激辛3
クロッシュから出て来た激辛ラーメンは、先日、ケイの店でたまたま出来た品が。
レオのミスで、スープの中に大量に唐辛子を入れてしまった。捨てるのも勿体ないので、苦肉の策で、数量限定メニューとして提供した。
それがこのラーメンだ。
しかし、大きさが違う。ボリュームが、普通のラーメンの2倍近くはありそうだ。ラーメン鉢も、同様に大きい。
更に、トッピング等も付け加えられており、見た目も良くなっている。
おそらく、あれからケイが、色々と工夫を加えたのだろう。
「決勝では、このラーメンを食べていただきます!」
エムーのルール説明によると、決勝はこの激辛ラーメンを先に完食した人の優勝となる。
至ってシンプルなルールだ。
が、問題は辛さだな…
ラーメンは、ラーメン鉢以外、全体的に真っ赤で、見るからに辛そうな見た目をしている。
一口食べただけで、火を吹きそうだ。
が、それでも、
「本当に辛いのかよ!?」
「見てくれだけじゃねーのか!?」
と、辛さを疑う野次の声が聞こえてくる。
するとエムーは、想定ないとばかりに、
「それでしたら、実際に一口、召し上がられてはいかがでしょう!?」
と、冷静に返した。
こうなる事を見越していたのだろう。
「よっしゃー!食ってやろうじゃねーか!!」
と言って、野次を飛ばした男が壇上にあがった。
「へへへ、俺はこう見えてもな、辛い物には強いんだぜ!!」
と、何かのフラグっぽい事をいいながら、ラーメンをすする男性。
「(まさかとは思うが、演出じゃないだろうなあの男…)」
と俺が思っていると、一口すすった途端、男は
「!?………ぎ、ギャ~!!」
と叫びだした。
「か、辛〜い!!み、水ーーー!!」
壇上でもがく男性。
するとすかさず、舞台袖から数名のスタッフが飛び出て来て、もがき苦しむ男性を運んで行った。
こうなる事も、見越してたのだろう。
「皆さん、コレで辛さは本当と、ご理解いただけましたでしょうか!?」
「……」
異議の声は無かった。
「それでは早速、本場といきましょう!」
淡々と進行を進めるエムー。
かくして、大会の決勝戦を迎えた。流石は、激戦をくぐり抜けて決勝に駒を進めた猛者達。先程の光景を見ても、棄権する者はいなかった。
「それでは、よーい…スタート!!」
ズルズルズル!
スタートと共に、ラーメンをすすりだす選手達。が、麺を一口すすった途端、
「ぐおっ!」
「かはぁ!」
「あぁ~!」
次々と、苦痛の声をあげだした。余っ程、辛かったのだろう。
皆が皆、涙ポロポロで、顔…いや身体中を真っ赤にし、大粒の汗を大量にかきながらも、一心不乱に麺をすする一同。
「皆さんすごく辛そう…」
「あたし、痛いのには慣れてるけど、アレは耐えれそうにないな…」
リリーナとレイナの2人も、試合を見てるだけで
、辛そうな顔をしている。
実際に、選手達は皆、死にそうな顔だ。
その光景は正に、
「阿鼻叫喚」
「地獄絵図」
この二言が相応しいものだった。
「でも、何だってケイのラーメンが、決勝の品に…」
「ああ、それはだな…」
「!?ケイ!」
いつの間にか、ケイが俺等の側に来ていた。
「何でココに!?」
「さっき壇上でな、アンタの姿が目に入ってな。ぶっちゃけ、紹介が済んだら、もう俺は特にやる事も無いもんでな…」
「そうか…で、何でケイのラーメンが使われるんだ!?」
「あぁ、それはな…」
ケイの話を纏めるとこうだ。
数量限定の激辛ラーメンの事を、風の噂で聞いた人達が食いに来た。その客の中に、この収穫祭の関係者がいて、
「このラーメンを決勝戦の課題にしたら盛り上がるんじゃないか!?」
と、言い出した。
そのまま祭の運営側でもこのアイデアは通り、決勝戦の課題となったのだとか。
「そんな経緯があったのか。」
「あぁ。しかもだ、この激辛ラーメンがコレまた意外と好評でな、数量限定と言わず、レギュラーメニューにしてくれって声もあるんだよ!」
「マジか!?」
「俺こんなにも、人気になるとは思わなかってぜ…」
「俺もだよ…」
コッチの世界にも、激辛好きはいるんだな。
等と話している間にも、大会は進んでいる。
ウォーーー!
ワーワーワー!
気付けば、大会はかなり盛り上がってる。
参加者男女5名の内、男3人はダウンしてしまっていた。過呼吸になって、
ゼーゼー!
ハーハー!
言っている。
「さー3人がダウンし、残るは2名!なんと、女性同士の一騎打ちとなりました!!」
男連中が相次いで脱落し、意外(と言ったら失礼か…)にも、残ったのは、若い女性2人となった。
2人共、大量の汗も涙でスゴい顔になっている。
片方の女性が、麺と具を食べきり、残ったスープをレンゲで必死に口に運んでいる。この女性の方がリードしている。もう片方の女性も同様だが、スープはこっちの方が、多く残っている。
ここから便宜上、リードしてる方の女性をA。もう片方をBと呼ぶ事にする。
Aのラーメン鉢内のスープは、もう後少し。このまま逃げ切るかと思いきや!
ガッ!
女性Bがラーメン鉢を掴み持ち上げると、なんと、残ったスープを一気に口に流し込んだ。
ドン!
そしてラーメン鉢を、割れそうな勢いでテーブルに叩きつけるよに置いた。
鉢は空になっていた。麺やスープは愚か、ネギの欠片も残っていない。
そしてBは、手を合わせると、口の中身を全て飲み込んでから、閉じていた口を開き、
「ごちそうさまでした…」
と言った。
この瞬間、女性Bの優勝が決まった。
オオオオオ!
ワーーーー!
歓声に沸く会場。
僅差で敗れ、検討虚しく2位に終わったA。残ったスープは、後3口程だった。
それから女性AとBは、握手をして、お互いの検討を称え合った。
パチパチパチ!!
俺等も含めて、会場中の人が2人に向けて、盛大な拍手を送った。