表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/185

旅立ち

 ようやく2人が旅立ちます

 いよいよ旅立ちの日が訪れた。何時もよりも早く目が覚めた俺は、朝食を済ませる事にした。旅に出るので食料品は全て、この朝食で使い尽くした。


 「ごちそうさま。」


 この家での最後の食事を終え、片付けをしていると、感傷深い感じがした。こんな小屋でも住み慣れた場所だからだろうか。住めば都っていう程じゃないけどな…

 最後にもう一度荷物の確認をし、俺は小屋を出た。そして戸締まりをしていると、


 「タイガー!」


 名を呼ばれた。それは今いる牧場のオーナーだ。隣には奥さんもいる。


 「今日、行くんだったな。」

 「えぇ、色々とお世話になりました。」


 俺は頭を下げて礼を言った。

 旅に出る事は、かなり前から言っておいた。少々嫌味を言われることを覚悟していたが、案外すんなり了承してくれた。


 「そうだオーナー、コレを…」


 それは小屋の鍵だ。旅に必要ないので返す事とした。

 オーナーは無言で受け取り、懐に仕舞った。そして少し間を開けてから、


 「…タイガー…アレだ…その」

 「はぁ…」

 「リリーナの事を頼むぞ!」


 と、オーナーはこれまで何度となく言われた言葉を口にした。まさかオーナーの口からも、聞くことになるとは…俺が少々困惑していると、


 「いや、何でもない!仕事があるから、それじゃあな!」


 と言って踵を返す様に、立ち去っていった。

 呆気にとられていたが、その場に残っていた奥さんによると、実はオーナーは、リリーナの父親の友人で両親亡き後のリリーナを気にかけていたのだ。そのリリーナが、何処の馬の骨かも分からない俺を連れて来た。オーナーは、リリーナに変な虫が付いたんじゃないかと、気にしていたのだ。俺に仕事後にも牧場の見張りをさせていたのも、俺を試す一環だったとの事だ。

 オーナーが俺に少々キツイ態度を取っていたのは、そういう訳だったのか。あのオーナー、意外とツンデレなとこあったんだな…

 俺は奥さんにも礼を言うと、リリーナとの待ち合わせ場所に向かった。待ち合わせ場所は、町に続く道の途中にある、大きな木の下だ。既にリリーナは来ていた。


 「お待たせ、リリーナ!」

 「タイガーさん!いえ、私も今来たばかりですよ。」

 「それじゃあ、行こうか!」

 「ハイ!」


 俺とリリーナは歩き出した。その足で町外れの馬車乗り場へと向かった。

 この国での主な交通手段は、馬車が主流だ。映画のラピュタでは鉄道があった様に、この世界にも鉄道のたぐいは一応ある。が、現在この国ではそれは、主に物資運搬用で、殆ど一般化されていないらしい。遠い国では交通手段化されているとこもあるらしいが…

 それは兎も角、馬車乗り場へ到着すると、多くの知った顔が待ち構えていた。マリーやテツ、ホリィ達等といった、この町での知人達が集合していた。


 「何だよ、見送りに来てくれたのか?」


 俺が訪ねる。


 「何言ってんだい、当たり前だよ。」とマリー。

 「水臭いこと言ってんじゃないわよ!」とケティ。

 「見送りゼロなんて、つまんねーだろ?」とテツ。


 ホリィ等、他のメンバーも同じ様な事を言っている。

 正直、こんな大勢に見送られるなんて、経験ないから少し照れるぜ。横にいるリリーナも、少々恥ずかしそうだ。


 「しっかりと、世界を見てこいよ、タイガー!」


 そう言ってテツは俺の背をバシバシと叩いた。地味に痛かった。手加減を知らないのかこの男は…

 一方リリーナはというと…


 「元気でね、リリーナ!」

 「絶対に帰ってきてよね⁉」

 「これ旅先で読んでね。」


 といった具合だ。するとケティが彼女に耳打ちをした。途端にリリーナが、顔を赤くした。

 何を言われたんだか…

 気にはなったが、聞かない事とした。

 

 「ところで、例の書類は持ってる?」


 と、ミミが聞いてきた。この世界では他国に入国するには、出身国の役所が発行する資料等が必要なのだ。

 リリーナは兎も角、俺は出身は疎か、本名すらもはっきりしない身分だ。発行してもらえるか怪しかったが、ミミが上手いことしてくれたおかげで、無事発行してもらえた。やっぱり持つべきものは友だな。


 そして、いよいよ旅立ちの時が来た!

 俺等の乗った馬車が走り出した。


 「行ってくるぜ!」

 「行ってきまーす!」


 俺等は馬車に揺れながら、見送り人達に手を振った。向こうも振っている。互いに見えなくなるまで振り続けたのだった。

 いよいよ俺達2人の旅が始まったのだ。心がワクワクしだした。こんな感じは何時以来だろうか…

 俺が染み染み感じていると、リリーナが本を開いた。これから向かう場所の事が書かれた本だ。彼女もウキウキしてる模様だ。しかし…


 「リリーナ、こんなところで読んだら酔うぞ!」

 「酔う…ですが?」


 この様子だと彼女は乗り物酔いという事をよく知らないようだ。無理もない、彼女は碌に旅行もした事ないんだからな。俺は乗り物酔いの説明をした。が、リリーナは、

 

 「よく分かりませんけど、多分大丈夫ですよ。私こう見えて、病気らしい病気になったこと無いんですから!それよりタイガーさん。これから行く国は…」

 

 と、いった感じだ。乗り物酔いは病気とは違うんだが…俺の心配を他所に本に目をやっている。そして案の定、十数分程して…


 「うっ…ううっ…」

 「大丈夫か、リリーナ?だから言ったのに…」

 「ご、ごめんなさい…」


 リリーナは思いっきり酔った。


 「あのー、お客さん…」


 馬車の御者(ぎょしゃ)は迷惑顔を隠せないでいる。俺は彼女を介抱しながら、平謝りで謝り、暫く待ってもらった。

 旅は、早くも前途多難となりそうだった…

 


 御者とは、馬に馬車をひかせて、走らせる人(要は運転手)の事です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ