レイナの家
「(お嬢様だったのかレイナ…)」
「…」
驚いてろくに声の出ない俺とリリーナ。
「さぁ、入って!」
とレイナは言うが、俺とリリーナは入りにくかった。
「どうしたの?」
「あっ、いぇ…どうしましょう、タイガーさん⁉私、こんな格好で…」
小声で俺の耳元でささやくリリーナ。
彼女の今の格好は、リサからお下がりで貰ったり服だ。ぱっと見はキレイだが、近くでよく見ると、スカート部分とかに小さいほつれがあった。普通に友達の家に行く分には問題ないが、こんな屋敷には不似合いに見えた。
かく言う俺も、
「(穴空き寸前の靴下なんて、履いてくるんじゃなかった…こういう時に限って…)」
と、内心焦っていた。
そんな俺等の気も知らずに、
「ウホホーイ!菓子!菓子!」
と、なんの遠慮もなく門を通り抜け、中へと入って 行くレオ。
「あっ、レオ!」
「ほら、あの子みたいに、遠慮なんていらないから、親戚の家にでも来たつもりでさ!」
「「…」」
そう言われ、俺等は、意を決して屋敷に入った。
中は高そうな家具や調度品だらけだ。かなりの名家のようだ。
客間に通され、これまた高そうな椅子に腰掛ける。
「どうぞお召しあがり下さい!」
「あっ、はい、ご丁寧に!」
メイドさんが運んで来たお茶と菓子が、俺等の前の机に丁寧に並べられた。
かなり緊張気味に返事するリリーナ。
俺も恐る恐る、高そうなカップに入ったお茶を、口に運んだ。良い茶葉を使用しているようだ。いい香りなのは分かったが、緊張してるのもあってか、味の方はよく分からなかった…
ポリポリ!!
「うめ~!」
そんな俺等と対照的に、何時ものようにがっつく様に菓子を食うレオ。こいつには、作法もへったくれも無かった…
勝手知ってる他人の家と言わんばかりに、なんの遠慮もなかった。
「レオくん!」
隣のリリーナが、小声でたしなめる。
そんな俺等の姿を見てレイナは、
「いいのよ。あなた達も、その子みたいに遠慮なく、くつろいでよ!」
と、彼女が言ったその直後、
「おや、客人かレイナ⁉」
「父さん!」
顔に目立つ古傷のある、ゴツい顔の男性が入って来た。背丈も2m級はある。
どうやらレイナの父親みたいだ。
ただでさえ、場違い感で萎縮してたのに、更に強面の人と対面し、益々緊張してきた。
するとリリーナが立ち上がり、
「はっ…始めまして…リリーナと…申します!」
と、言葉に詰まりながら挨拶した。
「す、すみません…このような粗末な身なりで…あっそうだ…ココとココを持って…それから…」
と言いながら、スカートの両裾をつまみ、アレコレ悩んでいる。
どうやら、目上の人に挨拶する時に、漫画とかで女性がやる仕草をしようとでもしているようだ。
そんなりを見て、レイナの父は、
「ハハハハハ!」
と豪快に笑った。
「そんな堅苦しい挨拶は不要だ。ほら座って!」
と言いながら、空いている席に、音を立てながら座った。そして徐ろに、菓子をつまむとレオと同じ様に、ポリポリと音を立てて食べた。彼からは、気品は殆ど感じられなかった。
そんな姿を見て俺もリリーナも、緊張が解けたのか、気が楽になった。そこから、レイナの父も加わり、茶を飲んだ。
「どうだ美味いか?我が家専属のパティシエが作った菓子は格別だろう⁉」
「うん、うめーぜオッチャン!」
「ばっ、レオ!なんてことを…」
「ハハハ!構わん構わん!子供は遠慮などすることはない。おい、追加だ、もっと持ってきてくれ!」
「かしこまりました。」
近くにいたメイドに、追加を持ってこさせた。
机の上は、沢山の菓子で溢れ、ちょっとしたパーティーのようになった。
その後も、レイナ親子との茶会?は進んだ。
最初は萎縮していた俺等も、レイナ父の裏表ない態度もあってか、すっかり打ち解けれた。次第に、相手が位の高い人という事も忘れていた。
「それにしても、スゴい顔ですね⁉」
とレイナ父に聞いた。
直後に、聞いたらマズかったかと思って、ハッとした。親しき仲にも礼儀ありだってのに…
しかし、レイナ父は特に気を悪くした様子もなく、
「この傷か⁉傷は、これだけじゃないぞ!」
そう言うと上着を脱いだ。
服で隠れていたが、身体中、傷だらけだった。
「スゴい…」
息を呑むリリーナ。
「まず顔の傷。コレはレイナが幼い頃、この屋敷に押し入って来て強盗と格闘した時のものだ。見つかるやいなや、ナイフを出して切りかかってきおった。」
「はぁ…」
「次にこれが、町にどこからか入って来た、野犬の群に襲われそうになった子供達を庇った時のだ。コッチは町で暴れていたチンピラ共と戦った時ので、コッチは山ごもりの修行中に遭遇したクマと戦ったときのもの。」
俺は息を呑んだ。
「次にこれが、若い頃に友人とふざけ合ってて、壁に激突した時のだ。」
「ん⁉」
「コッチは夜中にトイレに行った時、寝ぼけて階段から転げ落ちた時ので、コッチは妻に浮気を疑われてそれが元で口論になり、ヒステリックになった妻に、爪で引っかかれた時のだ!」
「いやいや、途中から闘いとか一切関係なくなってるじやないっすか…」
思わずツッコミを入れた。
「まぁ確かに、関係ないヤツもあるが、多くが家族や民を守るために負った傷だ。その全てが勲章みたいなモノだ! 」
「(名誉の負傷ってやつか…)」
「でも、身分ある貴方が、どうしてそこまでされるんですか?」
リリーナが尋ねた。
「どうしてって、それが家長として、尚且つ、ジャスティス侯爵家の者の務めだからだ!」
「えっ…」
「こっ、侯爵!」
「そうだが…何だレイナ、言ってなったのか?」
「そういえば、言ってたかったわね…」
あっさりと言うレイナ。
するとレイナ父…改め侯爵は、
「そうそう、紹介が遅れたが、ワシがジャスティス侯爵家の現家長、ブルータス・フォン・ジャスティスだ!」
「「えーー!!」」
驚きの声をあげる俺とリリーナ。ジャスティス家は、ここシップス公国を統治している3大貴族の一家だ。
そう俺等は、名家どころか、知らず知らずに国のトップの人と話していたのだった…