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山奥の店

 

 「迷った!?」

 「みたい…」


唐突な話だが、俺等は山奥で道に迷っていた。

 というのも…


 「レイナが生まれ育った国の近くだから、任せとけって言うから、任せたんだぞ!」

 「いや…その…今思い出したんだけど、考えてみた、こっちの方には殆ど来たことなかったは…」

 「何だよそりゃ!?…」


 そう。公国で出会い、川で溺れた自分を助けてくれたリリーナを慕い、半ば強引に旅に付いてきたレイナ。俺等は彼女の案内で、次の目的地に向かって歩いていた。

 が、どんどん山奥に入って行き、終いには迷ってしまった。


 「どうすんだよこれ…」

 「…」

 「私もう歩き疲れました…」

 「ゴメンね姐さん!なんだったら、おんぶしようか?あたし力あるし!」

 「遠慮しときます、レイナさん…」

 「おんぶが嫌だったら、(お姫様)抱っこでも…」

 「それって、お前がしたいだけなんじゃ…」

 「なっ!そ、そんなんじゃなし!あたしはただ、姐さんを労ろうと…」

 

 そう言いつつ、顔を少し赤らめているレイナ。図星みたいだ。


 「ところで姐さん、その他人行儀な言葉遣いはやめてよ!あたしは妹も同然なんだしさ。敬語なんて不要だし、名前だってレイナって呼び捨てでいいんだよ!」

 「えぇ、でも…」

 「おいレイナ!リリーナが困ってるだろが!無理強(むりじ)いするなよ!」

 「なによ!これは姉妹の問題なんだから、口を挟まないでくれる!」

 「何時の間に姉妹になったんだよ…義理でもないだろ。ほんの今しがた、妹同然って…」


 あからさまに、俺とリリーナで態度が違う。本気でリリーナに好意を持ってるようだ。

 なんて思っていると、

 

 「おい、あそこ!」


 そう言ってレオが指差す方に、建物があった。

 

 「こんな所に家が…」

 「誰か住んでるんですかね?…」

 「兎に角、行ってみようよ姐さん!」


 他に宛もないことだし、俺等はそこに向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ゴク!


「ふぅ~!良い味だ!」


淹れたてのコーヒーを飲んだ途端、口の中にコーヒーの味と薫りが広がった。お世辞でなく、本当に良い味だ。


「うめ~!」


レオは皿に盛られた焼き菓子を次々と口に入れ、咀嚼しょしゃくしている。

レオはよほど不味くなければ、何食っても全部美味いとしか言わないだろうな…


「う~ん、甘〜い!」

「コッチもイケるよ姐さん!」

「ホントだ!コレも美味しいねレイナ()()()!」


コチラも何時も通り、甘い物に舌鼓を打ってるリリーナとレイナ。

レイナも甘い物が好き(特にケーキ類が好物で、逆にカニやエビといった甲殻類は苦手)らしい。互いに好きな物が同じなのもあってか、先程までとは打って変わって、もう完全に打ち解けている2人。互いに注文した菓子を半分こし(シェア)して食べている。リリーナに至っては、レイナのことを早くもちゃん付けで呼んでいるくらいだ。


「コーヒーのお代わりでも、どうですか?」


と、初老の男性が話しかけてきた。


「あぁ、もらいます!」

「私もお願いします!」

「あたしも!」


俺等はコーヒーのお代わりを入れてもらった。彼はこのカフェのマスターだ。名前はブルマンさんという。

山奥でレオが見つけた家は、小さいながらもカフェだった。

何でも、仕事を定年を迎える前に早期退職して、開店(オープン)したらしい。


「本当に美味いコーヒーだ!」

「元々、コーヒー好きで、豆からこだわってます。豆の煎り方から使う水まで、全てにこだわって淹れております!」


とマスターは自信満々に言った。


「……」

「どうしたリリーナ?」


リリーナが何やら少し気不味きまずそうな顔をしていたので、聞いた。


「そんなにこだわられて淹れられたコーヒーなのに、私ったら砂糖とミルクを沢山入れちゃって…」

「姐さん…それを言うならあたしもだよ…」


甘い物好きな2人は、コーヒーに砂糖とミルクを多めに入れていた。

しかし、マスターは、


「ははは!お気になさらずに!確かにこだわってますが、だからと言って、ブラックで飲めなんて言いませんよ。私は、自分の考えを押し付けるような事は好みません。各自が、お好みの飲み方で飲むのが1番です。その方が、コーヒーも喜びます!」


と言ってくれた。そのおかげで、リリーナもレイナも、気兼ねなく飲食を楽しめた。


「でも、人里離れたこんな山奥で、店をやろうと思ったんで?客なんて来るんすか?」

「どうも、人の多い場所は苦手でして。その点ここなら、静かでゆっくりやれますから。皆さんのように、道に迷った人達が時々来られますんで。おかげで、やって行けてます。まあ元々、趣味でやってるものですから!」


余り商売っ気は無いようだ。確かに、道に迷っていたし、地獄に仏だ。それから、マスターに次の目的地までのルート丁寧(ていねい)に教えてもらった。

レオが欲しいとゴネるので、会計場所(元の世界の、レジに値する所)の横で売ってた、小袋入りの菓子をいくつか買った。

そして、皆で飲み食いした分と、今の菓子代の支払いを済ませた。お代わりのコーヒーは無料(タダ)だった。何とも良心的な店だ。本当に、商売っ気はないらしい。

 店を出ると俺等は、教えてもらった(ルート)を辿って、目的地目指して再出発した。


 

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