孤児院
俺とリリーナは、教会と併設された孤児院の客間に通された。
そこでテレシアは、紅茶と菓子を用意してくれた。
「どうぞ召し上がってください。大したものではありませんが。」
「はぁ…でも本当にもういいですよ、気にしてませんから…」
リリーナが再び遠慮がし言った。
それでもテレシアは、
「いえいえ、それではこちらの気がすみませんので…」
「テレシアの言うとおりです。どうか遠慮なさらずに…」
テレシアと神父に勧められ、俺等はお呼ばれする事となった。
改めて茶と菓子を見る。出されたその菓子には、見覚えがあるような気がした。
「それじゃあ遠慮無く…」
とりあえず、俺等は菓子を口に運んだ。すると、
「コレは…」
菓子の味にも覚えがあった。
隣のリリーナも同感らしく、表情で分かる。
「どうされました?お口に合いませんでしたか?」
テレシアが心配げに聞いてきた。
「いえ、とても美味しいですよ。ただ、何処かで食べた覚えがあって…」
「それもごく最近…」
「最近ですか…あっ、それってもしかして、パティーシェタウンじゃないですか?」
「そうだ!その町の、エージの店でだ。見た目も何処かで見覚えあったけど!」
「そうですよ!エージさんの味ですよ!」
そう、今俺等が食べてる菓子は、エージの作った品そのものだ。
それを聞き、神父は、
「おやおや、御2人共、エージをご存知で?」
「えぇ、パティーシェタウンで色々あって、知り合ったんすよ。って、神父さんもエージを知ってるんで?」
「知ってるも何も、彼はこの孤児院出身ですよ。」
「ここが!」
それから俺は、パティーシェタウンでエージとホイケルに合ってから、この町に来た経緯を説明した。
「そうでしたか。どうやらエージさんとホイケルさんを助けてくださったのですか、ありがとうございます!」
と、テレシアが深々と頭を下げてお礼を言ってきた。
「イヤイヤ、アンタが頭を下げる事ないって…」
「いえ、ここを巣立って行ってはや数年経ちますが、今でも家族同然です。家族がお世話になったのですから、当然です。」
「左用です。それなのに、町に着いて早々、とんだご迷惑を…」
「!そうでした!恩を仇で返すようなことをしていまいまして、申し訳ございませんでした!」
と、三度頭を下げて来た。
「ですから、もういいですよ…」
リリーナも三度、同じ事を言った。
等と思っていると、部屋のドアが少し開いているのに気付いた。そして、ドアの隙間から誰かが覗いている事にも気付いた。
「まぁ、あなた達!何をしているのですか⁉」
同じく覗いている存在に気付いたテレシアが叫んだ。
するとドアが開き、数人の子供達が入って来た。
「シスター…」
「何をしているのです、覗き見なんて行儀が悪いですよ!」
テレシアは子供達を叱った。
叱られた子供達は、
「ごめんなさいシスター…」
「美味しそうなお茶とお菓子の匂いがしたから…」
そう言うと、子供達の腹の虫がなった。
「もー、お客様の前で行儀の悪いですよ。さっきご飯食べたでしょうが⁉」
「食べたけど、物足りなくて…」
そう言うと、子供達は机の上の菓子を物欲しそうに見つめている。
その様子を見たリリーナは、菓子の乗った皿を手にした。
「あの、私達の事は気にしないで良いから、良かったら皆で食べて。良いですよね、タイガーさん?」
「あぁ、俺もかまわねーよ!」
「そんな、コレは御2人にと用意したものですし…」
今度はテレシアが、遠慮する様に言った。
「構いませんよ。さぁ、どうぞ!」
リリーナは、子供達に菓子をあげた。
「わ~い!」
「やりぃ!」
と、子供達は皿ごと菓子を持って走っていた。
「ありがと~!」
「サンキュー!」
と、走りながら礼を言ってきた。
「コラ!走ってはなりません!」
「まぁまぁ、お前等、喧嘩せず仲良く分けろよ!」
俺がそう言うと、
「は~い!」
と返して来た。
「重ね重ね、本当に申し訳ございません!」
「いいからいいから…ん!」
ドアの向こう側に、まだ子供が1人残っているのに気付いた。
その子供は紛れもない、リリーナのカバンを引ったくった奴だ。
もう止まってる頃だとは思うが、鼻にはまだ、詰め物をしている。
「お前は確かナタク…だったな?」
「ナタク!そうでした。まだ理由を聞いてませんでしたね!」
そう言うやいなや、テレシアはナタクを部屋に入れた。
テレシアと神父に挟まれるように、ナタクは座った。
「ナタク!何故このような事をしたのですか?」
「正直に言いなさい!」
神父とシスターに問い詰められ、その場の空気が一気に重くなったのを、俺とリリーナは感じた。
「…それは…」
ナタクが重い口を開き出した。