祭りの後2
片付け作業は続いた。
「よいしょっと!」
分解し、畳んで紐で結び、一纏めにした屋台骨を倉庫に締まった。
「後は…」
「今ので最後だよ!」
「ああ、そうっすか。ふぅ~」
ため息を吐き出しながら、首にかけたタオルで汗をぬぐった。
「タイガーさん!」
「リリーナ、レイナ!」
「コッチは終わったよ!」
「そうか。丁度、コッチも終わったところだ!」
「そうですか。」
そんなこんなで、収穫祭の後片付けは一通り終わった。
「皆さん、お疲れ様です!」
エムーが来た。服が薄汚れているところを見ると、彼も別の所で片付け作業をしていたようだ。
「おお、お疲れ!」
「お茶を入れて来たので、飲んで下さい!」
「どうぞ!」
「お茶菓子もありますよ!」
エムーと一緒に来た女性のスタッフ達が、お茶や茶菓子の乗った、お盆を運んでいる。
「いただきます!」
「イケるね姐さん!」
「うん、そうだね。体動かした後だから、甘いものが更に美味しく感じるよね!」
リリーナとレイナが仲良く菓子をつまみながら話している。
「しかし、レイナさんって、こうして見ていると、とても武道家には見えませんね…」
「ああ。人は見かけによらないもんだよ!」
俺もエムーと、茶を飲みながら、他愛のない話をしている。
「そういえば、お連れのお子さんもスゴかったそうですね!?」
「!?」
「聞きましたよ。ゴマクッキー投げ大会で優勝したそうで!」
「ああ、レオか…確かに、人って見かけじゃ分かんないけど、意外な才能持ってるもんだな…」
と言いつつ、
「(っても、俺には才能なんて無いけどな…)」
と、心の中で呟いた。
誰にでも取り柄はある。と、昔から言うけど、俺には取り柄と言えるようなことなんて何も無い。
この世界に来て間もない頃にも、感じていたな…
何気なく思い出した。
と、俺が一人でノスタルジックになっていると、
「別に、たいしたことねーよ!」
「うぉ!!れ、レオ!?」
何時の間にか来ていたレオが、菓子を食っていた。
食い物のあるところから、何時でも何処にでも現れるのかよコイツは…神出鬼没な奴だな…
「お前、何時の間にか…って、何勝手に食ってんだよ!」
何もしてないのに…
「ほんのついさっきから!寝てたら、美味そうな匂いがしたんで、その匂いを辿って来た!」
「匂い!?」
「そういえば、持ってくる際、皆さんが寝泊まりしてる部屋の側を通りましたね…」
「それでか…犬なみの嗅覚だな…」
ガッガッ!
尚も遠慮なく、菓子にがっつくレオ。
「おい、一人でそんなに!…」
「まぁまぁ、沢山ありますから…」
「たく…」
そんなレオに呆れつつ、リリーナ達の方を見ると、他の女性スタッフ達と楽しげに話している。
よく見ると、その女性スタッフの一人は、例のゴマクッキー投げ大会で、司会をしていた人だ。
名前は確か…
「へえ、レニーさん今度ご結婚なされるんですか!?」
「えぇ…」
「わあ、おめでとうございます!」
「ありがとう!」
そんな会話が聞こえてきた。
そう。レニーだ。
彼女、どうやら今度、結婚するらしい。その事でレイナ共々、随分と盛り上がっている。女性って、こういう話が好きなんだな…
「相手はどんな方なんです?」
「どんな出会いだったの?」
と、グイグイと矢継ぎ早にレニーに質問するリリーナとレイナ。少し困り顔のレニー。
が、どこか嬉しそうに見えた。
恋バナに花を咲かせる面々。
もう片方では、幸せそうに菓子を食うレオ。
エムーは他のスタッフに呼ばれて、行ってしまったので、俺は一人だ。
そういや、コリート船長に誘われて行った島でも、同じような事あったような…
そう思いながらも、楽しそうな皆の姿を見て、
「(まっ、いいか…)」
と、心の中で呟いた。
そして、残っていた茶を飲み干した。
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収穫祭の片付けをした翌日。
「忘れ物はないか!?」
「大丈夫です!」
「こっちもよ!」
「よし!そんじゃ、出発するぞ!」
荷物を纏め、祭の運営の用意してくれた部屋を後にする俺達。
祭も終わったから、ココを出る…だけではない。
今日でこの町を離れるのだ。
期間にして一週間程の日数だったが、随分と長い事いたような気がするのは俺だけだろうか?
まぁ、それは置いといて、
「お世話になりました!」
「いえいえ、コチラこそ、皆さんのお陰で色々と助かりました。」
「なーに、数日分の宿代浮いて助かったよ!それに、昨日の手伝いで謝礼まで…」
昨日の作業を終えた後、心ばかり程の謝礼金を貰った。何分、3日間の祭で結構使ってしまったので、有難かった。
「お気になさらずに。元々、来れなくなった人達に払う予定でしたし。まぁ、大した額では、ありませんが…」
「良いって。元々、ボランティアのつもりだったんだからな。」
「そうですか…では、私は仕事がありますので…」
「祭が終わった後でも、お忙しいんですね…」
「それが仕事ですから…」
「(管理職みたいなものか…)そろそろ行くよ。縁があったら又。」
「コチラこそ、又お会いできる日を楽しみにしてます!」
エムーと別れの挨拶をし、運営の施設を出た。
「さてと。馬車の出る時間までに…」
「あいさつ回り、済ませちゃいましょう!」
そう。最後に、この町で出会った人達にあいさつ回りをする。
それがこの町での最後の予定だ。
俺等は最初の目的地に向かって歩き出した。