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図書館

 更に数日後、俺は町外れの小さな図書館で調べ物をしていた。

 調べ物と言っても、大したものではない。近隣諸国の場所と行き方、それからその国で何が盛んか等といった事だ。


 「なる程、この国は漁業が盛んなのか…」


 旅に出る。そうリリーナには言ったが、何の宛も無く、寅さんみたいに風の吹くまま気の向くままな旅をしようとは、思っていない。

 俺はこの世界で、一山当てると決めた。その夢の為に、各地を回ろうと思っている。これは、その為の旅だ。

 勿論、この町が嫌になったわけではない。アクドみたいな奴もいるが、基本的に皆良い人で居心地も良い。まあ、仕事はキツイが…現にこの町でパンケーキやベイゴマ、カードに食パンと、色々と流行らせる事に成功した。

 しかしだ、この町だけじゃ流行らせるにも限界がある。会社の成長が10年位が限界だと聞いたことがある。それと同じで、一つの町で流行らせられる物事にも限界がある。

 そこでだ、各地を周り、そこの特産品等を活かすアイデアをプロデュースし、ひと稼ぎしようという訳だ。元いた世界でのブーム・流行り事の記憶はまだまだ沢山ある。それを活かせそうな場所を、地図や資料とにらめっこして、選出しているのだ。

 そんな俺を、後方で見守る2人がいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「タイガーさん、随分と真剣な顔をしてるわね、リリーナ。」

 「うっ、うん…」


 受付(カウンター)の前と向こう側に居るのは、リリーナとニコだ。図書館内なので、声はかなり抑えて話している。

 ニコは、この町外れの図書館で、司書をしているのだ。小さな図書館なので、職員はニコを入れて3人程しかいないが、十分回せている。

 町外れで余り利用者も多くない上に、静かで掃除も行き届いている。尚かつ、小さいながらも本のラインナップはそれなりに充実しているのだ。   

 リリーナとニコ。2人共、読書が趣味なので、2人にとってここは正に、憩いの場と言える場所なのだ。特にニコはそれが高じて、図書館で働く司書になった程だ。

 リリーナは流石にそこ迄は行かないが、静かでラインナップの良いここをよく利用している。最も彼女の場合は、本に余り金をかける余裕が無いという理由もあるが…

 普段は本の事で盛り上がる事もある2人だが、今日は…


 「ねえ、リリーナ。」

 「何、ニコ?」

 「タイガーさん、このままだと、もうすぐ旅に出ちゃうのよね?」

 「そうよ、それが何?」

 「いいのこのままで?」

 「!ちょっとニコ、ケティだけじゃなく、あなたまで何を言い出すのよ、いきなり⁉って、イケない…」


 リリーナはうっかり大きな声を出してしまったが、すぐにここが図書館である事を思い出し、両手を口に当てた。


 「だってさっきからずっとタイガーさんの方を見てて、私との話も殆ど上の空じゃない。」

 「そっ、それはその…」

 「リリーナ、あなたタイガーさんがもうすぐこの町から居なくなる事を気にしてるんじゃないの?」

 「…」

 

 図星だった。リリーナにタイガーが旅に出ると言われてから、その事が頭から離れないでいるのだ。


 「ねえリリーナ。ケティやミミと相談したんだけど…アナタもタイガーさんと一緒に行ったらどうかしら?」

 「え!一緒に…何を急に…」

 「そうよ。タイガーさんなら、すんなりとオッケーしてくれるかもしれないよ。あの人も、あなたの事まんざらでもないみたいだし。」

 「で、でも…」


 と、リリーナが言葉を見いだせないでいると、後ろから当の本人が現れた。


 「リリーナ、ニコ。」

 「!タイガーさん!」

 「どうした驚いたみたいな顔して?」

 「あっいえ、何でもないです。それよりも、調べ物は終わりましたか?」

 「ああ、後は帰ってからゆっくりスケジュールを組むつもりだ。」

 「そうですか…」

 「それじゃあ俺は帰るけど、リリーナは?」

 「私はもう少ししたら、帰ります。」

 「そうか、それじゃあお先に。」


 そう言ってタイガーは帰って行った。それを見送り、後に残された2人は、


 「リリーナ、後になる程言い出しにくくなるわよ。」

 「ニコ…でも…」

 「ほら、この前読んだ本にも書いてあったでしょ?やらずに後悔するより、やってから後悔する方が良いって!」

 「……」


 リリーナは下を向いたまま少し考えてから、顔をあげた。その顔は、何か吹っ切れた様に見えた。


 「分かった、私、言ってみる。ありがとうニコ!」

 「その粋よ、リリーナ!」


 そう言うと、リリーナはタイガーを追いかけて行った。ニコはそれを見届け、


 「ふぅ〜…」


 リリーナを見送った後、ニコは深いため息を吐いた。慣れない上に、柄にもない事をして、一気に疲れが出たのだ。

 そんなニコの近くの本棚からミミが現れた。ずっと隠れて、様子を見ていたのだ。


 「お疲れ様ニコ!」

 「ミミ…やっぱり私にはこの役目、荷が重いよ…」

 「でも、リリーナと特に仲のいいあなたが後押ししたから、リリーナも決心出来たのよ。」

 「だけど…」

 「全てはリリーナのためよ。」

 「うん。でも、上手く行くかな?…」

 「それは私にも分からないわ。取り敢えず、私達ができる事はやったわ。後は、結果を待つばかり。兎に角、最後まで見届けましょう。」


 そう言うと、2人は良い結果報告が来る事を祈った。



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