ジャスティス家兄弟
部屋に入って来たいかにもと言った感じの男女4人。
各自が順に挨拶した。
「レイナの客人とは君らか。ジャスティス家長男、サンダスだ!現パンチャラーと、レスラス王者!!」
と挨拶したのは、侯爵同様、かなり大柄な男性の長男だ。パンチャラー王者。つまり、ボクシングチャンピオンみたいなものか…確かに、鍛え抜かれたその腕から放たれるパンチは凄まじそうだ。レスラスはレスリングによく似たやつだ。そっちでもチャンピオンとは…
「次男、デービィット。蛇骨拳 師範代。」
スキンヘッドで、長身だが少々細めの身体の次男。服で隠れているが、よく鍛えられているのが判る。
蛇骨拳とは、大陸西部に伝わる格闘技の一種とのこと。
「長女のハンナよ!ライオス流槍術7段。後、回転脚法等も少々…」
長女で、レイナに似た顔つきの女性。レイナと違って、髪は長め。ライオス流とはこの国に古くから伝わる槍や剣等の流派のこと。しかも、若くして7段とは…
「3男の、ハーランドなるものです!ライオス流剣術を、幼少の頃からたしなんでおります。」
腰に剣を差した、言葉遣いが丁寧な3男。美少年で、兄2人とは違い、背丈は余り高くないが、その歩き方からして只者ではないことが、素人目にも分かる。
「そして末っ子の、次女レイナ。以上、我が息子・娘達、ジャスティス家5兄弟だ!!レイナ以外は、普段は自警隊と協力し、国の警備等を行っているの!」
本当にスゴい顔ぶれだ。皆が皆、スゴい強者のや覇気を放っている様に感じた。間違ってもイザコザを起こしたり、ケンカは売りたくないな。したら、命はないかも…
「み、皆さんお強そうですね…」
リリーナも萎縮している。
「なーに、この国を守るジャスティス家の者として、この位は当然!」
「兄上の言う通りです!でも、僕なんてまだまだですよ…」
そう言うと3男ハーランドは腰の剣を抜き、近くの燭台に目をやった。そして、側にいるメイドに目配せをした。
するとメイドは、燭台のロウソクに火を付けた。
ハーランドは火の付いたロウソクに向けて、剣を振った。
次の瞬間には、火の付いたロウソクは、途中から上が無くなっていた。
そのまま俺達の方に体を向けるハーランド。
すると、彼の持つ剣の剣先に、ロウソクの上半分が乗っかっていた。しかも、火は付いたままで、ロウソクは燭台に乗っていた時のままかの様に、燃え続けていた。
「おぉ…」
「すごい…」
思わず絶句する俺とリリーナ。
しかし当のハーランドは、
「まだまだですね…」
「えっ、まだまだって…」
「見て下さい。このロウソク、僅かですが斜めに傾いてます。それに、切り口も歪んでいる…まだまだ修行が足りませんね…」
そう言いながら、静かにロウソクの火を吹き消すハーランド。
今のままでも十分に、スゲーと思うが…なんともまぁ、ストイックだな…
「ハーランド。お前はまだまだこれからだ。それよりも、例の件はどうなった?」
「あぁそうでした。父上。例の件、犯人は捕らえ、自警隊に引き渡しました。」
「そうか。もう解決したか、流石だな!」
「いえ…」
「例の件って…」
俺は思わず聞いてしまった。
「あっ、いや、すみません!つい口が…」
直ぐ様、訂正した。
「構わん。もう解決した事だしな!ハーランド、話してみよ!」
「わかりました。町のとある飲食店の店主の女性から、お客に飲食代をごまかされたと、被害届が出たんです。」
「ごまかされたって、そんな軽犯罪にまで、関わるんですか?」
「大きさは関係ないんです。どんな些細な事件でも、解決の為に全力を挙げるのが、我が一族のモットーなのです!」
「はぁ…」
「犯人は、店主が顔をよく覚えておられたので、直ぐに見つかったんですが、犯行の手口というのが、実に巧妙な手を使われたんです!」
「巧妙な手口⁉」
「えぇ、その犯人は、実に巧妙な手を使ったんです!」
話を纒めるとこうだ。
その被害に遭った女性には、6歳と7歳の子供かいて、営業中はキッチンの近くで遊んでいる。犯人はそこに目をつけた。
犯人はその女性の経営する店で銅貨9枚分、飲み食いした。そして勘定を払う時に、
「銅貨9枚だったね。それじゃあ、1枚2枚3枚…」
と1枚づつ数えながら出して来た。
そして銅貨を5枚目を出した時に、
「元気そうなお子さんだね!今、何歳です?」
と、尋ねた。
店主の女性は、
「6歳と7歳になります!」
と答えた。すると男は、
「そう。ほい、8枚9枚と!」
「はい。ありがとうございました!」
男は店を出ていく。後で確認したら、2枚足りていなかった。そこで被害に気付いた。
と、いった感じだ。
一連の流れを話したハーランドと、聞いていた侯爵と、他の兄弟達は、
「なんと巧妙な手を…」
「子供がいる事を利用するとは…」
「実に悪知恵の働く奴だ!」
と口々に言う。
が、俺はというも…
「(巧妙な手口って…それ、古典落語の「時そば」じゃねーかよ⁉)」
と心の中でツッコんだ。
本当に、古典落語の時そばという演目に、似たような話があるのだ。
まぁ、この人達に落語と言っても通じる訳がないけど…
等と思っていると、隣のリリーナが、
「本当に巧妙ですね。犯人の人は、相当頭の働く人ですね⁉…」
と言ってきた。
リリーナまで…まぁ確かに、この世界の時代背景等を考えれば、巧妙なのかもしれないが…
「そうだな…」
そう相槌を打ち、俺は本音を、茶で胃に流し込む様にして、飲み込んだ。