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100人勝負

 「ニコ…ニコ…」


 リリーナの顔を覗き込んだまま、しきりにニコの名前を呟くレイナ。


 「あのー、レイナさん…」


 リリーナに呼ばれ、ハッとして正気に戻るレイナ。


 「あぁ、悪いね、つい…」

 「確かにニコは私の友達ですけど、彼女がどうかしたんですか?」

 「いや何、ニコ…いや彼女は…」

 「ニコは?…」


 レイナは少しためてから答えた。


 「私がしていた、100人勝負の100人目の相手だったんだよ!」

 「えっ⁉」

 「100人…勝負…何だよそれは?…」

 「100人勝負ってのは、武道家・格闘家100人と戦い、100人全員に連勝する事を目的としたものよ!」

 「100人全員に!それも連勝でか⁉」

 「そうよ。」


 そう言うとレイナはカバンから丸めた2本の紙を出した。そして、1つを開いた。

 その紙には、番号・名前・日付そして武道・格闘技の名が書かれていた。更に、名前の横には拇印が押されている。


 「各地を回って、様々な武道家・格闘家と戦う。種目は相手に合わせて。勝負に勝ったら、相手に拇印を押してもらう。それが本人に勝ったという事の証明よ!」

 「はぁ…」

 「そしてそれが、100人に達したら、チャレンジ成功という訳よ!」


 空手の百人組手みたいなものか。

 

 百人組手。某空手の流派の荒行のひとつで、1人の空手家が100人の空手家に連続で組手を行うことだ。当初は、荒行としてではなく、外国人門下生が帰国する、もしくは海外に長期派遣する門下生への送別の意味を込めて行われていたらしい。

 公式上、達成者は数える程しかおらず、しかも、達成者の何人かは達成後に入院したとか。

 それ程過酷なものなのだ。


「で、その100人目がニコだったというのか?」

「そうよ。アレは2年近く前のこと…」


 彼女レイナは話しだした。


 「2年ほど前、修行の傍ら私は、各地の武道家・格闘家相手に100人勝負をこなしていた。勝負は順調だった。特に苦戦することもなく、気づけば勝利数は90を超えた。」

 

 噺家はなしかの様に、淡々と1人で話し続けるレイナ。


「その日の相手は、カリボーの使い手の男3人だった。特に苦戦することもなく全員に勝ったけど、彼等は、自分達が籍をおいている道場には、「物凄く強い人がいる」、私でも「あの人には勝てないだろう」と言っていたの。」


 そこまで言うとレイナは、カップに残っていた紅茶を一気に飲み干した。

 長々と話したので、喉が乾いたようだ。

 飲む終えるとレイナ続けた。


 「最初は敗者の戯言と思って気にしなかったけど、そんな強いなら、100人目の相手に相応しいかもと思ったのよ。そして後日、例の道場に行って、勝負を申し込んだの!」

 「そこがニコの家の…」

 「そう!彼女の実家がやっている道場だったの!…あっ、すみませーん!」


 俺等の側を、通りがかった店員ウェイトレスに声をかけるレイナ。又喉が乾いたらしく、水のおかわりを頼んだ。

 そして運ばれて来た水を一口飲んでから、話を続けた。


 「先日相手した人達から、伝わっていたので、話はすぐに通ったの。で、100人目の相手として出てきたのが…」

 「それがニコ…」

 「その通り!第一印象からして、大人しそうでとても強そうには見えなかった。てっきり、師範代あたりが出てくるのとばかり思ってたから、少しやる気が抜けしてしまったわよ!」


 そこまで言ってから、更に水を一口飲んだ。


「まぁ私は、誰が相手だろうと手を抜くつもりはなかったし、何よりも、これでいよいよ100人目だと、意気込んでた…」


(武蔵坊弁慶みたいなこと言ってんな…)


「そして、師範達と門下生達の見守る中、彼女との試合をしたの。結果…」

「結果⁉…」

「負けたのよ!完敗だったは…」

「完敗…」

「そうよ。私は彼女に、指一本触れることも叶わずに、ボロ負けしたの…」


 そう言って、水の入ったコップを持つ力が増すレイナ。


「決して、油断なんてして無かった。でも、まるで刃が立たなかった…彼女は明らかに格上だった…」

「そういえば、他流試合を申し込んで来た女の人がいて、お父さんの命で相手をしたって、ニコが前に言っていたような…それが…」

「私の事でしょうね…ともかく、悔しいけど、勝負は私の負けだった。嫌ってほど、自分が半人前なのだと思い知らされた! くっ…」


コップを握る力が更に増したレイナ。

すると、


 パリン!!


「アッ!!」


彼女の握力に耐えきれなかったのか、コップは割れてしまった。そして、残っていた水が床にこぼれ落ちた。

なんて握力なんだよ…


「(ゴリラ並みの握力だな!)」


と思ったが、口には出さなかった。


「大丈夫ですか、お客さん!」


直ぐ様、店員ウェイトレスが、ふきんを持って駆け付けた。


「えぇ。それよりも、すみませんコップが…」

「いえいえ、この位かまいませんけど…」


店員ウェイトレスに謝罪するレイナ。

その姿は、とても強盗達を1人で倒したり、コップを素手で壊すような人間には見えなかった。

そんな彼女の側で、店員ウェイトレスと共に割れたコップの片付けをするリリーナ。

その光景を見ながら、


「(それにしてもニコ、このレイナを赤子の手をひねるがごとく、安々と倒すだなんて、そこまで強かったのか…)」


 と恐怖に近いものを感じた。

そして、旅に出る前の事を思い出した。俺は彼女(ニコ)に、少しだけカリボーの手解きを受けた。それだけで俺は、少し強くなった様な気でいた。

その時ニコに、一度手合わせ願おうかなと思ったが、自惚(うぬぼ)れている様な気がして止めた。


「(本当、止めておいてよかった…していたら、いやって程、身の程を知らさせていただろうな…いや、それ以前に、下手すりゃ旅に出れる状態コンディションでいられなくなっていたかも…)」


  と染み染み思ったのだった。


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