小屋
少し歩くと、小屋があった。その娘に招かれ中に入った。どうやらここがこの娘の家らしい。中は必要最低限の物位しかないシンプルな内装だった。
テレビ・冷蔵庫等は無い…いやそもそもこの世界には、電化製品というもの自体無いのかもしれない。
「さぁ、座ってください。」
娘の勧めに従い、俺 虎之助は椅子に座って、簡単な手当を受けた。
「ありがとう。ところで君の名前は…」
「あっ、紹介まだでしたね。私はリリーナといいます。」
「リリーナさんか…俺は虎之助だ。」
「⁉トラノスケ…変わった…いえ、珍しい名前ですね。」
「(そっか、こっちじゃ聴き慣れない名前だよなぁ。そんじゃ、トラ…いやタイガーにすっか。)いや、タイガーと呼んでくれ。」
俺はこっちの世界でタイガーと名乗ることにした。夜も遅かったので、その日はこの娘の家に厄介になることになった。知らない男を家に入れて大丈夫なのか気になったが、どうやら1人暮らしらしい。何より、他に行く宛もないので、お言葉に甘えさせてもらった。
夜、横になりながら俺はあれこれ考えた。ここが本当に異世界なら、モンスターとかがいて、魔法やら念力とかも使えんのかな。そもそも、異世界転生したなら何か強力や力、俗に言うチートな能力を得ているかもしんねーな。そうだ、きっと何かあるはずた。明日から色々確かめてみっかな。俺は明日を楽しみに眠りについた。
翌朝、俺はいい匂いがして目が覚めた。起き上がると、リリーナが朝食の用意をしてくれていた。
「あっ、タイガーさん。よく眠れました?」
「ああ、熟睡できたよ。」
俺が礼を言うとリリーナは朝食を勧めてくれた。そういえば、この世界に来てから水しか口にしていない。なので腹は減っていたから、遠慮なくいただいだ。パンとサラダと目玉焼きといったシンプルな朝食だった。こっちの世界の食べ物は、元いた世界と変わらないようだ。
「美味しかったよ、ごちそうさま。」
「どういたしまして。ところで、タイガーさんはどちらから来られたんですか?」
「ああ…」
どう説明しようか俺は悩んだ。地球という星から転生してきたなんて言っても、信用されないよな…仕方ない、
「それが分からないんだ…」
「分からない⁉」
「気付いたら森の中で倒れて、自分の名前とかは覚えてるんだが、記憶が無くて…」
「まさか記憶喪失と言うやつですか⁉」
「ああ…」
嘘ついてしまった。世話になってて心苦しいが、説明して変な奴と思われても嫌だから記憶が無いとしておいた。これなら、多少この世界の常識等が無くても誤魔化せるから都合が良いしな。
「ところで話は変わるが君は一人なのか?」
「ええ、一人ですよ。」
「一人じゃ大変だろ。生活はどうしてるんだ?」
「森を出ると村があって、そこで働いてます。家畜の世話や、掃除洗濯等の手伝いをして生活費を得てます。」
要するに、主婦のパートや家政婦みたいな事をして生活費を稼いでるのか。俺も何か仕事で収入を得ないとな、流石に異世界でヒモみたいな人間にはなりたくない。
「でも何でこんな辺鄙な場所に一人で住んでるんだ?危険はないのか?」
「数年前に両親を亡くし、この辺りに移り住んできたんです。この家はだいぶ前から空き家で、放ったらかしにされてたのを使わしてもらってるんです。持ち主もいなく、家賃もいらないと森の所有者の方が言ってくれたんです。生き物も、狸や狐位で熊や狼も居ないから比較的安全なんですよ。」
「へー狸や狐位でヤバいモンスターもいないのか。」
「⁉モンスター…ですか?」
リリーナはキョトンとした顔をして、首をかしげた。
少し間を開けてからリリーナは苦笑いをし
「タイガーさん、面白いことをおっしゃいますね。」
「面白いこと?」
「だってモンスターだなんて…小説みたいな作り話じゃないんですから。」
「⁉小説…作り話…」
俺は軽くトランス状態になった。この世界でもモンスターは空想上のものだと言うのか、そんなバカな…
いや、考えてみたら異世界ならモンスターがいると、俺が勝手に思い込んでいただけの話だ。地球と同じで存在しなかったとしても、おかしくは無い。
「あー、突然だけどリリーナさん、魔法っていう言葉は知ってるかな?」
「魔法ですか?それはもう、小説とかで魔法使いが呪文唱えて炎とかを出したりするあれですよね?」
「そうそう、それ。」
「それは、小さい頃は使えたらいいなと思ったことはあります。私子供の頃から、読書が趣味なので。けど、現実で出来るわけないんですよね。」
「そうだな、俺も似たようなもんかな(マジかよ、魔法も無いのか)。」
俺は心の中で狼狽した。「チート能力でモンスター相手に無双」みたいなことを勝手に想像していたが、モンスターも魔法も無いこの世界で何をすりゃいいんだよ。てか、能力もあるのか疑わしくなってきた。
兎に角、この世界のことをもっとよく知りたいな。
「リリーナさん、よかったら村まで案内してくれないか?記憶無いにしても、色々学んでから何か仕事得ないと、何時までも君に世話になるわけにはいけないし。」
「ええ、良いですよ。今日、仕事に行く日ですから、一緒に行きましょう。」
「助かるよ。」
村でこの世界の知識を吸収し策を考えよう。
俺はリリーナの案内で村を目指した。