試作品
ラーメン店から帰ってから、俺は色々思考を巡らせた。
子供向けのオモチャの試作品等に関しては、テツに任せた。テツは飲兵衛だが物作りの腕は良いと聞いた。それとは別に俺はある物を作れないかと思っていた。それの主原料はホットケーキと同様、小麦粉だ。しかも、コンピューターゲームもろくに無い時代に作られたんだ。この世界でも作れる可能性は大いにある。
「必要な物は、小麦粉・水・塩・卵。後、ホットケーキの時にも使った重曹だ。本当はかん水って名前の液体がいるらしいが、無いからここでも変わりに使う。何処かで重曹を代用で使っても出来ると書いてあったのを覚えてる。本当、色々と役に立つな重曹。」
必要な物は揃えれっけど、いざ作るとなるとな…町のラーメン店の大将にコツとか聞ければいいんだが、教えてくれるかどうか…
「ふぁーっ!眠くなってきたな…まっ今は思考段階だ。どうするかは後で考えるとし、また今度にしよう。」
俺はそのまま眠りについた。
それから数日、俺は牧場で汗を流す毎日を続けている。リリーナとは偶に合って飯食ったりしている。聞くところによるとマリーの店は相変わらず好評らしい。
そんなある日、仕事を終え、小屋で休んでると戸を叩く音が聞こえ、俺はベットから飛び起きた。人が訪ねてくるなんて初めてだ。
「どちらさんで?」
「おーいタイガー!俺だ俺。」
テツの声が聞こえてきた。俺は戸を開けると、そこにテツが居た。
「テツ、何でここに?」
「リリーナに聞いて来たんだ。あっ大丈夫だ、牧場主には挨拶しといたから、不審者扱いはされねーだろう。」
「それならいいが…まー入ってくれ。」
俺はテツを小屋の中に招き入れた。元々あまり広くない小屋だ。そこにテツが加わるとやたらと狭く感じる。狭い空間に男が2人。余りいい光景じゃないな。
「生憎だか、酒はねーぞ。茶ぐらいなら出せるが。」
「お構いなくだ。すぐに帰るつもりだ。」
「そっか。で、何の用だよ?」
「例のやつの試作品が出来たから、持ってきたんだよ。」
「あー、あれか。出来たか。早速、見せてくれ。」
「一応、お前の説明と図面通り作ったが…どうだ?」
テツは試作品を取り出し、粗末な机の上に並べだした。それらは、概ね俺の期待した物の形になっている。
俺はテツの作った試作品の品々を手に取って見た。形は少々不恰好だが、まあ試作品だし、こんなとこだろう。
「うん、悪くねーな。」
「そりゃ良かった。しかし、本当にこんなんで金儲け出来んのか?俺には用途がサッパリ分かんねーぞ?」
テツは半信半疑らしい。そりゃそうだろうな。この世界の人間にしてみりゃ、得体のしれない代物だらけだ。
「そうだな。そんじゃ実際にやってみるかな。」
俺は手本を見せるかのようにやってみた。最初は何が行われているのか理解出来てなかったテツも、次第に遊び方・ルールを理解し、気付けば一緒に遊んでいた。元いた世界だったら、いい年した男2人で何やってんだと言われそうだ。気付けば1時間はやり通していた。前世じゃこんなに熱中した事なんてあっただろうか。多分、無いな…
「よっしゃ、上出来だぜテツ。」
「満足行ってくれて何よりだぜ。そんじゃ、そろそろ帰るとするかな。すぐ帰るつもりが長居しちまったな。」
「ああ、年甲斐もなく、つい夢中になっちまったからな。」
「そんじゃ…そうだ、ゲンから伝言だ。」
「ゲンからか?」
「ゲンも試作品が出来たと言ってたぞ。」
「おお、そうか。そっちも出来たか。」
俺はゲンにも制作を頼んでいた。ゲンは印刷所をやってるからな。そっち方面で商品を作ってもらう話をしていた。
それだけ言うとテツは帰っていった。
「さてと、商品作りの方は一通り目途がたったな。問題は、どうやって売り出すかだな…いきなり店先に並べても、売れるとは思えねーし。」
まあ、それに関してはゆっくり考えよう。時間はたっぷりある。しかし…
こっちの世界の人達、人の良い人多いよな。リリーナは得体のしれない俺をいきなり泊めてくれたり、何かと親切してくれるし。マリーは少しお節介な所あって、テツは酒くせーけど、2人共良い人だし…
元の世界じゃこんな良い人達とは出会えなかったろうな。そう思うとこの世界も悪くねーかもな。俺は物思いにふけながら夜を明かした。