謝れ!ここで暮らしている俺等は兄弟同然だ。兄弟は仲良く力を合わせて生きていかなきゃならないんだ!つまんない事で揉めてどうする!」
と、ナタクはこんこんと説教を始めた。そして、
「分かったよナタク兄ちゃん!ケーン、ゴメンな!」
「もういいよ、ビル…」
「よしよし!」
そんな光景を見て、俺とリリーナは、
「ナタクくん、すっかり良いお兄ちゃんになってますね!」
「ああ、このまま行けば、立派な良い兄貴になれるだろう。」
微笑ましい雰囲気中、夕食を味わった。