実食
2つに切られたフルーツアズパイの断面から見える各フルーツの断面はどれも、瑞々(みずみず)しかった。
俺が今回、出したアイデア。それは、中にフルーツが入った、フルーツ大福ならぬ、フルーツアズパイだ。
アズパイもとい大福。大福は説明するまでもなく、日本の和菓子の一種だ。フルーツ大福の最初は、いちご大福からだ。
いちご大福は、和菓子の中でも比較的、歴史の浅い和菓子だ。誕生は元の世界で、1980年代頃と何処かで聞いた覚えがある。洋菓子の普及で、和菓子の需要が減り、和菓子離れが起きている最中に誕生し、一気に人気になったという。何でも、ショートケーキから発想されたのだとか 。
いちご大福は見ての通り、大福の中に、苺が丸々一個入っている。アンコと共にクリームが入っていたり、大福餅の切れ目に苺を入れ込んだ物なんかも存在する。
美味しい、いちご大福だが、短所は当然ある。
生の苺をそのまま使用するので、どうしても日持ちしないのが難点となる。また、食べる時に、舌にピリピリと感じることがあるが、これはイチゴから発する二酸化炭素によるものであり、時間がたつほどに強くなるらしい。
そして、そのいちご大福をベースとし、バリエーションは増え、苺以外にもキウイ・オレンジ・ミカン・ブドウと、様々なフルーツを使用した、フルーツ大福が生まれた。
フルーツ大福は前世の世界では、専門店まで出来るくらいだった。が、一個一個が値が張る代物だったので、気軽には食えなかったけど…
まぁそれは兎も角、俺のアイディア(正確には違うが…)で出来たフルーツアズパイ。それが今、祭で姫様に出されている。
「コレが新作ですか…」
感心するように声を漏らす姫様。
「中にフルーツが入っているとは…それも丸ごと。斬新ですわね!」
「はい。私めも、品について説明を聞いた際は、大変、驚きました。」
アズパイを切り分ける際に使用した糸を、丸めて仕舞いながら答えるお偉方。
勿論、糸で切り分ける方法も、俺が言ったことだ。フルーツ大福は、日持ちしない事とは別に、とても柔らかいので、切りにくいという問題点がある。 包丁だと、潰れてしまいかねない。
それを解消するのが、糸で切り分ける方法だ。先程、お偉方がやった様に、糸を使うとキレイに切り分けられる。これは、フルーツ大福の専門店でも推奨されるやり方だ。
因みに他には、パン切り包丁を使う方法や、冷凍して切るという方法もある。しかし、パン切り包丁は店の方に無かったし、冷凍はそもそも、凍らせる術が無い。なので、消去法で、糸を使う方法となる。
糸なら何処にでもあるし、安全で何よりも手軽だからな。
「では…」
さて、前置きが長くなったが、いよいよ実食だ。
姫様は竹製の小さなフォークを使い、フルーツアズパイを口に運んだ。
流石、育ちの良い姫様だ。実に美しい所作だ。反面、ゴツい顔と身体との差がスゴい…
兎も角、フルーツアズパイを口に入れ、咀嚼する姫様。
「!?」
途端に口を押さえる姫様。
「姫様、お口に合いませんでしたか!?」
お偉方が声をかける。
が、姫様は、
「逆です!」
「逆!?」
「はい、とても美味しいです!こんなにも美味しいアズビーの菓子を…いえ、こんなにも美味しい菓子を口にしたのは生まれて初めてです!口の中で、アズビーと苺の甘さが混ざり合い、コレまで味わった事のない、ハーモニーを生み出しています!」
そう言って他のフルーツアズパイも口に運ぶ姫様。目に薄っすらと、涙が出ている。余っ程美味かったようだ。
良かった。大好評だ。
味の方は自信があった。何しろリリーナ達に試食してもらっていたからだ。
時間は少し坂戻り、フルーツアズパイの試作品が出来た時。
「で、こうやって糸で切り分けるんだ!」
「何と、糸で…」
感心するサータン氏。
長い事菓子屋をやっているが、菓子を切るのに糸を使うという発想は、無かったようだ。
「手な訳で、皆、一つ試しに食ってみてくれ!」
そう言って皆に試食してもらった。
結果、
「すごく美味しいですよタイガーさん!」
「うん、苺の甘酸っぱさと絶妙にマッチしてるわね、姐さん!」
甘い物好きなリリーナ・レイナには大好評だ。
「超うめ~ぞ!」
「だろっ… て…それ、まだ切り分けてないだろが!のどに詰まるから、一口で食うなって!」
当然、がっつく様に食うレオ。
「美味しい…」
「何と斬新な…」
「こりゃいい!」
と、ピートを始めとする弟子達にも好評だ。
そして、
「うむ…驚いた…アズビーとフルーツがこんなにも合うとは…」
サータン氏も太鼓判だった。
手な訳で、皆の満場一致で奉納する品に決定したのだった。
そして、時間は今に戻る。
期待通り、姫様にも好評だ。こうして、今年の奉納を無事終えた。
そしてフルーツアズパイが、ここジパーネ国に、新しい風を巻き起こすこととなるのだった。
誕生の経緯等は、諸説ありです