試食会
こうして、向こうの店のパンの試食会が開始された。
数はあまり無いので、包丁で1個を6等分に切り分けて食べる事となった。元々は、1個のパンを3人でシェアするつもりだったが、それが増えて6人になってしまい、1人当たりの分量が更に少なくなった。まぁ試食が目的で、腹を膨らませたいから食べる訳でないから、いいのだが…1個のパンを大人数で分けて食べると、何だか無人島でサバイバルしてるみたいだ。と、無駄話はこれ位で、話を元に戻そう。
俺等はホリィの店のパンと同じく、チョコパン・ジャムパン等から始め、サンドウイッチと食べ続けた。6等分してるから、殆ど一口で食べてしまった。本当に試食品みたいに感じた。
しかし、どういう形にせよ、こんな女子に混じって食事するなんて、前世では考えられないな。そう言えば、異世界物の男主人公は何かとハーレム状態になってるのが多かったよな…何か初めて異世界物らしくなった気がした。って、鼻の下伸ばしてる場合ではない。今は試食に集中だ、集中。考え事してて味分かりませんでしたじゃ顰蹙を買うぞ。俺は味見に意識を集めた。
「さてと、一通り食べ終えたな。それでは皆、感想を述べてくれ。一言ずつで構わないから。」
皆の感想は以下の通りだ。
リリーナ「普通に美味しいです。」
ホリィ「少し焼き色がきついですね。あと、小麦粉とミルク等の配合を工夫したほうが良いと思いますね。」
ケティ「至って普通のパン、って感じね。」
ニコ「オーソドックスな味です。」
ミミ「特別美味しくもない、至って普通の味。」
と、一言でいいと言ったのに、中々専門的な意見を言うホリィに対して、他の4人は早い話が「普通」という意見だ。俺も同意だ。
「確かに、値段相応の味だな。」
「これで不味かったらあれだけど、この味なら文句等は出ないわね。多分。」
「ああ、だがこの試食ではっきりした事がある。」
「はっきりした事?何ですか?」
「それは…パンの味はホリィの方が遥かに旨いという事だ。」
「確かに、ホリィの作るパンの方が美味しいけど…」
ミミが少し顔を曇らせた。彼女の言いたい事は分かる。大衆は値段の安い方に行きがちだ。「量より質」と言う言葉があるが、庶民は大半が「質より量」だ。結局、大した打開策は出て来なかった。さてどうしたことか…
俺が店頭のパンを眺めていると、あるパンが前に入った。
「ホリィ、そう言えば、これは試食してなかったな。」
「えぇ、でもそれは試食する程でもないかと思ったので、出さなかったんです。」
しかし、俺はそのパンが妙に気になった。なので、それも試食させて貰った。
「ふむふむ、!コレは…」
俺はそれを試食すると、言葉を失った。
「タイガーさん?どうしたんですか?」
「それ、口に合いませんでしたか?」
リリーナとホリィが心配して聞いて来た。
「いやそうじゃない。そうじゃないが…」
しばし考え、俺は一つのアイデアを思いついた。
「(確か前世でもメニューがこれだけの店があったな…)よし、ホリィ。チョイと賭けてみないか?」
「賭けですか?いや…私ギャンブルはちょっと…」
「そうじゃなくて、俺のアイデアにだよ。」
「なになに、何か思いついたの⁉」
ケティが食い付いてきた。そして俺は、ホリィに
「ああ、上手く行けば沢山のお客を呼べるぜ。乗ってみるか、ホリィ?」
と、問いかけたのだった。