悪巧み
「食パンだと!」
「はぃ…商品を食パン1つにしたようです…」
「まさか、何だって食パンだけでこれだけの客を呼べるのだ?」
「聞いた話によると、単純に美味しいからだそうです。」
「どういう事?」
「実は…」
右腕たる店員が仕入れた情報によると、少し前に町で、お試し品として1人につき、食パン2切れ程が無料配布された事があったらしい。それを貰い食べた人達の間で、ホリィのパンの旨さが知れ渡り、求める人が日に日に増加し、今に至るという。
「それでこの行列だと言うのか?」
「はい、当店の食パンの売れ行きが落ち込み出した時期と合いますし、現にこれだけの集客がある以上、間違いないかと…」
「ぐっ、ぐぐ…」
店長がギリギリと歯を鳴らし、悔しそうな顔をしている。最早、普段客に見せている営業スマイルは完全に消えさっており、完全な悪人顔となっていた。
ホリィの店の存在は知っていた。しかし、こっちは大型店。一方向こうは、若い女性1人のこぢんまりとした店。売上で負けることなど100%考えられない。
そう思っていた。が、今まさに、アウトオブ眼中だったその店に、客足が流れている有様だ。
「小娘め!放っといても勝手に居なくなる。そう思っていたのに…生意気な事を…」
「どうしますか、店長?」
「決まっているだろう。少し痛い目に合ってもらおう。2度と生意気な事が出来ない様に!」
「痛い目とは、どの様に…」
「そうだな…よーし、良い事を考えた!」
そう言ってアクドは顔をニヤけさせた。
「良い事とは?」
「詳しくは店で話す。一旦、店に帰るぞ!」
そう言うとアクドは、怪しげな笑みを浮かべ店へと戻って行った。
ところ変わってタイガー側。
「はい、食パン2斤ですね。」
「こちらになりまーす。ありがとうございました。」
俺とリリーナは、ホリィの店の手伝いをしている。俺等だけでなく、ケティ等も暇を見つけては手伝いに来てくれており、交代交代で手伝っている状態だ。
俺の狙いは的中した。食パンを試食しその旨さを知った時これだと感じ、食パンのみに絞るようにホリィにアドバイスしたのだ。結果は、見ての通り、またまた大成功だ!
お客が殺到するようになり、最初ケティは人を雇ったらと提案したが、自分は人に給料払って雇えるような身分じゃない等と言ったので、それならばと、皆で手伝う事となったのだ。因みに俺等以外のホリィの友達も手伝ってくれている。本当、持つべき者は友だな。
と、俺が感心しているとニコがやって来た。
「リリーナ、タイガーさん。お待たせ。」
「あっ、ニコ。思ったより、早かったわね。」
「うん、予定が早く片付いたから。」
この日リリーナは午後から、ニコは午前中にそれぞれ用があったので、途中で交代することとなっていた。
「それじゃあニコ、後よろしくね。タイガーさんもお願いします。」
そう言うとリリーナは行ってしまった。ホリィは奥で作業をしているので、売場には俺とニコの2人きりになった。
「そんじゃよろしくニコ。」
「あっハイ!お願いします!」
ニコは、オドオドしながら答えた。
「おいおい、俺が怖がらせてるみたいに見えるだろうが。お客がいるんだから、普通にしてくれよ、普通に…」
「すっ、すいません…」
リリーナによると、昔からかニコは気が弱いらしい。友人の中でも特に口数も少なくて、特に男とは家族以外まともに話せないらしい。何とも気まずい雰囲気になりそうなので、目の前の仕事に集中する事にした。ニコは何とか接客出来ているので、一安心だ。そう思った瞬間、
「ガシャン!」
「キャー!」
と、外で大きな音がして、悲鳴が聞こえて来た。