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マリーの店

 「リリーナ、今日もお疲れさん。ほらよ、今日の分の賃金だ。」

 「はい、ありがとうございます。お疲れさまでした。それでは失礼します。」


 リリーナが仕事を終え、帰路に就こうとしていた。


 「ふー、今日も疲れた…あれ、あそこにいるのは…」


 リリーナが道端の切り株に座り込んでる、見覚えのある男に気づく。

 

 「やっぱり、タイガーさん。」

 「ああ、君か。」

 「目的は果たせましたか?」

 「まあね、一応…」


 俺は曖昧に答えた。言える筈もない、「強大な力を授かりモンスターと戦う!」等と子供じみたことを想像してたのに、まさかの何も無いよく言えば平和、悪く言えば退屈な世界に来てしまったのだ。

 しかも、この世界には当然ながら、俺を知る人間、家族・親戚・友人も居ないのだ。いや、それだけじゃないぞ。所持品も着ている服だけで金だって一銭も無い。そう俺は、(多分)記憶以外全てリセットされ、全てを失った状態でこの異世界に放り込まれたのだ。


 「マジかよ…どうやって生きて行けばいいんだよ、こんな世界でよ。」

 「タイガーさん…どうしました?」

 「あっ、いや何でもないよ。」

 

 そういった途端、腹の虫が鳴った。そういえば、朝リリーナの家で軽く食べてから何も口にしていない。


 「お腹空いてるのなら何か食べに行きません?」

 「そうしたいけど、俺、金無いんだよ。無一文なんだよ、冗談抜きで。」

 「おごりますよ。たいしたものでなければ。」

 「マジ!ありがとう助かるよ。今度働いて返すよ。」

 「別にいいですよ。それじゃ町の方にでも行きましょうか。この村には飲食店が余り無いんで。少し歩きますけど。」

 「構わないよ。」


 俺等は町で飯にすることにした。にしても、見ず知らずの俺にこんなに良くしてくれるなんて良い子だ。天使に見えるよ。逆に変な奴に騙されないか心配になる位だ。

 徒歩で暫くすると町が見えてきた。さっき主婦に聞いた所らしい。なるほど、渋谷とかには遠く及ばないが、人も多い。町並みは天○の城ラ○ュタの主人公の住む所に似ていると感じた。「肉団子2つ頂戴!」と言いたくなりそうだ。


 「ここにしましょうかタイガーさん。」

 「どこでもいいよ。贅沢言える立場でもないし。」


 そこは小さな喫茶店の様な店だ。見た感じ、余り流行ってはいないようだ。入店したら案の定、客は俺等以外2・3人位しかいない。すると店の女店主らしき人が近づいてきた。肝っ玉母さんといった感じの女性だ。


 「あら、リリーナ。久しぶりじゃない、いらっしゃい。」


 と、タメ口で話しかけてきた。


 「今日はマリーさん!」

 「知り合いなの?」

 「ええ、たまに来る店で顔なじみなんですよ。」

 「あら、珍しい!アンタが男なんか連れて…まさか、アンタのコレかい?」


 女店主は右手の小指を伸ばして出した。

 これって、この世界でも通じるサインなのか…


 「ちっ、違います!昨日知り合ったばかりの人で、色々困ってるみたいだからその…」


 リリーナは、慌てて否定し説明しようとしたが、言葉が出て来ないみたいだ。


 「ハハ!冗談よ。さっ、席に座って。」

 「もー、マリーさんたら…」

 

 するとマリーは、俺等を店の奥の方に案内した。


 「空いてるのに奥のこんな離れた所に何で?」


 と思っていると、そこは他の席からは観葉植物とかが目隠しになり見えにくくなっていた。俺とリリーナはそんな関係でないというのに、どうやらかなりお節介な人らしい。

 

 「はいお待ちどう。」

 

 注文の料理が来たので俺等は食べ始めた。リリーナはパスタとサラダ、俺はカレーにした。この世界にもカレーはあるんだな。

 

 「うん、なかなかいけるな。何か懐かしい感じだ。」


 元いた世界だったら、おふくろの味といったところだろう。


 「そうでしょう?飛び切りってほどじゃないけど、いい味してるんですよ、この店。」

 「でも…」

 「でも、なんです?」

 「余り流行ってはいないなこの店。」

 「そ~なのよ…」


マリーが会話に入ってきた。


 「先月から近くに別の店が何軒が出来て出来たおかげで、客足が落ちてるのよ…」


 深刻そうな顔をしている。少し作りっぽいが、客足が落ちてるのは、見たところ本当だろう。


 「確かに、前はこの時間帯ならもう少しお客さんが来てたのに、今は私達以外殆ど居ないわ。」

 「このままじゃ、やっていけないは…」


 とため息をついた。


 しんみりして来たな。俺はしんみりした雰囲気が苦手だ。個人経営の飲食店が経営に行き詰まってるのは、こっちも一緒か。

本当、異世界らしくない世界だ…

ふとメニューを見てみると、カレー・パスタ・サンドウィッチといったありきたりなメニューしかなく、看板メニューと呼べそうなものは無い。


 「あのさー、もっと華のあるメニューは無いの?例えばパンケーキとか…」

 「「⁉パン…ケーキ…」」


 2人はポカンとした顔をしている。


 「パンならあるわよほら。」


 マリーは、メニューにあるロールパンやトーストといった、極普通のパンの項目を指差した。


 「イヤイヤ、そのパンじゃなくて…ならホットケーキは?」

 

 それでも2人はピンと来ないらしく、俺は身振り手振り説明したがそれでも伝わらず、絵も書いたが分ってもらえなかった。ようやく理解した。この世界いや、少なくともこの国にはホットケーキもパンケーキも無いらしい。


 「タイガーさん、そのパンケーキにホットケーキって美味しんですか?」

 「説明聞いてたら、食べてみたくなったわよあたしも。」

 「うーん、これは…作るしかない。みたいだな…」


 そんなわけで、俺はこの世界で初めての料理を披露すらこととなった。

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