旅立ちの前日②
バキッ!!
バシャーン!!
レイナが乗っていた欄干が崩壊し、レイナはそのまま川に落ちてしまった。
「レイナ!」
「大変だ!あの川深いんだぞ、あの辺は特に!」
俺等も駆け寄って、川を覗き込んだ。
バシャ!バシャ!
「アプアプ!…」
レイナは水面で、必死にもがいている。
「ロッテさんよ、もしかしてレイナって泳げないのか?」
「えぇ、そもそもこの国では、泳げる人の方が少ないは…」
そう。スポーツが盛んなこの国だが、水泳は全く行われていない。
海からはそこそこ離れているし、時代背景的にプールの様な泳ぐ施設を作るのは難しく、国内に流れる川は深い箇所が多い上に流れも早いので、泳ぐのに(特に水泳の練習には)向いていない。なので、川で子供達があまり遊ばないように注意されている。遊ぶにしても、浅瀬でヒザ下までに足を漬けるくらいだ。
その為に、この国で水泳は行われず、そもそも水に入る機会も環境も殆どない。結果、泳げる人が殆どいないのだ。例外は、他国に行き、何かしらの理由で泳ぎを学んだ一部の人のみ位だとか。
「そうか…てことは、ロッテさんも…」
「えぇ、泳ぐのは苦手で…」
「じゃあ、ディンとショーも…」
「はい、泳げません…」
「同じく…」
「くッ…」
書か言う俺も、泳ぎはあまり出来ない。
そうこうしてる間も、レイナはもがいている。
その姿を見て俺は、前の世界で、テレビで見た事を思い出した。
「レイナ!もがいちゃダメだ!それよりも水面に浮かぼうとするんだ!力を抜いて、手を広げろ!」
と叫んだ。
多くの人が溺れた際に、叫んだりもがいたりするが、それはしてはいけない行為だ。叫んだりもがくと、肺から空気が抜け、身体が沈んで余計に溺れやすくなってしまうらしい。
人間の身体は水にある程度は、浮かぶようになっている。
息の吸っていれば、身体の約98%の部分が水の中でも、残り約2%の部分が水から出るようになっている。しかし、もがくとその僅かな2%が、手先になってしまうのだ。
なので溺れた際は、
①体の力を抜き、手足を広げる
②靴・服は脱がない
③落ち着いて呼吸し、浮いて助けが来るのを待つ
が、大切なのだ。前の世界で見たテレビでやっていた。
しかし、
「アプアプ!」
「ダメだ聞こえてない…」
パニックになってるレイナの耳には届かないようだ。
「ロープか何かないか!?」
そう言って辺りをキョロキョロと見渡すも、漫画みたいに、都合よくは見つからない。
その直後だった。
グッ!!
「!リリーナ!?」
突然、リリーナが欄干に身を乗り出した。
そして、
バッ!
止める間もなく、リリーナはそのまま川に飛び込んでしまった。
「えっ、リリーナ!?何を…」
リリーナ、前に泳げないって言ってたじゃないか!?なのに、なに考えてんだ!?…
そう思っていたが、
「レイナさん、私に捕まって!」
飛び込んだリリーナは、片腕にレイナを掴ませると、もう片方の腕で、水をかいで泳ぎだした。
「泳げてる…」
そうこういている内に、リリーナはレイナと共に、川岸に辿り着いていた。
「「はぁ…はぁ…はぁ…」」
川岸に上がった2人。
「はぁ…大丈夫レイナさん!?」
「はぁ…えぇ…おかげさまで…何とか…」
2人共、全身びしょ濡れだが、命に別状はなさそうだ。
「お~い、リリーナ!」
「大丈夫レイナ!!」
俺等が駆け寄る。
ショーとディンが、タオルを差し出す。2人共スポーツマンなのでタオルは何時も形態しているようだ。
それから、ショーとディンに手伝ってもらい、レイナと、念の為にとリリーナの2人を、医者に診てもらった。ロッテによると、ジャスティス家のお抱えの医者らしい。
スポーツ大国で尚且つ、武道を嗜む家柄ゆえに、お抱えや専属の医者が何人かいるのだとか。
検査結果、2人共異常なしとのことだ。それを聞いて、一先ず安心した。
2人のいる病室に入る俺。
「タイガーさん…」
「大丈夫かリリーナ!?」
「タイガーさん…はい、ご心配おかけしました…」
頭を下げるリリーナ。レイナは寝ている。
「全くだぞ!いきなり川に飛び込むなんて…」
「すみません…レイナさんを助けようと、無我夢中で、気付いたら飛び込んでました…」
「たく…てか、いつ泳げるようになったんだ!」
「ワイハ島で、船員の方々からご指導してもらいました!」
ワイハ島でバカンスしている最中、コリート船長の船の船員達から、教わったのだとか。
全然、知らなかった…
何でも、万が一、レオが溺れたりした時、助けれる様にと、猛特訓してもらったのだとか。
結構、過保護だな…
とはいえ…
「だからってな…飛び込むなんて危険すぎるぞ!下手すれば、君だって溺れてたかもしれないんだぞ!」
「はい、ごめんなさい…」
意気消沈するリリーナ。
今回、リリーナがしたみたいな救助の仕方は、下手すれば、する側も溺れかねない、危険なやり方なのだとも、テレビでやっていた。
そんなリリーナに、俺は寄り添い、彼女の顔を自分の胸に当てた。
「本当、無事でよかったよ…」
「タイガーさん…」
「君に何かあったら、天国のご両親や、ケティ達に合わせる顔がなかったよ…」
「…」
意気消沈していた先程とは打って変わって、少し顔を赤らめるリリーナ。
そんな時、
ガタ!
と入り口のドアの方から音がした。 閉じたはずのドアは、少しだけ開いていた。
俺が慌ててドアを開けるとそこには、レオを始め、ディンとオヤジさん、ショー・ロッテ、更にはジャスティス家の人々がいた。
「な…揃いも揃って、見てたのか?何時から…」
「「ご心配おかけしました」の辺りから…」
とオヤジさん。ほぼ最初っからじゃないか!
「いや、だって…2人してベットで身を寄せ合ってて、何だか、邪魔しちゃ悪いような気がしてな…」
と、オヤジさんが言い、他の面々も頷く。
「「………」」
それを聞いて俺とリリーナは、一緒に顔を赤らめたのだった…
今の時期(夏)は、本当に海難事故等が起きやすいので、皆さんもお気を付け下さい。
本文にもある通り、泳いで救助するのは、本当に危険を伴います!!