大会後2
「どうぞ、挽きたての豆から入れた、コーヒーです!」
そう言ってブルマン氏は、俺等のいるイートスペースの席に、コーヒーの入ったカップを置いた。
コーヒーとは別に、レオやサヨ向けに、ジュースも付けてくれた。
サヨが勧める出店に、飲み物を買いに行ったらそこは、山の中のカフェの店主、ブルマン氏がやっている処だった。理由を話したら、わざわざ運んでくれた(勿論、俺も手伝った)。
「すみません、わざわざ持って来て下さって…」
「いえいえ、お気になさらず!」
申し訳なさ気なリリーナに対して、そう言って返すブルマン氏。
「それに、サヨが随分とご馳走になったそうですしね!」
「いえ、ご馳走って言っても、殆ど大会の優勝賞品の券だから、ほぼタダなんですけど…」
「そりゃあそうだ!」
そう言って笑い飛ばす俺等。
「にして、ブルマンさんがサヨちゃんの叔父さんだったとはね…」
「ええ、本当驚きましたよ!?」
「私もですよ。この町の道をお教えしましたし、丁度、収穫祭の頃。運が良ければ収穫祭で会えるかもと思ってましたが、まさかこんな形で再会出来るとは…」
ブルマン氏は毎年、収穫祭でカフェの出店を出店しているらしい。
「ところでですが、サヨちゃんの叔父さんということは、ブルマンさんも、武道の心得があるんですか?」
コーヒーと菓子をつまみながら、リリーナが質問した。
先程聞いたが、サヨは町外れの道場の一人娘。先祖代々、武道家の一族で、男女問わず、鍛錬をしている家系らしい。最も、ソレだけでは生活し辛いので、一族出身者は、普段は極普通の仕事に就いているらしい。
もしかしたら、レイナの祖国とは、何かしらの関係あるのかもしれない。
「いえ、私はその…殆ど…」
歯切れの悪そうに言うブルマン。
「私は痛い思いをするのが、嫌でして…」
彼は昔から、格闘技の道は性に合わないらしく、早々に落伍したらしい。
親も、特に無理強いはしなかったらしく、以降は至って普通に生きて、今は山の中でカフェをやっているらしい。
それに対して、サヨは才能があったらしく、鍛錬を始めて短期間で、基本的な技を全て会得してしまったらしい。上達も早く、この歳でかなりの腕前になったとのこと(空手とかでいったら有段者)。
また、学校の成績も優秀らしく、まさに才女とのことだ。
そんなブルマン氏とサヨだが、不思議とサヨはブルマン氏に懐いているらしく、よく彼のカフェに遊ぶに行くらしい。ブルマン氏もサヨをかわいがっていて、遊びに来た彼女にケーキを振る舞うのが密かな楽しみとのこと。
「それにしても、ブルマンさんのコーヒー、本当美味しいです。甘いお菓子に絶妙に合います!」
「当然ですよ!叔父さんの淹れるコーヒーは世界一です!」
と自慢気にいうサヨ。
「サヨ、普通のコーヒーは苦手で、店に来てもジュースばかり飲んでて、飲んだとしても牛乳で割って飲んてるのによく言うな!」
「うっ!…」
「そうなんですか?」
「ええ。それもコーヒー3・ミルク7位の割合でですよ!」
「殆どコーヒー牛乳じゃないか…」
「まぁ、サヨちゃんの歳なら仕方ないでしょ!?」
「で、でも、それでも叔父さんの淹れるコーヒーで作った方が遥かに美味しいですよ!他の人が淹れたコーヒーだと、風味も味も劣っていますし…」
と言って力説するサヨ。
妙に力が入っている。本当に、ブルマン氏の事が好きなんだな。
「あ、そうだ叔父さん。今日は大会があったから殆ど出来なかったけど、明日からはお店、手伝うからね!」
「ああ…」
「叔父さん?…」
「サヨ、無理に手伝ってくれなくてもいいんだぞ!?年に一度の収穫祭なんだ。友達と回ったりして楽しんでいいんだよ!?」
と言うブルマン氏。
確かに子供なら店の手伝いよりも、祭を楽しみたいだろう。
「で、でも…」
言葉を詰まらせるサヨ。
「店の方なら、私1人でも大丈夫だよ!」
大好きな叔父さんの役に立ちたいという気持ちもあるだろうが、そこは子供。本心では遊びたいのだろう。
「サヨちゃん、ブルマンさんもそう言ってくれてる事だし、そうしたら?」
「そうそう、姐さんの言う通り。子供が遠慮なんて、しなくていいのよ!」
「……」
リリーナとレイナも説得する。が、サヨは決めきれない様だ。しっかりものな所が災いしている様だ。
そこで俺は、策を思いつき、そして、
「レオ、ちょいと…」
「ん!?」
レオにこっそり耳打ちした。
「…といった感じだ。頼むぞ。」
「おうよ!」
そして、少々わざとらしく切り出した。
「そういや明日、面白そうなイベントあるみたいだぜ。サヨちゃんよ出てみたらどうだ!」
「イベントですか!?…」
「そう。」
そしてそのイベントについて、ザックリと説明した。
「確かに面白そうですが…」
「入賞すると景品にいいモノ貰えるみたいで、レオも出るってよ!」
「レオくんが!?」
「そう!な、レオ!?」
「おう!」
「…でも…」
それでも決めきれないサヨ。作戦通りだ。
「(今だレオ!)」
目配せでレオに合図を送る。
「なんだ、負けるのが怖いのか?」
「なっ!?」
「まさか、逃げんのか?」
挑発するように言うレオ。
「逃げる!?とんでもない!武道を志す者として、やりもせずに逃げるなんて!!」
「そんじゃあ、出んだな!?」
「勿論!!…あっ…」
「よーし、決まりだな!」
そう。こんな風に煽れば、この娘なら必ず食い付いてくるだろうと睨んだ、俺の作戦通りだ。
「て事でブルマンさん、サヨは明日もイベントに出るんで!?」
「えぇ、よろしくお願がいします!」
「姐さん、これって…」
「うん、タイガーさんの狙い通りみたいだね!?」
リリーナにレイナ、ブルマン氏も俺の狙いを察した様だ。
手な感じで、収穫祭の1日目を終え、2日目に突入するのだった。