アズパイ
パリパリ!
「うん、イケるイケる!」
「美味いぞ!」
「確かに、このパリッとした食感が何とも言えないな!」
世話になっている菓子屋の一室で、店主サータン氏とその弟子のピート等が、俺の作ったポテチをかじっている。
ココに返った後、先程ポテチ作りの事を話したら、成り行きでココでも作ることとなった。で、出来た品を皆に召し上がって貰ったのだが…
「はは…それは、何より…」
その傍らで、俺は簡単に相槌を打って返す。
「どうしましたタイガーさん!?顔色がよろしくないかと…」
ピートが見かねて訪ねてきた。
「いや大丈夫!何でもない…」
俺はそう返した。
本心を隠して…その本心とは、
「(あんた等が怖いんだよ!!)」
だ。
この一室で、強面顔の面々に、1人囲まれているという、異様な光景。コレじゃあまるで、借金のを返済する目処が立たず、組事務所に連れてこられた人の様だ…
勿論、皆、そっち系の人でないことは、十分に理解しているが、怖いものは怖いのだ…
因みに何故1人なのかというと、レオ・リリーナ・レイナはという、ポテチが出来て皆と食べようという流れになった際、
「お、オレっち、庭を眺めながら食いたい!」
「私もレオ君と一緒に、お庭の方にいます!」
「あたしも、姐さんを守る者として、当然、一緒に!」
と言って、3人共、庭の方に行ってしまった。
口ではそう言ってたが、その時の顔色からして、今の俺みたいに、この空間にいたくないという事が、丸わかりだったぞ。
「(アイツ等、逃げやがって…)」
尚、この店の店主の娘サキはという、今は店番で店頭に立っており、接客で忙しくしている。この店の関係者で、唯一の心の拠り所なのにな…
まぁ、それは兎も角、
パリパリ!
「本当にイケるな!」
「酒のツマミにもなりそうだな!」
と、ポテチは弟子達にも好評だった。
ポテチをツマミながら話していると、
「店長、聖堂からの使いの方が来られました!」
サキが入って来た。
仕事中は父親の事を、店長と呼ぶスタイルらしい。
「分かった、今行く!少し離れる!」
そう言って部屋を出て行った。
少しして戻って来たが、困り顔になっていた(怖さは据え置きだが…)。
「どうしました!?」
「いやそれがな…」
サータンは使いの人との事を話した。
「今までのアズパイじゃダメですって!?」
「あぁ、そうなんだ…」
サータンは話し出した。
何でも建国祭で、この国で一番歴史のある聖堂にアズビーの菓子を奉納する習わしがあるのだが、今になって、聖堂から追加で注文が加えられたのだとか。
「何とも随分と急な話だな…」
「ええ、無視するわけにはいかないんですよ。なにしろお告げがあったそうですから…」
「お告げ!?」
何でも聖堂の修道士の夢の中に、神々が出てこられたらしい。そして、奉納される菓子について希望を出される事が、時々あるらしい。
何とも非科学的な話だが、無下にはできないという。何故なら、
「昔、同じ様に夢に神が出てこられ、希望を出されたらしいんです。ですが、単なる夢と無視したところ、その年は良くないことだらけだったそうなんです!」
何でも、酷い凶作や自然災害が遭ったらしい。なので、例えどんなに急であっても、希望には可能な限り答えるようになったらしい。
そして、そのお告げが昨夜、聖堂の修道士の夢の中であったらしい。
なので、先程来た使いがその内容を伝えに来たのだとか。
で、その神様の希望というのが…
【アズパイにアレンジを加え、新しい一品を作れ!!】
というものだった。
「アレンジか…」
「アレンジと言われてもな…」
急な注文に頭を悩ませるサータン。弟子のピート達も考えるが、いい案が出ないようだ。
力を貸してあげたいが、そもそも、そのアズパイってやつを俺は知らない。
そこで、そのアズパイとやらの実物を見せてもらう事にした。
「お待たせしました!」
サキがそのアズパイを運んできてくれた。しかも、お茶付きで。
「コレが…」
例のアズパイが、俺の目の前に出された。それを見て俺は懐かしい感じになった。
それは前の世界でいうところの【大福】に限りなく近かった。いや、近いというよりは、そのモノだった。一口食べてみたが、まんまだった。
本当、アズビー菓子は元の世界の和菓子に限りなく似ている。
「ふむ…」
「どうしたんだ兄ちゃん、考え込んで!?…」
「真剣な顔しちゃってさ!?」
他の弟子の人達が俺の顔を見ている。
「皆、静かにしてください!」
ピートが皆を静めた。
「タイガーさんが、ポックルン焼きを考案された時も、こんな顔をされてました。もしかしたら、またスゴいアイデアを出されるかもしれません!」
「はぁ…」
1人俺は思考を巡らせた。
「(アズパイをベースに…そうだ!!)」
ピートのお陰で考えを纏められた。
漫画アニメだったら、【チーン!】という効果音が出ただろう。
早速、その案を形にする。俺の側にいるサキに訪ねた。
「サキ、この店に…はあるか?」
「!?ここには無いけど、近くに売ってる店があるわよ!?」
「ならそこに案内してくれ!」
「いいけど…」
俺はサキに案内してもらい、その店に目的の物を仕入れに向かった。