情報収集と実験
支度を済ませると、リリーナの家を出た。支度と言っても何も持ってないから、トイレを済ませるくらいだ。
「行きましょうか、タイガーさん。」
「ああ、案内頼むよ。」
十数分程歩き、リリーナと共に森を抜けて、村にたどり着いた。それは地球でやったテレビゲームのロープレに出てくるような村だった。コンクリートでない石造りの壁の家。地面は一切舗装されておらず、砂利や土がむき出しで草も無数に生えている。家畜の馬や羊もいる。野菜や果物を育てている畑なんかもある。テレビで見たオランダの田舎に似ていると俺は感じた。
「タイガーさん、私はここで。今日は、この先の農家での仕事なので。」
「ああ、案内ありがとう。」
「それでは。」
そう言うとリリーナは仕事場へ歩いていった。
リリーナと別れた俺は、村をぶらつき情報収集を行う。直ぐに他の村人と出会った。見た感じ、主婦といったところかな。リリーナ以外の人は初めてだ。頭の中で
「第1村人発見!」
等という、どっかで聞いてようなフレーズが過ぎった。それは置いといて、早速話しかけた。
「あのー、今日は!」
「あら今日。見ない顔ね、どこから来たの?」
「他所の地方から少々…」
何だか本当に、旅番組みたいになって来たな…
とりあえず、いろいろ話して情報を得ることにした。幸いこの人は、話好きらしく聞いてもない事までベラベラ話してくれた。主婦のおしゃべり好きはどこも一緒なのだろう。元いた世界だったら、うっとおしく感じて聞き流していただろうが、今の俺には有り難かったので、一字一句聞き漏らさないよう、耳を傾けた。
「あら、そろそろお昼の時間だわ。子供のお昼ご飯作らなきゃならないから、この辺で。」
そう言うと婦人は去っていった。
やっと終わった…一時間は話し放しだ。本当に何で主婦はこうおしゃべりが好きなんだ?とはいえ、この村のことは大方知ることができたから、予定通りだ。
その後、散策を続けると小さいが書店があったので、しばし立ち読みさせてもらった。立ち読みお断りと言われないかと思ったが、不用心にも店主が寝ていたので、その隙に大急ぎで読ませてもらった。この世界特有の文字の様だが、普通に読めた。都合のいい話だ。
動植物の図鑑、料理の本、この世界の歴史が書かれた本等、手あたり次第急いで読んで店を後にした。
その後も、色々見聞きして手あたり次第情報を掠め取りまくった。こんなに頭使ったのいつ以来だろうか。もう、へとへとだ。
その後、人気の居ない所まで行き、「物は試し」と言わんばかりに、飛んだり走ったりしと、色々やってみた。走れば普通の速さで、近くの岩を持ち上げてみたが、特に腕力が付いてるわけでもなさそうだ。木の幹を殴ったり、蹴飛ばしたりしてみたが、手が痛くなっただけだ。その後も色々試行錯誤してみた。傍から見たら変な奴と思われるだろう。人の居ない所で正解だ。終わったら体がひどく疲れていた。俺は元々体力はあんまない方だったが、転生しても大差ないみたいだ。
こうして、俺の情報収集と実験?は、一通り済んだ。一日がかりで得た情報を纏めるとこうだ。
この村は見ての通り、農業や牧畜で作物や家畜を育て、育ったら少し離れたとこにある大きな街に卸して生計を立たている。早い話が、極平凡な田舎の村と言う訳だ。
離れたとこの街は、ここよりもやや近代的で、この村の作物等を店先に並べて売ったり、調理して食堂で提供するか、更に海外に輸出しているらしい。この村の物以外にも、近くの海で漁をして魚や貝を取る、山で狩猟で動物を狩るか鉱物採取をする等して、それを海外に流す等して生活費を得ているとの事だ。
ちなみに、肝心のモンスターの類だが、この村や街だけでなく、全世界規模で大昔から存在しない。リリーナが言ってたようにモンスター・魔法は作り話だけのもので、生き物も知りえた限り元居た地球と若干の違いはあっても、大差なかった。人は石器など道具を一つ一つ手作りし、長い時間をかけて繁栄して今に至る。因みにこの世界は、俺の見立てで、元居た世界の1世紀くらい前の状態にある様だ。
「うん、成る程な…」
俺は村はずれの草原まで歩き、草原の真ん中で誰に聞かせるわけでもないが、叫んだのだ。
「この世界…何もねーじゃねーか、地球でタイムスリップしたのと代わり映えし無いぞ、この世界!」
そう俺が来た異世界は魔法も無い、モンスターも居ない、当然チート的な力等といった物も皆無という、ないもの尽くしの世界だった。