〇〇〇〇アズパイ
「ありがとうございました!」
サキに案内された店で、目当ての品を何種類か購入した。なかなか品ぞろえは豊富だった。
店に戻ると、リリーナとレイナがレオと遊んでいた。向こうも俺に気付いた。
「あっタイガーさん、何処に行ってたんです?」
「なーに、ちょっと近くまでな!」
等と話していると、レオが俺の持つ包みに顔を近づけ、匂いを嗅ぎ出した。
「美味そうな、いい匂い…」
「駄目だぞレオ!コレは、試作品を作るのに必要な食材なんだからな!」
「試作品!?」
「ああ、それがな…」
俺は事の経緯を皆に説明した。
「そんなことが…」
「で、ソレを使ってそのアズパイとかいうやつを、アレンジするのよ!?」
「それは出来てからお楽しみだ!」
そう言う俺の横で、レオが恨めしそうな顔をしている。
「待ってろって!出来たらお前にも食わせてやるから、楽しみに待ってな!」
「ホントか!?」
「ああ!」
そう言ってレオと約束すると、俺は皆の待つ店内に戻った。
そして、店主にやる事を説明した。サータン氏も、俺の話を聞いて
「アズパイにそんなモノを!?」
と、驚いてた。
が、俺の話を聞き、ものは試しとばかりに、試作してみると言い、俺の説明通りに作ってくれた。流石はプロ。見事な手さばきだった。
「よし、出来だぞ!こんな感じかな?」
「おお~!上出き上出き!」
そこには、俺の注文通りの姿に仕上がった品があった。
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そして、話は飛ぶが今日はここ、ジパーネ国の建国記念日の当日。天候は快晴。絶好の祭日和だ。
祭の会場は沢山の人で溢れている。この国の人達は、1年のうちこの建国記念の祭を1番に考えているらしく、国中の人達が集まるのだとか。
「スゴい人だな…」
「ですね…」
「当然よ。皆、この日を楽しみに1年頑張ってきたんだもの!」
そう言うのはサキだ。祭の日は菓子店も休みなので、一緒に祭を回る事になった。
「あっ、タイガーさんあそこ!?」
「おっ!?」
リリーナが指差す方では、
「まいどあり!」
「はい、揚げたて熱々だから、気を付けてね!」
「うめ~!!」
ボンの屋台で、唐揚げとフライドポテトが飛ぶように売れていた。油からの熱気で、ボンも奥さんのセリも汗だくだ。
揚げたてのフライドポテトと唐揚げを頬張る子供達。ココでも大評判で何よりだ。
「あれ、ねぇアソコで飲んでる人達って、誰だっけ?見覚えあるんだけど…」
「ん!?」
レイナが指差す方には、2人の男がこんな時間から酒飲んで、早くも出来上がっている。レイナの言う通り、見覚えがあった。
「あれは…ああ、俺等が入国した時の門番だろ!?」
「あっ、そうか!?」
あの時は門番の制服姿だったが、今は私服なので、雰囲気が違ってすぐには気付かなかったが、門番AとB(仮)だ。
かなり酔っていらしく、2人の友人らしき人がたしなめている。
「おいお前ら、2時間だけとはいえ、夕方頃に仕事だろが!?そんなに酔っていていいのかよ?」
「大丈夫大丈夫!それまでには、酔い覚ますよ!?」
「そーそー、平気平気!」
門番の人達も祭を楽しめるようと、祭の日は2~3時間だけの勤務で、別の係と勤務交代する、特別な勤務体制になっているらしい。
本当に祭が最優先なんだな。
出店を回っていると、会場の広場にある、聖堂に人が集まりだした。
これから例の、アズビーの菓子を奉納するようだ。奉納する様子は、大勢の人達に見える形で行われる。俺等も、人混みに混じって見物する。
聖堂の前の出入り口には、真っ白いカーテンがしてある。そして誰かは知らないが、その奥に誰かいるのが、影で分かった。
やがて時間になったようで、何処からともなく、鈴や笛の音色が聞こえてきた。
音色と共に、聖堂の修道士のお偉方が、木箱を大事そうに抱えながら、皆の前に出て来た。
菓子店で見た木箱だ。あの中に、例の新作が入っているみたいだ。
お偉方がカーテンの前に立ち、一礼した。
するとカーテンがゆっくりと開いていく。それにより、カーテンの向こうにいた人物がお目見えした。その人物は、
ドーン!!
という効果音が似合いそうな人物。
そう、先日、町で見た姫様だった。
「何で姫が…」
「奉納されたアズビー菓子を、神様に代わってお召し上がりになられるのよ!」
サキの説明によると、奉納されるアズビー菓子。それを毎年、国中から無作為に選ばれた若者が、実際に飲み食いする事の出来ない神様に代わって、食べる。そういう儀式が行われているとのこと。
依り代・尸童みたいなものか…
で、今年は姫様が選ばれたらしい。何でも、選ばれる事はかなり名誉なことらしい。
それは兎も角、箱が開かれ、新作が姫様の前の机に出された。
それを見て姫様は、
「!?…」
少しキョトンとしている。出される菓子については、事前に聞かされている。
それはそうだ。その新作は、よく知られたアズパイと、見た目は全く変わらないからだ。
するとお偉方が、
「コレを用意下さった店の店主より、指示がありまして…」
そう言って糸を取り出した。それを皿に真っ直ぐ敷くと、その上にアズパイを置いた。
そして糸の両端を持ち、アズパイに上でクロスさせて引っ張った。アズパイはそのまま真っ二つになった。
お偉方は、真っ二つになったアズパイの断面を、姫様に見えるように向けた。
断面を見た姫様は、
「まあ!?これは…」
と、声を漏らした。キレイに切れたアズパイの断面には、同じくキレイに切れた瑞々(みずみず)しいイチゴが見えたのだ。
お偉方は他のやつも同じ様に糸で切り分ける。他のには、桃・キウイ・ミカン・バナナ等様々なフルーツが入っていた。
そう、新作のアズパイ。それは、中に様々なフルーツが入っている、「フルーツ大福」ならぬ、
【フルーツアズパイ】
の事なのだ。
補足説明
依り代=神霊や先祖の霊が地上に降りてくる際、憑りつく対象となる「物」や「場所」の事。御神木・神輿・神棚・神社・祠等。しめ縄や門松も同様。
尸童=呪術において、神霊を一時的に宿らせるための子供、または人形の事。
です。