教会
「本当に、申し訳ございませんでした!」
シスターが人目も気にせず、深々と頭を下げている。
「ナタク、アナタも謝りなさい!」
「…ごめんなさい!」
シスターがナタクという、引ったくり犯の子供の頭を下げさせた。
「もっ、もういいですよ、頭を上げてください…」
謝られているリリーナだったが、逆に困惑している。
ほんのつい先程の事、
子供を運良く捕まえその後どうするか考えてたら、彼女が現れた。
「おたくこの子の知り合いか?」
「ハイ。彼が何かしたのでしょうか?」
状況説明をしたら、
「引ったくりだなんて!ナタク!アナタなんて事をしたのですか!!申し訳ございません。何とお詫びしたらよいか…」
と言った具合に、謝罪して来た。それに対し俺は、
「イヤ、その…正確に言うと、盗られたこのカバンは、俺のじゃなくて、連れの女の子方なんで…」
「まぁ、そうでしたか。では、その方の所に案内してくださいませんか?その方にもお詫びしたいので…」
とても断れる雰囲気でなかったので、そのままリリーナの待つ所まで案内し、今に至るのだ。
「本当にもう結構ですよ。荷物も無事に返ってきたんですから。」
「本当に宜しいのですか?あぁ、何と慈悲深い方でしょう。神に感謝します!」
と言うやいなや、彼女は祈りだした。大げさな気もするが、祈りを込めている彼女の姿を見て、俺は改めて美しい人だと思った。
彼女の方がよっぽど女神に見える位だ。
等と少し見とれていると、彼女が何かに気付いた。
「あぁ、そうでした。名前がまだでした。私近くの教会でシスターをしております、テレシアと申します。」
「テレシアさんか。俺はタイガー。」
「私はリリーナです。」
「タイガーさんにリリーナさんですね。あっ、この子はナタク。教会と併設している孤児院の子です。
「孤児院の⁉」
「ハイ、現在20人程の子供を預かっています。」
前の世界で、教会と併設している孤児院の事は聞いたことあるが、この世界にもあるんだな。
「さあナタク、改めてご挨拶なさい!」
「…ナタク…です…どうも…」
と、何ともばつの悪そうに言った。
「ナタク!何ですかその態度は!大目に見てくださったというのに!」
と、テレシアはナタクをたしなめた。
「本当に申し訳ございません。普段は元気で良い子なのですが…」
「いいですよもう。済んだことですから…」
テレシアは再び頭を深く下げた。
何とも気まずい空気になったので、少し強引に切り上げる事とした。
「それじゃあ俺達は行くトコあるんで、この辺で…」
「もう行ってしまわれるのですか?お急ぎでないなら、教会によっていってくださいませんか?」
「教会に?」
「ハイ、大したおもてなしは出来ませんが、お茶でも飲んでいってください。」
「イヤ、でも…」
等と彼女の慈愛に満ちた目を見ていたら、俺もリリーナも断れず、結局、お呼ばれする事となった。
「でわこちらに。」
俺等は教会に行く事となった。
「カー!シスターにお呼ばれするとは、羨ましいね!ニイチャン!」
「いやそんな、羨ましがる事じゃ…って!イヤイヤ、オッサンいたのかよ!」
そこにはナタクを捕まえる時に、一役買ってくれたオッサンがいた。
「いちゃ悪いか?俺も一応、当事者みたいなものだからな!」
「いや、悪くはね無いけど…てか、シスターの事知ってるのか?」
「勿論だ。この町じゃ知らない奴なんていねーよ。誰にでも親切でやさいし人でな、町中の人に愛されてるよ。何より美人だ!」
「それには激しく同意だ!」
等とオッサン話していると。
「あの…タイガーさん…置いていきますよ!」
リリーナが少し不機嫌そうに呼んだ。
「イケね。悪いリリーナ、今行く。」
それは兎も角、彼女に案内され、俺等は教会へとやって来た(流石にオッサンはもういない)。
「ここですか?」
「ハイ、隣の建物が孤児院の施設となっております。」
やって来た教会は、少々年季が入ってはいるが、立派なものだった。
「おやテレシアにナタク、帰ったのかね。」
「あっ、神父様。只今戻りました。」
「ただいま、神父様!」
声のする方には、初老で少し髪が薄くはなっているが、なかなか威厳のある男が立っていた。聞く限り、この教会の神父のようだ。
「お帰り…って、テレシア。手ぶらだが…」
「えっ…あっそうでした!買い物の為に町に行ったのでした!」
どうやら彼女は買い物に行く途中だったようだ。ナタクの事で、完全に忘れていたようだ。
彼女意外と天然な所があるみたいだな…
「何をしているのだね…それよりもそちらの方々は?」
「あっハイ、実は…」
テレシアが経緯を説明した。すると今度は神父が
「それは申し訳ございませんでした。」
と謝罪して来た。
「ですからもう済んだことですから…」
「何と寛大な方だ…せめてものお詫びです。ゆっくりして行ってください。お茶とお菓子ぐらい出しますので。」
先程のテレシアと同じ様な事を言い出した。そんな感じで、俺等は教会の中へと通された。