大流行
「やりー、俺の勝ち!」
「チクショー!負けた。」
「勝ったから、もらってくぜ。」
「あぁ…俺の愛機が…」
最近、この町の男子児童の間でこんな言葉がよく飛び交っている。今この町の男子の間でベーゴマが大流行なのだ。ことの発端は俺だ。俺がレン達にベーゴマを与えたのが始まりだ。レン達がベーゴマで遊んでいると、周りの子供達が興味を持ち、自分達も欲しいと言い出した。そこからは話が早い。俺の元に子供達が殺到し処理のてんてこ舞いだった。
テツにベーゴマの量産を依頼。元々ベーゴマは型に溶かした鉄を流し込んで作るので、容易に量産出来た。
それを町外れの駄菓子屋に置いてもらったところ、売れに売れたのだ。ちなみにこの駄菓子屋の店主はマリーの知人で彼女の紹介で置けたのだ。持つべきものは何とやらだ。値段も一個あたり比較的安く、飴玉1・2個程度の値段にした。その方が、子供の小遣いでも買いやすいからだ。
そして俺は、子供達にベーゴマの改造をアドバイスした。改造。少々大袈裟な気もするが元の世界でも行われていた事らしい。ヤスリで削り少し薄くする。すると相手のベーゴマの下側に入り込んで弾きやすくなるのだ。他にも、エッジを刻み込んだり、頭部に鉛を仕込み重くする事で弾かれにくくなるのだ。そんな感じの改造を広めた。
負けたら相手にベーゴマを取られるというルールも、俺が少しそんな話をしただけで定着した。賛否あるだろうが、これが尚更、男子の魂に火を付けたのか、子供達は熱中していった。ベーゴマを、沢山所持していることが、一種のステータスとなったのだ。
負けが続いたり、改造に失敗したりする者も居る為、ベーゴマは定期的に売れた。一個一個が安いので、利益は大した事無いが俺とテツの鉄工所には、幾分か収入が入ったので、良しとした。
テツも晩酌の酒代が増えたと喜んでいた。
所変わり、ここはリリーナの家。暫くブリに遊びに来たのだ。
「へー、これが今、町の男の子の間で流行ってるベーゴマって言う物ですか。」
「ああ、皆夢中だぜ。」
そんな他愛のない会話をしながら、リリーナはベーゴマを指で回している。人差し指と中指で挟んで回転させる事でも回せる。
無論、パワーは無いが…
「男の子ってこういう物が好きなんですか?」
「あぁ、男ってのはな、こういう真剣勝負的なものが好きなんだよ。…分かんないかな、リリーナ?」
「私にはイマイチ…単に鉄の塊をぶつけ合ってる様にしか感じませんよ。」
リリーナはベーゴマに余り関心が行かないようだ。女子にはわからないか。やっぱロボットやヒーロー物の様に、こっちの世界でも同じか…
実際、ベーゴマをしてるのは男子ばかりで、女子の姿は見かけないからな…
「でもタイガーさん。おかげで収入が増えたんですよね。マリーさんの店で自慢してたそうじゃないですか。」
「まーな。って言っても大した額じゃないぜ。普通に飲食したら終わりだ。」
「その割には何だか楽しそうですね。もしかして、また何か、プランを考えているとか…」
「おっ、感がいいなリリーナ。実はその通りだ!」
こっちでも女の感は鋭いのか…
「今の人気だって何時までも続くとは限らないからな。他にも色々考えているのさ。」
「へー、例えば?」
「例えばそうだな…そのうちの一つはテツの友人のゲンに頼んである。」
「ゲンさんって確か、町で印刷所を経営してる人ですよね!?」
「あぁ、そしてこれが完成品だ。」
俺はリリーナに完成品(正確には試作品)をまるで水戸黄門の印籠の如く、突き付けるように見せた。