本屋
慣れない馬車に揺られ、ある町に辿り着いた
俺とリリーナは、馬車を降り、その町を見渡した。そして、
「ここがエージ達の故郷か!なかなか大きいな!」
と少々大げさな独り言を発した。
ここは、エージの菓子屋があった町「パティーシェタウン」から馬車で1時間半程の距離にある町だ。エージの頼まれ事を引き受けたという理由もあるが、元々の目的地と同じ方向で、尚かつ目と鼻の先位近い町だったので旅に支障は無かった(都合の良い話だとは思ったが…)。
「そんじゃエージの仲間のとこに…って、アレ、リリーナ?何処だ?」
先程まで一緒に居たリリーナの姿が無かった。
どこに行ったんだと、キョロキョロしてると、近くの本屋の店頭にいる彼女を見つけた。
「いたいた…」
俺はリリーナの元へ急いだ。そんな事もつゆ知らず、リリーナは本を眺めている。
「この本も面白そう!アッ!新刊出たんだ!」
「おーい、リリーナ!」
「アッ、タイガーさん!」
「急に居なくなるなよ、少し探したぞ…」
「アッ、ごめんなさい!本屋があったものですから、つい…」
「別に良いけど…」
本好きな彼女らしいとおもった。本と甘い物が好きなリリーナ。聞けば彼女にとって、甘い物を食べながら本を読んだり、友人とお喋りしている時(特に同じ本好きのニコと本の話をしてる時)が、何よりも至福の一時らしい。
俺も元の世界じゃそこそこ本を読んでたが、リリーナには遠く及ばない。
俺も、店頭に並んだ本を眺めた。
「なる程な、品揃えは良いな。」
「でしょう⁉」
ファーマ村やブラウンタウン、パティーシェタウンにも本屋はあったが、この町の本屋と商品のラインナップは雲泥の差だ。
「見てください、コナル・クリスティア先生の新刊ですよ。私、コナル先生の作品のファンなんです!」
「そっ、そうか…」
コナル・クリスティア…有名作家の名前を混ぜたような名前だな…と思ったが、リリーナに言っても伝わるわけ無いので、黙っていた。
「買うのか?」
「えっ…あー、欲しいですけど、旅の途中ですから、荷物になりますし…それに余計な出費は…」
リリーナは名残惜しそうにしていた。
「いいじゃないか。本1冊くらい、大した事ないだろう!」
「そっ、そうですか?そうですよね、1冊くらい、大丈夫ですよね!他を押さえれば何とでもなりますよね!」
と、リリーナは自分に言い聞かせる様に言い、本を持って中に入っていった。少しして、会計を済ませて出て来た。
「お待たせしました、タイガーさん!」
「大して待ってないさ。」
「見てください!オマケでキレイな栞貰っちゃいました!」
リリーナの手には花柄の栞があった。
「良かったじゃないか、旅の記念になるしな。」
「ええ、いい思い出が増えました。」
「そんじゃ、行くか!」
俺等は、本屋を後にした。
購入した本が入った紙袋を抱え、リリーナは上機嫌だ。
「随分嬉しそうだなリリーナ⁉」
「勿論、コナル先生の最新作ですからね。今日は徹夜で読んじゃいますよ!!あー、待ち遠しい!!」
本当に嬉しそうだ。まるで玩具を買ってもらった子供の様だ。彼女の純木な雰囲気がそれを更に引きててた。
「それなら良いけどリリーナ、何時までも抱えてないで、そろそろ閉まったらどうだ?」
「あっ、そうですね。そうします!」
そう言うやいなや、リリーナは本をカバンに閉まった。
が、次の瞬間、
ガッ!!
と、突然走ってきた子供が、カバンを引ったくっていった。
引ったくった子供は一目散に逃げていく。
一瞬の出来事に俺等がボー然としていた。
が、直ぐに正気に戻り、
「わ、私のカバン!!」
「オイオイ、まさか引ったくりか‼」
俺は今までの人生で引ったくりなんてもの、被害にあったことは愚か、目撃した事も皆無だった。せいぜいニュースで見聞きするくらいだ。それが、まさか異世界転生して体験する事となるとは…
世の中何が起こるか分からないもんだな、とTPOを考えずにそう思った。
「って、そんな呑気なこと考えてるの場合か!」
俺は自分で思って、声に出して自分にツッコンだ。
「私のカバン…どっ、どうしましょうタイガーさん⁉買ったばかりの本だけじゃなくて、着替えの服や、お金とかも入ってるのに!!」
リリーナはオロオロしている。生まれて初めての体験で、軽くパニックになっている様だ。
そんなリリーナに対し俺は、
「どうするもこうするもないだろ!追いかけっぞ、リリーナ!何としても、カバンを取り返すんだ!」
「あっ、はっ、ハイ!」
「待ちやがれ、こんにゃろー!」
「待ってー!返して、私のカバン!」
新たな町に着いて早々、トラブル発生だ。
俺等は大急ぎで、引ったくり犯の子供を追った。
唐突に最初の町の名前が出てきましが、それは、考えてるの忘れてたからです…