頼まれごと
「ありがとうございました!またどーぞ!」
エージの菓子屋で、その日最後の客が帰っていった。
それを見届け、
「ふー、今ので最後だなホイケル?」
「そうっすよアニキ!商品もほぼ完売ッス!」
店頭のガラスケースにはクッキー等が少し残ってる位で、他は売り切れている。
「よーし、丁度営業終了時間だ、今日はこれで閉店だ。」
「うっす!」
そう言うやいなや、ホイケルは店の表に下げているプレートをひっくり返し、「OPEN」を「CLOSE」にした。このプレートの面で営業中がどうかを表しているのだ。
「そんじゃ、片付け始めるぞ!」
「へーい!」
2人が店の片付けを始めた。
少しして、ホイケルが店頭を雑巾がけをしていると、
「よっ!今日も盛況だったみたいだな⁉」
「お疲れさまです!」
タイガーとリリーナが現れた。
「あっ、どうもっすタイガーさん!」
「おー、また来てくれたのかタイガー⁉」
「まーな、アドバイスした手前、最後まで見届けようと思ってな。」
「そうか、取り上げず上がってってくれよ!お茶と菓子ぐらい出すからよ!」
「いいんですか⁉それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいましょうかタイガーさん⁉」
「ああ!」
「先に行っててくれ、すぐ片付け終わるから。」
タイガーとリリーナはこの日も店に招かれた。
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「いやーお陰様で、今日も大忙しだったぜタイガー!!」
「それは何よりだ。」
ここはエージの菓子店の奥。
茶と菓子(今日の店の残った商品)を出された。
相変わらずエージの菓子は美味いな。顔に似合わず、実に繊細な仕事ぶりだ。横でリリーナも菓子をつまんでいる。甘党の彼女は終始、幸せそうな顔をしている。
それを見て俺は、ホッコリした気分になった。彼女の笑顔には、これまで何度癒やされた事か…
「これも全て、お前のおかけだ!感謝してるぜ!」
「イヤイヤ、俺は少しアドバイスしただけだぜ…」
「そんな事ないッスよ、旦那のお陰でこの店は軌道に乗ったんすから!」
と、ホイケルが口を挟んできた。
ホイケルはいつの頃からか俺を旦那と呼ぶ様になっていたた。この年で旦那と呼ばれるのは些か抵抗があるのだが…
「ところでだ、2人はこれからどこに行くつもりだ?」
「そう言えば旅の途中でしたっけ?」
「ん…あぁ…」
先も言ったがこの店の事が気になって、一日だけのはずが、既にこの町に数日滞在している。
初日は安宿に泊まり、2日目は町を散策し彼等と出会ってマドラン配りを手伝った。
3日目はマドラン配りのお陰で店に客が来ているのを確認した後、たまたま町に来ていた芝居を見て過ごした。
リリーナと共に手伝おうかと言ったが、
「自分達の店は、自分等でまわす!それに、どれだけの数のお客や注文に対応可能か自分達の力量を測っときたい!」
と言って断られた。こう言うのを、職人気質と言うのかな…
で、それ以降は、町で日雇いの様な仕事をして、路銀等を稼いだ。宿はこの店の空き部屋を提供してもらったのでタダだ。しかも、食事も提供しもらえたのでありがたかった。
因みに、食事もエージが作った品だが、これもまた美味かった。流石プロだ。本業以外の調理もお手の物みたいだな。
と言った感じで、一泊だけのつもりが、最初の町で数日足止めしている状態だ。まあ急ぐ旅じゃないし、それにだ、こうやって旅先で出会った人と交流を深め助け合う。それも旅の醍醐味だ!と都合良く自分に言い聞かせているのだった…
「ところでアニキ、例の件なんすけど…旦那と姐さんに頼んでみたらどうすっか?」
「あぁ、実は俺も同じ事を考えてたんだ…」
ホイケルはリリーナの事を姐さんと呼んでいる。明らかに向こうの方が歳上なのに…
「だから…姐さんは辞めてくださいって…この中で1番年下なのに…」
リリーナも困惑している。
そんなリリーナを尻目に俺は、本題に戻った。
「それは兎も角、例の件って何だよエージ⁉」
「イヤでも…改めて考えたらこんな事相談していいのやら…」
エージは歯切れが悪くなった。
「遠慮するなよ、乗りかかった船だ!」
「そうですよ、こうやってお2人と出会ったのも、何かのめぐり合わせかもしれませんし。それにタイガーさんなら次も又、凄くいいアイデアを出してくれますよ、きっと!タイガーさんを信じてください!」
リリーナは目を輝かせて言った。リリーナ…必要以上にハードル上がる事言わないでくれよ…
「そうか…なら遠慮なく言わせてもらうぜ。実はな、タイガー…」
「あぁ…」
「俺等の育った施設の仲間が困ってるんだ!助けてやってほしいんだ!」
「施設の仲間…⁉」
それを聞き、又ひと騒動起きそうだと俺は直感した。