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挨拶周り

 そうこうしている内に、俺とリリーナが旅立つ日が近づいた。

 計画を立てたり、荷造りをしていたら、あっという間に時間は過ぎていった。


 旅立ちの日の前に、俺はマリーやテツ、ゲンと息子のレン等といった面々に挨拶して回る事にした。


 「リリーナの事、頼んだよ。何かあったら、アンタがあの子を守ってやんなさいよ。」とマリー。

 

 彼女は相変わらず、肝っ玉母ちゃん風全開だった。


 「達者でな。何時でも、戻って来いよ。お前のおかげで小遣いも増えたし、また飲もうぜ!」とテツ。

 

 正直言って、酒は勘弁してほしいと思った。


 「必ず帰ってきてくれよ、タイガー!絶対だぞ!」とレン。


 レンの方も、変わらず元気一杯だ。

 父親のゲンは…って考えたら俺、ゲンと殆ど言葉を交わしたことがない事に気付いた。初めて会ったラーメン屋でも、テツと飲んでたし、カードの方もテツを経由していたから、まともに話していない。

 ゲンの方もそれに気付いたのか、互いに黙りこもってしまい、少し気まずい雰囲気になった…最終的に、「元気でな…」とだけ話したのだった。

 そんな空気のまま、ゲン親子と別れた。そして道を歩いていると、声をかけられた。


 「よっ、タイガー!旅立ちまでもうすぐだな!」

 「ああ、ケティか。」


 制服姿のケティだった。どうやらパトロール中らしい。


 「いやしかしまさかねー、あのリリーナが男と旅に出る日が来るなんて、思っても見なかったよ。」

 「正直俺も、彼女に同行させて欲しいと言われた時は、自分の耳を疑ったよ。」

 「だろうね。で、今何してんだい?」

 「この町の世話になったり交友のある人達に挨拶して回ってるところだよ。ケティ達の所にも行こうと思ってたんだ。」

 「そっか。リリーナもさ、あたし達を始め、アチコチに挨拶して回ってるらしいよ。」

 「そうか。何処かで、入れ違いになったかな…」


 等と話しているとケティが、彼女にしては珍しく、真剣な顔をした。


 「…」

 「ケティ?どうしたんだ?」


 と、言った矢先、ケティが俺の肩を「ガシッ」と、掴んだ。体を張る仕事をしているだけに、中々の握力だ。


 「ケティどうした?俺、何か変な事言ったか?」


 俺が軽く混乱していると、ケティは、


 「タイガー…」

 「おう…」

 「リリーナの事、頼んだぞ!」

 「ケティ…」

 「分かってるだろうけど、あたしは仕事あるから、滅多な事じゃ、この町を離れられない。何かあったら、アイツの事を守れんのは、あんただけなんだ!その事、肝に命じとけよな!」


 ケティの目は、何時もの彼女とは別人のものになっていた。それを見て俺は、普段は大雑把ぽい彼女だが、親友の事を思う気持ちは、他のメンバーと変わりないんだと思った。

 その時俺は、改めて自分の役目の大事さに気付いた。マリーも言っていたけど、旅先で何かあったら、彼女が頼れるのは俺くらいだ。俺がしっかりしないといけないんだ。

 俺は決意を新たにした。


 「勿論だケティ!彼女は俺が命に変えてでも守る!約束する!」

 「タイガー…よし、よく言った!それでこそ男だ!」


 とケティは公衆の面前である事などお構いなしに、俺の背をバシバシと激しく叩いた。


 「痛!イッテーよケティ!」

 「あっ…わりー…」


 その後、勤務中のケティとはそのまま別れ、俺は他のメンバーの所に行くこととした。


 まずはニコだ。職場の図書館に行くと彼女は丁度休憩時間だったらしく、図書館から出て来た。

 丁度良かったので、その場で話した。

 が、話している最中、俺は妙な視線を感じ、周りを見ると、近くの人達が、俺等をまじまじと見ている。

 

 「何なんだ、一体…珍しい物見るみたいに…」

 「あっ、スミマセン。多分それ…私のせいです…」


 聞くと、この前チンピラ達を退治した一見以来、周りで彼女(ニコ)を見る目が一変したらしい。無理もない。1人でチンピラ達を返り討ちにしたんだからな。しかも、彼女みたいな女の子が。

 ただ、噂が独り歩きして、大袈裟になっているらしく、「一人で数十人を薙ぎ倒した」だの、「実は幻の暗殺一家の人間だった」等という、荒唐無稽な話になったとか…


 「そんなんじゃないのに…私はただ、ホリィを助けたかっただけなのに…」


 と、顔を赤くして、俯いている。


 「いっ…色々と大変だな君も…」


 それ以外、彼女にかける言葉が見つからなかった。

 その後、ミミとホリィとも、挨拶を交わしに行った。一通り終えると、一先ず、家に帰ることとした。帰宅途中、俺は挨拶周りのことを頭の中で回想した。それというのも、リリーナの事を頼まれたのはマリーやケティからだけではなかったからだ。

 ニコ・ミミそしてホリィ。この3人にも最終的には「リリーナの事を守ってあげて欲しい」と懇願された。皆が皆、本気の目だった。


 「リリーナ…皆から愛されてるんだな…」


 と、俺は独り言で呟いた。改めて俺は、彼女を同行させるという事の、重大さを痛感した。


 「…皆、任せてくれ。彼女は俺が守る!」


 俺は決意を新たに、家路に着いたのだった。

 

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