ニコ
俺は一瞬、何が起きたのか分からなかった。今さっきまで横暴な振る舞いをしていた男の一人が目の前に倒れているのだ。
「な…」
男は完全にのびている。俺がのびた男に意識が向いていたかが、別の男の声で意識を戻した。
「てっ、テメー!何しやがった!」
「アマが!」
別の男がニコに殴りかかった。が、ニコはその拳を素手で受け止めた。そしてそのまま、男の腕を少し手前に引いた。男はバランスを崩し、倒れそうになる。その瞬間、ニコが掴んだ腕を前の方へとねじる様に回した。すると男の体が一瞬宙に浮いたのだ。そして、ニコは素早く片方の手で男の肩を掴み、
「ハッ!」
という掛け声を上げ、そのまま男を地面へと叩きつけた。
ドシーン!
と、派手な音と砂埃が辺りに響いた。そんな光景が、ほんの僅かな間に起きたのだった。
「何だ…今のは…」
地面へと叩きつけられた男は、ニコの足元でも俺の目前の男と同様にピクピクしながらのびている。
俺は察した。どうやら最初の男もニコがやったらしい。
残った男は、予想外の出来事に焦りが顔に出ていて、隠せないでいる。
すると男は懐に手を入れた。
「くっ、素人相手にこんな物、使いたくはなかったが…」
と、遂には凶器を取り出しやがった。折りたたみ式のナイフだ。
それを見て、野次馬が悲鳴を上げた。
俺も焦った。流石にナイフはマズイ。
「ニコ、逃げろ!」
俺は叫んだ。が、ニコは少しも動揺した様子を見せない。刃物を全然恐れている様子が見られない。俺は「彼女は本当にニコなのか?」と言う、疑問が脳内を埋め尽くしているのを感じた。
等と呑気に考えている間に男が切りかかった。
「ニコ!」
俺は再び叫んだ。が、ニコは自分の片手を、男のナイフを持った手へと素早く振り付けた。
バシッ!
ナイフは弧を描く様に男の手から弾け飛んだ。そして、離れた場所に刺さった。
「!!ナイフが…」
「まだやりますか?やるのなら、次は全力でお相手しますよ⁉」
今度はニコが男を挑発した。て言うか、あれでまだ、全力じゃなかったのかよ…もう完全に俺の知ってる彼女ではなかった。
男は完全に勝ち目がないと悟ったようだ。逃げ腰になっている。
「!!チッ、チキショー!覚えてやがれ!」
男は捨て台詞を吐いて逃げ出した。が、進路を別の人物に塞がれ、その場で取り押さえられた。
「大人しくしろ!」
「イテテテテ!」
男は拘束された。男を拘束した人物は、軍服っぽい感じの制服を着ていた。しかも女性だった。が、俺はその声に覚えがあった。
「全く、ホリィのパンをよくも。と、ホリィ、ニコ大丈夫か!あっ、後タイガーも…」
「えぇ、大丈夫よケティ。ニコのおかげで。」
「ケティ!その格好は…」
俺はまるでオマケみたいにな扱いだっが、そんな事よりも目の前の光景に驚いた。帽子のおかげで分からなかったが、その人物はリリーナとホリィの友人の1人ケティだったのだ。
「いやー流石にニコ。見事な腕前だったな。」
「ううん、そんな事無いよ…それよりも私ったら、何てはしたない事を…」
と、顔を赤くした。どうやら普段の彼女に戻っている様だ。
俺はいろんな事が短時間に有り過ぎて訳が分からなくなっている。が、そんな事はお構いなしに、ケティは拘束した男を尋問した。
「さてとお前等、何だってこんな事をした?金か?それとも、怨恨…まさか彼女の身体が目当てか?」
「ちっ、違う!頼まれたんだ!」
「頼まれた⁉誰にだよ?」
俺が思わず口を挟んだ。すると男は顔をキョロキョロさせ、ある方向で止まった。
「あっ、あの男だ!あの男に営業妨害してくれと、頼まれたんだ!」
と、顔で指した。その方向には、帽子で顔を隠した、絵に書いたように怪しい感じの男がいた。が、直ぐ様慌てて逃げ出した。
俺はほぼ無意識にその男に飛びかかった。
「逃がすか、コノヤロー!」
「がっ!はっ、離せ!」
怪しい男は暴れた。そのはずみで、帽子が落ちた。俺は男の顔を見た。そこには見覚えのある顔があった。
「あっ!アンタは確か…」
男は例のパン屋の店長、アクドだった。
説明下手なので、この話の描写、読者が上手くイメージ出来るか不安です。