裏路地
話は戻る。
暫くの間は、リリーナと他愛のない話をしていたが、次第に話すことも無くなってきた。
「さて、レオのスクールが終わるのも、夜の営業までもまだ時間あるな…」
「そうですね、それまでどうします?」
「そうだな…」
オヤジさんの夜に向けての仕込みは、1人で十分で、手伝うような事は特に無い。
なので、この時間帯俺等はヒマだ。
暫し考えて、
「少し、町中をぶらついて見ないか?」
「町をですか?」
「ああ。最初に来た時に軽く散策して、それ以降はこの店を手伝ったり、ディンの事で一杯で、じっくりと回ってる暇は、なかったろ?」
「そういえば、せっかく来たのに、余りゆっくり回ってませんでしたね!」
「だろ⁉どうせ暇で、時間もあることだしさ!」
「そうですね。レオくんも、スクールに預かってもらっていることですし、行ってみましょうか!」
という訳で、俺等は町に繰り出す事とした。
厨房で仕込み作業中のオヤジさんに、出掛けることを伝えると、
「そうか。分かった、行って来な!」
「そんじゃあ!」
「夜の営業時間には戻りますね!」
「おう、気を付けてな!あっ、この国の外れの方には、行かないようにな!あの辺、治安良くないからな!!」
「ああ、分かった。」
と言って店を出て、町に出た。
それから町を見て回ったが、当然ながら、
「あい変わらず、スポーツだらけだな…」
「ですね…」
本当にスポーツ関連の施設・店が多い。前にも述べた通り、スポーツの用品店・各種練習施設が所狭しとある。オヤジさんの店みたいな、スポーツと関連性の低い店の方が少ない。
露店も、スポーツ観戦しながらでも、食べやすい物の店ばかりだ。昼は食べたが、少々小腹がすいたので、買って食べた。
俺は串焼きの肉を、リリーナは元いた世界におけるベビーカステラみたいなヤツ(中にジャムが入っている)を選んだ。
「うん、結構イケるな!」
「ええ。美味しいです!」
「レオがいたら、「食わせろ!」って言って来て、こんなに、ゆっくりとは食えなかっただろうな⁉」
「そうですね、レオくんの食欲は普通じゃないですしね…」
「あぁ…」
と、それぞれ買ったものを食べ歩きしながら、町を回った。
途中、レオのいるスクールの近くを通ったので、覗いてみると、町の子供達に交じって練習するレオの姿が見えた。
「レオくん頑張ってますね!」
「ああ。でも、あの分だと「身体動かして腹減った!」って言って、尚更食いそうだな…」
「ですね…」
それからも散策を続ける俺達。
途中、例の橋と公園に通りがかった。公園内を除くと、ディンが子供達にボウリングを教えていた。
ディンも子供達も、とても楽しそうだった。
それから先に進むと、人気のない裏路地に来てしまった。
「何も無いとこに来ちゃったな…」
「ええ、どうやら国の外れみたいですね…」
「だな…ん、外れ…そういやオヤジさんが…」
と言いかけたその時、俺達な周囲に突如、5~6人位の人間が現れ、俺等を挟み撃ちにした。
「なっ、何なんだ、アンタ等は…」
「へへへ!」
日陰なのでハッキリとは見えないが、全員が全員、絵に書いたように、ガラの悪い連中だった。
「お二人さん、観光かな…」
と、リーダーらしい男が聞いてきた。
「そうだけど、それがどうかしたか?」
「いや何、折角、観光に来たのに、痛い思いはしたくないだろ?だ~か~ら~、」
そう言うと男は、懐からナイフを取り出し、
「金目の物置いてきな!!」
ナイフを俺等に向けた。
他の奴等も同様に、光物を手にしている。
強盗だ。そういえば、オヤジさんから忠告されていたんだった。ウッカリしていた。
俺の横で、リリーナはすっかり怯えている。
「(金だけだ済めばいいが、下手すれば…)」
そう考えていると、リーダーの側近らしき奴が、
「アニキ、男はともかく、横の女、結構かわいいっすよ⁉」
「確かに。よ~し、金がもらえりゃ男の方は用済みだが、ネーちゃんの方は、俺等と一緒に来てもらおうか‼」
「⁉」
事は、最悪な方向に進んでいる。
「(俺はともかく、何とかリリーナだけでも逃がせないか…)」
恐怖で涙目になっているリリーナを見ながら思考している。
旅に出る前、ニコとケティに少し鍛えて貰ったとはいえ、所詮は付け焼き刃。多勢に無勢。しかも凶器付き…
状況は最悪だ。
「くっ…」
「タイガーさん…」
絶体絶命だ。
「へへへ、さぁ大人しく…」
リーダーらしき男がそう言いかけたその時、
ドギャ‼
「ぐぇ!」
反対側から変な声が聞こえてきた。
振り返ると、反対側にいた男達の、1番後方にいた男が、その場に倒れている。
そしてその側に、
「全く…あんた達みたいなゴロツキ共が居ると、この国の評判を悪くなるのよ!」
若い女性が立っていた。
「誰だ…」
「あ、あの人は…」
「知ってるのかリリーナ?」
「ほら、乗り合い馬車で…」
リリーナがそこまで言うと、俺も思い出した。
彼女は、乗り合い馬車にいて俺等と一緒に入国した若い女性だった。