武術大会
そんな理由で、明日行われる、収穫祭の武術大会に出場する事となったレイナ。
出場者とその関係者ということで、祭の運営者が用意してくれた施設で泊まらせてくれた。宿代が浮いたので、ラッキーだった。
俺等はまったりとしている一方、レイナは、
「はぁ…はぁ…」
「性が出てるな!」
施設の外でトレーニングをしていた。
「当然よ!出るからには、無様な姿を姐さんには見せられないからね!」
「気合い入ってるけどよ、祭のイベントなんだし、そこまでしなくてもいいんじゃないか?」
「例え小さな大会だったとしても、武闘家として、手を抜く気はないの!」
「そうか…じゃあな、気合い入れすぎて、本番に響かないようにな!?」
「言われるまでもないわよ!」
そう言って、俺等に用意された部屋に戻った。少し狭いが、タダだから贅沢は言えない。
一応、4人分、寝るスペースはある。
「どうでしたレイナちゃんは?」
「気合い入ってたよ!」
「そうですか…あっ、レオくん!今私の順番、飛ばしたでしょ!?」
「知らねー!」
リリーナとレオがトランプをしていた。俺もさっきまで一緒にしていた(勿論、ビリだった…)。
「手札と場に出てカードの枚数が合わないよ!」
「気のせいじゃねーの!?証拠は?」
「うっ…」
証拠がないので言葉に詰まるリリーナ。
「ならオレっち番だ!…うっし勝った!このクッキーもらったぜ!」
「あっ、ちょっと、今のは…」
クッキーを賭けていたようだ。
聞けば、もうスグ寝るから、これ以上食べてはダメとリリーナは注意したが、レオは食いたいと駄々をこねたので、トランプで勝ったら良いという、名目でしたらしい。
「(何だか本物の母と子みたいだな…)」
と、2人を見ながら俺は思った。 そんな感じで、収穫祭前夜の夜は更けていった。
そして翌日。
「本日は、収穫祭に相応しい晴天で…」
収穫祭は始まった。最初は、この町の町長の挨拶からのスタートだ。
少し硬い感じの挨拶をすると、
「では、堅苦しい話はこの辺にしておきまして、ではこれより、収穫祭を開始します!!」
「「わぁーー!!」」
収穫祭は始まった。
「うぉー!屋台が沢山!」
目を輝かせるレオ。祭の会場には、祭らしく屋台がアチコチに出ている。なので会場中何処に居ても、いい匂いがする。
「レオくん、スゴいテンションですね…」
「そりゃそうだろう。この光景なら、無理もないだろう!」
せっかくの祭だからと、ケチケチせず、何品か買ってやったら、それを満面の笑みで食うレオ。
俺とリリーナも食いながら、会場を回った。武道大会はもう少ししたら、始まる予定だ。
レイナは大会に出るので、会場内の選手控室でスタンバイしている。
そうこうしている間に、大会の時間だ。
大会会場に向うと、会場は沢山の人でごった返していた。
「スゴい人ですね…」
「ああ、祭初日のメインイベントだからな。」
芋洗い状態ってやつだな。こんなに大勢の人がいて、落ち着いてレイナの応援出来るかな…と、言いたいところだが、その点は大丈夫だ。
「えーと…あっ、タイガーさん、あそこですよ!」
観覧スペースの一角に、シートが敷かれ、3人分座れるスペースが空いていた。
近くの係員に、チケット的なヤツを見せ、俺等はそこに腰を下ろした。
ここは有料の観覧席だ。有料でここに座って、試合を観れる。それ以外の観覧は立ち見だが、そっちならタダで観れる。大会出場者の関係者ということで、エムーが手配してくれたのだ。しかも、コチラもタダで。泊まらせてくれた上に、こんな事まで、至れり尽くせりだよ。
時間になるとエムーが試合場に現れた。
町長と同様、簡単な挨拶をすると、
「ではこれより、本日のメインイベント、武道大会を開始します!」
「「わぁーー!!」」
再び盛り上がる会場。
「まずは、試合の前に、拳法家のロウジィ氏による挨拶からです!」
エムーが言うと奥から、1人の老人が出て来た。仙人みたいな立派な髭を生やし、閉じているかのように見えるくらい、細目の人だ。
「誰だ、随分と偉い人みたいだが…」
「あのお爺さん、この辺りに伝わる拳法の師範代で、スゴい偉い人らしいですよ!今も現役で、後輩の育成に励んでいるそうです!」
「詳しいなリリーナ!?」
「パンフレットに書いてありましたよ!」
「あぁ、そうか…」
パンフレットの受け売りか…
等と話している内に、ロウジィは観客達の視線の集まる箇所に立ち、
「…」
無言で直立していた。
老人とはいえ、流石は師範代だ。只者でないオーラを感じる。それでいて隙がない。
皆が刮目していると、ロウジィが目を見開いた。
「「!!」」
緊張感が一帯に走る。そして、ロウジィは口を開いた。
「今日は!!」
と、一言だけ述べてから踵を返し、来た道を引き返し始めた。
「??…」
皆が呆気にとられる。
ロウジィは、エムーの側を通り過ぎる。通り過ぎると、エムーが再び皆の前に出て来た。
「挨拶でした!」
ズコーッ!
多くの人がズッコケた。かく言う俺等も…
「本当に挨拶しただけでしたね…」
「ああ、読んで字のごとくな…」
本当に偉いのかあの爺さん…
妙な空気になったが、いよいよ、武道大会の第一試合が始まるのだった。