アクドの店
再び時は流れ、偵察から早2週間。
ここは、アクドの店のバックヤードにて。アクド店長と彼の右腕たる店員が、話をしている。
「どうだ今日客入りは?」
「えぇ、店長。相変わらずの盛況でございます。」
「そうかそうか、フフフフフ。」
店長アクドは不敵な笑みを浮かべ笑った。それが、悪人顔を更に引き立てた。売上が上々なのだから当然だろう。
が、近くを別の店員がパンの入ったケースを持って横切った。そのケースには、一種類のパンで占領されていた。それを見て、アクドから笑みが消えた。
「待て、それはどうした?」
「これですか?売れ残りです。完全に固くなってしまっているので、やむを得ず廃棄に回そうと…」
「売れ残りだと?!おい、これだけの量が売れ残るとは、どういう事だ。出来る限り、売り切れと言っているだろうが!」
アクドが右腕たる店員に詰め寄る。この店では、閉店が近づくと売り切る為に、半額以下の値にする事があるのだ。それにより、この店では売れ残りは殆ど出ない。故に、今、アクドの目の前に大量の売れ残りがあるのは不自然なのだった。
「申し訳ありません。実は最近、その商品の売れ行きだけが、下がってきているのです。」
「下がってるだと!どういう事だ!聞いてないぞ、そんな話!」
「すみません。下がっているのに気付いていたのですが、今の所は、誤差の範囲内だったものですから…報告せずにおりましてその…」
店員はしどろもどろに答えた。
「たく、マヌケが!」
アクドが悪態をついた。その日は店員の言うとおり、誤差だという事で話は終わった。しかし、それ以降、日に日にその商品の売上が下がり続けた。それに連動してか、他の商品の売れ行きも落ち込みが見られるようになった。更に、日が経つにつれ、それは目に見えて明らかとなった。
「おい、どうなっている!ますます売れ行きが下がっているぞ。」
「はっ、はぃ…」
アクドの目の前の店員は縮こまった様になっており、ろくに言葉が出て来ない有様だ。最早、誤差では済まされない所まで来ている。
「何がどうなっているんだ!早急に調べろ!」
「はっ、直ちに調べます!」
そう言って店員は部屋を飛び出してた。それから暫くしてから、息を切らして帰って来た。
「はーはー…只今…戻りました…」
「で、どうなんだ?何か原因は分かったのか?」
アクドは彼に対して、労いの言葉一つかけることなく、質問した。
「はぃ…どうやら、近くの店に客が流れているみたいです。」
「近くの店だと?!確かこの近くには、小娘のやってるちっぽけな店しかない筈だぞ?!」
「はい、そこに流れています…」
「そっ、そんな馬鹿な事が…」
アクドは軽く混乱気味になった。それまで自分の店で独占していたのに、それが客を奪われるなんて、予想だにしていなかったのだ。
「くっ、おのれ…」
それだけ言うと、アクドは部屋を飛び出し、その店、ホリィのパン屋へと向かった。そこには、以前とは打って変わって行列が出来ていた。
「信じられん…何でこんなちっぽけな店で…ん?!」
アクドは気付いた。ホリィの店から出て来る客は皆、同じ紙袋を下げている事に。
「全員、同じ物を買っているのか?何を買ったんだ?」
「店長、あれですよ…」
何時の間にか側に来ていた店員が指差す先。そこはホリィのパン屋の店頭で、小さめの立て看板と幟が出ていた。そこにはこう書いてある。
「ホリィの食パン」と