激辛
サッサッ!
「よし、こんな感じかな!?」
そう言って、俺は筆を動かして、A4サイズ位の大きさの紙に、
【超激辛ラーメン!!期間・数量限定!!無くなり次第修了!!】
と書いた(勿論、この世界の字で)。
それを見たケイは、
「激辛ラーメンだって!?」
「そう。ここは一つ、激辛ということを推して売り出すんだ。ただ単に、激辛と言うんでなくて、【超】って付けてる点がポイントだ。」
「……」
俺の説明を聞いても、ケイは余り乗り気ではない様子だ。
「でも…お客さんが食い付くか…」
「そこは、ダメで元々だ!どうせ、出せないなら、捨てるしかなくなるだろ?そう何日も、取っとけないし。」
「まぁ確かにそうだが…」
「それにだ、期間・数量限定って所もポイントだ!大衆は、限定って言葉に弱いもんだ!無くなり次第修了ってなら、その前に食っとこうって、気になるもんだ!」
「成る程な…」
ケイは少し考えて、決断したらしく、俺の書いた紙を、店の壁の目立つ所に張り出した。
「アンタの言う通り、試しにいっちょやってみるよ!」
「そうそう、その意気だ!」
ガラ!
丁度その時、お客が入って来た。
「うっすケイ!」
「おぉ、ゴロンか!」
入って来たのは、いかつい感じの男で、どうやら、ケイとは顔馴染みのようだ。
少しの間、ケイと他愛のない話をしてから、
「さて昼めし昼めしと…って、んだこりゃ!?」
ゴロンは、俺の書いた張り紙に目をやりながら聞いてきた。
「書いてある通りだ。理由あって出来た品をな、試しにと数量限定でな…」
「ふ~ん…で、誰か食ったやつはいんのか?…」
「いやまだだ。今日、しかもたった今から始めたんでな…」
「へぇ~…よ~し、俺が注文者の第一号になってやらー!」
「えっ、いいのかゴロン!?」
「ああ、本気よ本気。出してくれ!」
「言っとくが、スゲー辛いぞ…」
「望むところだ!!ホラ、早く出しやがれ!」
「わかった…」
再三注意した後、ケイは調理を始めた。
言っちゃ悪いが、然程流行ってない店とはいえ、そこはプロだ。俺みたいな素人の目にもわかる位、手際がいい。
「お待ち!」
そして出来上がった激辛のラーメンの入った丼をゴロンの前に置いた。
唐辛子色に染まったスープ。見ただけで辛そうだ。
「コレか…うっ、ぐっ…」
顔をしかめるゴロン。
どうやら、湯気だけでも相当来るようだ…
「ゴロン…やっぱ辞めとくか?金はいいからよ、普通のに変えてもいいぞ!?」
ケイが心配して言うが、ゴロンは、
「いらねーよ!あんだけ言っといてよ、辞めたりしたら、負けたみたいになんだろーが!?」
そう言ってゴロンは、激辛ラーメンをすすった。
すすった途端、
「グオーーー!!」
大きな奇声をあげるゴロン。
「はぁ~はぁ~…なんつー辛さだ…」
辛さに悶えるゴロン。早くも顔は、赤くそして、汗塗れだった。
「お、おい…やっぱ辞めた方が…」
「ダメだ!残したら負けだ!!」
勝ち負けの話なのかコレって!?
その後も、苦痛を顔に浮かべながらも、食べ進めるゴロン。
そして、ついに!!
「ヨッシャーー!!」
完食したゴロン。服もまるで夏場にマラソンした後かって位汗びっしょりだ。
「スゲ~!」
思わず拍手する俺達。
「はぁ~はぁ~」
そのままテーブルに倒れるようになるゴロン。強がっているが、そうとうキツかっただろうな…
「しかしこれ、午後から仕事になるのか?…」
差し支えるだろうな…
因みにこの激辛ラーメン。完食したとしても、賞金とかは特に何もない。この店の経営状態から、出す余裕はないだろう。
とはいえだ、何もないというのもアレだな…せめて何か、粗品及び記念品的な物でもあった方がいいかもな…
と考えていると、レオが俺の服を引っ張った。
「なぁ、行かなくてもいいのか?」
「!?イケね!」
もうリリーナ達との待ち合わせ時間を過ぎようとしていた。
慌てて帰り支度をして、ケイ達に別れを告げて店を出た。店を出る前にケイに、完食者には何かあった方がいいんじゃないかと告げた。
それに対してケイは、
「考えとくよ。」
と言っていた。
そして、待ち合わせ場所に向けて走った。待ち合わせ場所は、町の中央の、広場にある(何がモチーフなのかよくわからない)像の前だ。
その像が見えて来た時だった。
「ひぃ~〜~~!」
「ま、まいった!勘弁してくれよ!!」
男の悲鳴が聞こえてきた。
そして、声のした方から、何かしらのダメージを負った男達が逃げるように走ってきた。男達と俺達がすれ違いになった。
「何だ今のは?…」
俺がキョトンとしてると前の方から、
「あっ、タイガーさん!レオくん!」
リリーナとレイナがいた。レイナは手をパンパンと叩いている。
「何かあったのか?」
「それが…」
リリーナから聞いた話によると、ここで俺等を待っていたら、さっきの男達が、チョッカイを出してきたのだとか。早い話がナンパだ。
で、2人が断ると俺等は無理やり連れて行こうとしたという。男の1人がリリーナ腕を強引に掴んだ。嫌がるリリーナ。その途端、その男の顔に一撃がお見舞いされた。言わずもがな、レイナだ。
怒って襲ってくるか男達だったが、レイナによって、瞬く間に返り討ちにされたのだとか。
男達は尻尾巻いて逃げていったという。
「そうだったのかか…」
「そういう事。全く、あたしの姐さんに、乱暴仕様とするからそうなんのよ!」
連中も相手が悪かったな…(あたしのって…)
と思っているところに、
「すみません!」
見知らぬ男に話しかけられた。
「何、アンタもナンパ!?」
「違います!そうでなくて、お嬢さん!どうでしょう、大会に出てみませんか!?」
「大会!?」
ここでまたしても、思わぬ展開を迎えた。