旅立ち
その日の夜、ジャスティス家にて。
「どうした?遠慮せずに食ってくれ!」
「「……」」
侯爵に勧められるも、緊張してるのか、中々箸の進まないディンとショーの2人。そんな2人を他所に、
「いや~、流石は侯爵家の食事!絶品ですな!!」
料理に舌鼓を打つオヤジさん。
川で溺れたレイナが無事だった事、それを助けたリリーナに対する礼として、ささやかながら食事会が行われている。
この屋敷に来るのも、俺等は2度目だが、普段は側に行く事も憚られるディンとショー。対照的に、勝手知ったる他人の家と言わんばかりのオヤジさん。
「時に改めて、リリーナさん!」
「あっ、ハイ!」
「娘を、レイナを助けてくれて本当にありがとう!!」
そう言って、頭を下げる侯爵。
「い、いいえ、そんな…あの時は体が勝手に動いて…その…」
お偉いさんに礼を言われ、アタフタするリリーナ。
リリーナとレイナ。リリーナは泳げたので問題はなく、レイナの方も、少し水を飲んだが、特に異常も怪我もなく、2人共、その日の内に帰れた。大事を取ってレイナの方は、部屋で安静にしている。
「ところで、皆さん明日予定通り、出発されるそうですね?」
ジャスティス3男のハーランドが聞いてきた。
リリーナもレイナも無事だったので、俺等は明日、予定通り出発する予定だ。ただし、念の為、出発時刻は昼過ぎにずらした。
なのでこの食事会は、俺等の送別会も兼ねているのだ。オヤジさん達がいるのも、その為だ。
「そうか、道中気を付けてな!」
「旅の無事を祈ってるぞ!」
「無茶はダメよ!」
他の兄弟達もそれぞれ言葉を贈ってくれた。
そんな感じで、ささやかながらも送別会を兼ねた食事会は執り行なわれた。
翌日の昼過ぎ。公国の門付近にて。
「達者でな!」
「お世話になりましたオジ様!ほらレオくんも。」
「ん。メシ、スゲ~美味かったぜ!」
「ははは、ボウスの食いっぷりは、見てて気持ちよかったぞ!また何時でも食いに来な!」
「おうよ!」
と、この2人らしい挨拶を交わすレオとオヤジさんだった。
「お気をつけて!」
「何かあったら手紙くれよな!」
「2人も身体には気をつけてな!」
「ああ。折角、活路を見つけられたスポーツだ。必ず、成功してみせるぜ!」
「僕も次の大会で、ベストを尽くします!」
俺とディン・ショーも挨拶を交わす。
「ほら、屋敷のクッキーよ。旅先で食べてね!」
「すみませんロッテさん。」
ジャスティス家からは、ロッテが見送りに来てくれた。レイナはまだ屋敷で養生中だ。侯爵を始め、レイナ以外の4人も仕事があるので、彼女が代表して、来たのだとか。
レオにお菓子を渡すとロッテは、俺とリリーナに、
「お転婆で、少し手を焼くと思うけど、よろしくね!」
と、耳打ちした。
「!?」
「どういう意味だ?…」
「スグにわかるわよ!」
よく分からなかったが、俺等はそのまま出発した。
次の目的地方面の馬車がなかったので、徒歩だ。
「…」
「どうしたリリーナ?」
「いえ、レイナさんと、挨拶できなかったので、ソレが心残りで…」
「そうだったな…まぁ、彼女なら大丈夫だろう。腕っぷしも気も強いし、多分ありゃあ、心臓に杭を打たれでもしない限りは、元気だろう!」
と、言った。
その直後、
ゴン!
「イテー!」
俺の頭に何かがぶつかった。ぶつかったのを、レオが地面に落ちる前にキャッチした。それは、バナナだった。
速攻で皮を向き、バナナを食うレオ。
「心臓に杭って、人を吸血鬼みたいに言わないでよね!」
「あっ!」
「レイナさん!」
そうそこには、屋敷で養生してるはずのレイナがいた。足元には彼女の鞄がある。俺等と共に入国した時も、持っていたやつだ。
吸血鬼に杭。そう言う話は、こっちにもあるようだ。それは置いといて、
「レイナ!何だってココに…」
「来ちゃった!」
おれの質問に対して、レイナはそう答えた。漫画とかでたまにある、キャンプとかに行く時来る予定ない人物が、出発前にいきなり加わるやつだ。
確か、映画「君の◯は」であったな…
それは兎も角、
「レイナまさか…」
「そう。あなた達の旅、あたしも一緒に行く!」
と、藪から棒に言い出した。
「一緒に行くって、俺等は修行の旅をしてるわけじゃ…」
「わかってるって、そのくらい。あたしは、命の恩人の姐さんに、恩返しがしたいの!」
「!?姐さん…それって、私のこと…」
「そうよ。あたしの方が1つ年下なんだし!」
「えぇ…」
「これからは、何があっても、あたしが姐さんの事を守るから安心して!」
「えぇ…」
リリーナに顔を近づけるレイナ。その顔は、恋する女の様だった。
急な百合な展開。レイナって、そっちの気があったのか…
「お、おい勝手に話を進めるなよ…」
「なによ!じゃあ、町外れのゴロツキ連中に何も出来なかったあんたに、姐さんを守れるの!?」
「……」
言い返せなかった。
彼女のご両親の墓で、リリーナを守ると約束はしたが、イザとなったら足がすくんだしな…
確かに、彼女がいてくれたら、心強いな(男としてな情けない話だが…)
「異論は無いわね!?なら、決定というわけで!」
そう言うとレイナは、リリーナと腕を組む様にして、
「さあ、行こう姐さん!!」
「あっ、ちょっと…」
少し強引に、先に進みだした。
「ちょっと待て!一緒に来るのはいいとして、家族には伝えてあるのか?」
「面倒だから、その辺はロッテに言伝を頼んどいたから!」
「ロッテに…あぁ…」
さっきの、
「お転婆で、少し手を焼くと思うけど、よろしくね!」
って、そういうことかよ…
ロッテのセリフを思い返した。侯爵への説明を押し付けられて、彼女も大変だな…
なんて思ってる内に、リリーナとレイナ・レオは俺を置いて先に行っていた。
「(レオまで…)おい、俺を置いてくな!!」
そう叫んで、皆の後を追った。
こうして、レイナが新たに(半ば強引に)加わり、俺等は改めて旅立ったのだった。
というわけで、レイナが仲間に加わりました。ここからは、4人での旅となります。