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動機

気付けば、50回超えてました。

 しばしの間沈黙が続いていたが、ナタクが重い口を開き、


 「皆に美味うまい物を、腹いっぱい、食べさせてやりたかったんだよ!」


 と、発した。


 「孤児院ここの皆にですか?」


 と、テレシアが更に問いかけた。

 それに対してナタクは、2回、首を縦に振った。


 「それが引ったくりなんてことした理由かね?」

 「そうだよ、神父様…」

 「だからといって、こんな事をして良い理由にはなりませんよナタク!分かっているのですか?」

 「悪い事だってことは理解してるよシスター。でも…」


 それからも重い雰囲気が続いた。

 更に話を聞き、纏めるとこうだ。


 現在、この教会と併設している孤児院には、20人程の子供を預かっている。しかし、ここ数年程前から、資金繰りが上手く行っておらず、経営状態はひっ迫気味との事だ。

 お陰でここにいる子供達は、質素な食事しかありつけず、服や勉強道具も粗末な物しか無いという有様だ。おやつのたぐい等は、月に1・2度程度で、誕生日プレゼント何て物には殆ど無縁だとか。

 先程の子供達が腹の虫を鳴らしていたのはそういう理由だ。


 で、ナタクはここに居る子供達の中で最年長の方で、皆の兄貴的存在だとか。面倒見が良く、食事の時、自分の分を年下連中に分けてやってるらしい。しかし、年下の子供達には殆ど焼け石に水状態で、何時も腹を空かせている。そんな折、町で俺とリリーナを見て、咄嗟に引ったくりをはたらいたとの事だ。


 「そうだったのですか、ナタク…」

 「そうだよシスター…この女の人のカバン、結構入ってそうだったから、その金があれば皆に…と思ってつい…」

 

 早い話が、魔が差したって訳か…

 尚も重い空気が俺等を包んだ。そんな重い空気の中、テレシアが先に口を開いた。


 「ナタク、だからといって盗んでいい理由には…」

 「でもシスター、俺は年長者だ。皆は俺にとって弟・妹も同然なんだ。アイツ等のひもじそうな顔を見てられないんだよ!」


 ナタクがそれだけ言うと、俺はスッと立ち上がった。


 「タイガーさん…」

 

 横にいたリリーナが、不思議そうに俺を見て呟いた。

 そして俺はナタクの額にデコピンを入れてやった。


 「イッテー!」

 「なっ、タイガーさん!」

 

 リリーナが慌てふためいているが、俺は構わずナタクに、


 「お前、それで誇れるのか?」

 「誇る?何に?」

 

 ナタクが額を抑えながら聞き返した。


 「兄貴としてだ!」

 「兄…」

 「そうだ。お前今言ったろう?皆は弟・妹同然だって!」

 「あぁ…」

 「その子達に胸を張って言えるか?「俺はお前等の為に、盗みを働いたんだぞ!」ってな!」

 「……」


 ナタクは何も返せないでる。


 「いいか、兄貴ってのは弟・妹達にとって親の次に頼れる存在だ。特に、親のいない子供達には、困った時いの一番に駆け付けてくれるヒーローみたいなものだ。それがどうだ?お前はアイツ等の為と言って悪事を働いたが、そんな姿堂々と見せられるか?」

 「……」

 「見せられないだろ。ナタク、お前がすることは犯罪じゃ無い。彼等にとって頼りになる兄、ヒーローだ!そう思わねーか?」

 「…」

 「だから、今の辛さに負けるな。それを乗り越えて、いつかの日か彼等に自分の武勇伝を聞かせてやれ!いいな⁉」


 ナタクは俯いて、しばし考え込んでいたが、顔を上げ、


 「分かった。俺もう2度とこんな事しない。アイツ等の頼れる兄に、ヒーローになってやるよ!」


 ナタクは先程までと打って変わって、目を輝かせ始めた。


 「ナタク…」


 シスター達も顔を綻ばせた。

 同時に部屋の外から、別の子供達が部屋に入って来た。


 「いたいたナタク兄ちゃん!おやつ一緒に食べよーぜ!」

 「早く来ないと無くなっちゃうよ⁉」

 

 と、口々叫んでいる。


 「俺はいいから、お前等が…」


 そこまで言った所で俺が、ナタクの肩に手を当てた。


 「行って来いよ!弟達の誘いを無下にする事がないぞ!」

 「…あぁ、おう、今行く!」


 そう言うとナタクは、掛けでした。そして、ドアを出る直前に振り向き、俺とリリーナに向けて頭を下げ、それから出て行った。

 ナタクを見送ると、


 「タイガーさん、ありがとうございました!」

 「そんな、大した事じゃ無いって…」

 「いえいえ、先程の言葉、感服いたしました。」

 「本当にありがたいお言葉です!」


 シスターと神父は、さっきの俺の言葉に随分と感銘を受けたようだ。

 そんな2人を余所に、リリーナが、


 「タイガーさん、さっきの言葉って、あの時の…」


 と、こっそり囁いてきた。リリーナは気付いたようだ。

 実はさっきの言葉は、パティーシェタウンで観た芝居で出て来た言葉なのだ。少しアレンジを加えてはいるが…

 そんな事とはつゆ知らず、シスターと神父は例の言葉を噛み締めている様子だった。

 俺自身、前世で特別仲がいい訳ではなかったが、自身の兄が頼もしく感じた事があるので、一部実体験を踏まえて入るが…


 「いや本当、大したことないって…」


 と、若干バツが悪い感じがしたが、俺は適当に相槌を打ち、すっかり冷えてしまった紅茶を口に運んだ。



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