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姫様

 「ほー君が、ポックルン焼きのアイデアをピートに!?」

 「え、えぇ…」

 「…」

 「どうしたんだい、黙っちゃって?」


 萎縮する俺等。

 客間でピートの、菓子作りの師である、ここの店主と対面している。が、声が出てこない。何故なら、対面する店主の顔が怖かった。

 傷まみれの頭部にドスの効いた声。本人と目を合わすだけでも身が縮む思いだ。

 更に、そこ回りにいるピートを始め、彼の弟子達。彼等もまた顔が…数少ない女性弟子の人達でさえも、強面ときだもんだ。

 

 「(どこぞの組事務所かよ、ここは…)」

  

 と心のなかで思った。

 傍から見たら、借りた借金を返せずに、事務所に連れてこられた人達みたいだろうな…

 

 横では、リリーナは勿論、普段気の強い方のレイナも小刻みに震えている。よく見たらリリーナの手を握っている。

 何時もなら、遠慮なく食い物にがっつくレオですらも、出された茶菓子に手を出そうとせず、固まっている有様だ…


 「(本当に、下手なお化け屋敷(ホラーハウス)より怖いって…)」


 それからしばらく、店主(名前はサータン。名前もアレだな…)等と会話(正確には、向こうが話すことに相づちを打つ程度。)した後、店主の計らいで、今日はここに泊めてもらうこととなった。

 サキに客人用の寝室に案内された。

 俺とレオ、リリーナとレイナの2部屋だ。


 「ふぅ~!」


 寝室でレオと2人きりになったら、緊張の糸が切れたのかドット疲れが出て、そのまま座り込んだ。

 

 「怖かったぞタイガー…」


 レオも同じだった。

 が、案の定、ちゃっかりと出された茶菓子を持ってきおり、それを食らっている。その辺は、ブレない奴だな…


 隣の、リリーナとレイナがいる部屋からは、先程とは打って変わって、楽しそうな話し声が聞こえてくる。2人はサキと話しているようだ。

 サキ。素朴な顔で、あの面々の中でだと、荒れ地に咲く一輪の花の様に、こう言っちゃ悪いけど、掃き溜めに鶴の様だ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「お、親子!?」

 「そうよ!」


 俺は思わず大声を出してしまった。他の客達の視線が集まる。

 他の客達に軽く頭を下げ、再び話を戻す。


 ここは、菓子屋の近くの飲食店。

 サキとすっかり意気投合した、リリーナとレイナ。この頃には、サキの言葉遣いもだいぶ砕けていた。サキのオススメのこの店で、夕飯を頂くこととなった。

 その際分かったのだが、何とサキは、あの店主(サータン)の娘だそうだ。なので亡くなった店主の両親は、サキの祖父母なのだ。

 あの父親からこの娘が…父親の遺伝子(DNA)はどうなってんだ!?

 なんて失礼な事を考えてしまった…

 まぁ、あの父親の下で育ったから、ピート達を見ても平気なのか。それとなく聞くと、


 「別に何とも思わないわよ。そもそも、みんななんでお父さんやピートさん達の事、怖がるのよ!?みんな、あんなにも優しそうな顔してるのに…」

「「や、優しそう…」」


優しそうな顔って…どういう感覚してるんだ…


夕飯を済ませ店を出た俺等。すると、店の前の通りに人だかりが出来ていた。

何かあったのかと聞くと、用事で国を離れていた、この国の領主の娘が戻って来たとのこと。

この国は、比較的小さい国で、王族は居らず、領主が国を治めている。その領主の娘がこの通りを移動しているらしい。


「そうだった、今日が、姫様がお戻りななれる日だったは!」

「姫様か…」


何気に、そんなふうに呼ばれる人って、始めてだな。レイナの父親はともかく。


「姫様ってどんなお方なんですか!?」

「お優しくて、素敵な方よ!」

「へぇ~」


さぞ美しい人なんだろうな…

等と思いながら、姫様の顔を想像していたら、周りの人達が騒ぎ出した。


「姫様よ!」

「姫様が来られたわよ!!」


どうやら直ぐ側まで来ているようだ。


「サキさん、膝をついたりしなくても、大丈夫でしょうか!?」

「大丈夫よ!領主様の一族は、ひれ伏したりとかはしないように言っておられるの。旗から見たら、威張ってるみたいで、それが嫌だからって!だから、極力普通にしているようにって!」


普通にしていればいいようだ。

そうこうしている内に、その姫様が、俺等の目前に迫って来ていた。

俺等も姫様の姿を一目見ようと人混みをかき分けて、前の方に。

そこには、側近の執事や護衛の兵た共に歩く、一人のいい服を着た女性が。それが姫様だ。

その姫様の顔を一点に見る。

姫様の美しい顔……はなかった。

そこには、


ドーン!!


という効果音が似合いそうな、滅茶苦茶ゴツい顔をした大柄の女性(?)だった。


「「「「!!……」」」」


俺等4人はその顔を見て絶句し、暫し固まった。


「あ、あの人が姫様なのか!?」

「そうだけど?…」

「嘘だろ…女装したオッサンじゃないのか!?」

「オッサン…ちょっと姫様に失礼よ!?」

「だってよ…」


とても姫様には見えなかった。宴会とかの余興で、女装したオッサンにしか見えないが…

すると側近の執事が、


「姫様、この辺りは足元が悪いのでお気をつけください!」


そう言って姫様をエスコートする。


「ええ。ありがとうじぃ…」


突如、目が険しくなる姫様。


「爺、何をしているのです!」

「!?姫様、(わたくし)めが何か?…」

「足元を見なさい!」


爺の足元に皆の視線が集まる。視線の先、そこでは爺が野に咲く花を踏んでしまっていた。


「あぁ…コレは失礼いたしました!!」


慌てて足をどかす爺。

すると姫様が駆け寄り、


「お気を付けなさい爺。良かった、傷は浅いですは!」


手が汚れる事を厭わず、花を介抱しだした。


「姫様、お手が…」

「構いませぬ!汚れたのなら、洗えばいいだけの話ですは!」


兵の1人が駆け寄る。すると姫様は、今度はその兵を静止した。


「危なかったですわ!」


兵が足を踏もうとした地面には、ダンゴムシがいたのだ。兵がそのダンゴムシを踏みそうになったのを止めたようだ。


「おお…姫様が小さな命をお助けに…」

「なんてお優しいお方なの…」


姫様の行動にうっとりする人々。

そんな様子を見て、


「(確かに、優しくて素敵な人だな…)」


と俺は思った。リリーナ達も同感みたいだ。

人は見かけによらないもんなんだなと、染み染み感じたのだった。


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