場所
優しい姫様の姿をみた後、俺等は世話になる菓子屋に戻った。
店主等と、姫様を事の見た話をしてから、就寝した。
「むにゃむにゃ…」
ガッ!
レオの、寝言と寝相の悪さに悩まされながら…狭い部屋なので、夜間、何度も蹴飛ばされた。お陰で余り寝れなかった。
朝早く、寝不足で顔を洗いに向かった。
グツグツ!
「アズビー煮上がりました!どうでしょう?」
「…よし!いいだろう、次だ!」
「はい!」
店の厨房では、早くも職人達が、今日の分の菓子作りを始めていた。アズビーを煮た、甘くいい匂いがして来る。
「こんな早くから仕込みしてんのか…大変だな…」
そういえば、パン屋のホリィも、朝早くからパンを焼き始めてるって言ってたな。その辺も、元の世界とおんなじか。
早起きが得意じゃない俺には、到底勤まりそうにないな。ましてや、目覚まし時計も無いのに…
等と思いつつ、外の井戸に向かった。
井戸水で顔を洗った。
バシャバシャ!!
「う~、スカッとする!」
井戸水は綺麗な上に、キリッと冷えてて、それで顔を洗うと気持ちよかった。お陰で眠気も吹き飛んだ。
ここの井戸水は、生活用水だけでなく、菓子作りにも使われているらしい。この国の菓子は、元の世界での和菓子に近い。そう言えば、水は和菓子作りの上で、とても重要だと聞いたことある。
ある職人曰く、和菓子作りにおいて、一番重要な食材は水だと、断言しているとか。
成る程。だから、ここの菓子は美味いんだな…(他のとこの菓子も勿論、美味いけど)
等と考えていると、
「あっタイガー、おはよう!」
「おう、おはようさんレイナ!」
レイナがやって来た。
が、見た感じ俺と同じく、寝起きという訳ではなさそうだ。汗をかいており、あきらかに運動をした後だった。
「朝っぱらから何してたんだ!?」
「ちょっとね、軽くジョギングしてたの!」
「ジョギング!?」
「そうよ!実は、昨夜よく眠れなくてね…」
「寝れなかった!?(カフェインの取り過ぎか?いや、そんなに飲んでなかったよな…)」
「うん、それが姐さんと2人っきりだと思ったら、興奮しちゃって…」
「はぁ!?」
「だって狭い部屋で姐さんと2人っきり…そう考えたら、なんか興奮して…」
そう言って顔を赤らめるレイナ。
コイツ、なんか変な方向に進んでないか?…と心配になった。
「で、よく寝付けないなって思ってたら外明るくなっちゃって。で、眠気覚ましに走ってきたの!」
「そうか…」
そう言ってレイナも井戸水で顔を洗った。
そうこうしている内に、周囲の家などでも、人が動き出した。ここだけでなく、国全体で朝が早いのかな。
すると近くの家の人の声が聞こえてきた。
「姫様もお戻りになられたし、今日から本格的に祭の準備だな!」
「ああ!」
と、祭という単語が聞こえてきた。
そう言えば、ボンと奥さんのセリが、次の祭の行われるこの国に行くって言ってたな。すっかり忘れてた。そもそもどんな祭なんだ?
「建国記念の祭!?」
「ああ、そうだとも!」
朝食を食いながら、店主から聞いた。明後日は、この国の建国記念日で、それを祝って祭が開かれるらしい。1日だけだが、盛大に行われるようだ。
屋台も沢山出るらしい。ボンは、この祭の為に来るのか。
朝食を済ませ俺等は、祭の準備が行われている広場にやって来た。祭用の舞台が急ピッチで組み立てられていた。
「え~と、俺の場所は…ココか!?」
「ココか…隅の方だな…」
紙を持った露天商らしき人達がアチコチでウロウロしている。
「何してんだ!?」
「露天商の人達が、屋台を出す場所を探してらしてるんですよ!」
「場所!?」
リリーナが言うには、屋台を出す人達は、祭の運営側から、何処に屋台を出すかを指定される。それ以外の場所では出せない決まりだ。
昔、出店場所を巡って、大喧嘩が起きたらしく、それ以来、不用意な揉め事を避ける為、出店場所は運営側で取り締まられているらしい。尚、希望者は数ヶ月前から申し込み、抽選で選ばれるらしい。因みに、どの場所になるかは、コチラも抽選なので、完全に運任せとのこと。
これらはサキから聞いたらしい。
「成る程ね…」
「あっ、あそこが運営みたいですよ!」
リリーナが指差す方には、それらしい建物があり、例の紙を持った人が次々と出てくる。
そんな人たちの中に、
「あっ、ボンじゃないか!?」
「ん!?おお、アンタ達か!?」
ボンがいた。横には奥さんのセリもいる。向こうも俺等に気づいた。
「アンタ達何時来たんだい!?」
「俺等は昨日だよ。アンタ等は!?」
「今日の朝方にな。祭用の食材の、仕入れとかしてたんでな。」
それからボンの出店場所を確認した。
「う〜む…まぁまぁだな…」
特別いい場所ではないが、かといって悪い場所でもないようだ。
「実はな、この前まで使ってた屋台だが、古くなったんでな、この度新しくしたんだ!」
「へぇー、その新しい屋台は、今何処だ!?」
「折り畳んだ状態でな、向こうの方に置いといた。」
ボンに案内され、屋台の置いてある場所に向かった。
そして、
「どうだ!コレが俺の新しい屋台だ!」
と、自慢げに言うボン。
たが…
「…どこにあんだよ?」
「何もないわよ?」
「あり!?」
それらしい物は何処にもなかった。
「!?ボンさん、もしかしてアレじゃあ…」
リリーナが指す方には、
「よーし、運べ!!」
この国の自警隊の隊員達が、ボンの新しい屋台らしき物を担いで運び出そうとしている。規模は各地で異なるが、自警隊は大陸の至る個所にも、支部があるのだ。
「ああ!!」
「ヘタな場所に置いとくから、不審物と間違われたみたいだな…」
駐禁のレッカーみたいなもんか…
「うおーい、待ってくれ〜!!持ってくな〜!!」
慌てて自警隊員達を追いかけるボン。
なんとも、幸先の悪い事になった、ボンの新しい屋台だった…